DAY 2 (10/16)

ANAホールディングス 片野坂真哉社長が基調講演

Society5.0の実現に向けアバターが不可欠
ANAアバターを社会インフラに


綾瀬はるかさん(右)はタブレット端末を手にアバターの操作に挑戦した

 「CEATEC 2019」の開催初日となる15日、ANAホールディングスの片野坂真哉社長が「ANAアバターの展開」をテーマに基調講演を行った。片野坂社長は、独自開発のコミュニケーション型アバターロボット「newme」(ニューミー)を発表。講演の会場には女優の綾瀬はるかさんもゲストで登場し、アバターの世界を体験した。
 片野坂氏の主な発言は以下の通り。

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 私たちANAホールディングスはきょうこの場で、瞬間移動を発表します。瞬間移動というのは皆さん、フィクションの世界だと思っている方も多いかと思いますが、それは現実になりつつあります。瞬間移動で何が可能になるのか、想像してみてください。
 例えば、南米のアマゾン、あるいは氷のエベレスト、そしてペンギンのいる南極。こういった場所に瞬時に移動して景色を楽しみ、音を聞き、そして風を感じる世界を想像してみてください。これまで十分な医療を受けることができなかった人々のもとに、優れた医師が瞬間的に移動して手術や治療ができる世界を想像してみてください。
 遠くで暮らす家族と急に会いたくなった。その瞬間に自分の実家に移動し「ハイタッチ」したり「ハグ」したりする。宇宙に飛び出して月の上を歩いたりする。そんなことは本当に可能なのでしょうか。答えは「イエス」です。それを実現するのがアバターです。
 始まりは、世界的な賞金レース「Xプライズ」でした。大西洋の無着陸横断飛行といった人類の歴史的な開発と進歩を促してきました。これが賞金レースだったことをヒントに、起業家のピーター・ディアマンディスが設立したものです。
 Xプライズ財団は、グーグルがスポンサーとなった月面無人探査の国際賞金レース、グーグル・ルナーXプライズを運営した非営利団体です。その次の国際賞金レースのテーマを決めるコンペティションでグランプリを獲得したのが、ANAチームが提案しましたANAアバターです。ANAホールディングスは賞金総額10億円をかけて、ANAアバターXプライズを始めました。世界中から81カ国、820のチームが参加を表明しています。
 ではなぜ、ANAがアバターのために技術開発をしているのか。遠隔地にあるアバターに入り込む。視覚や聴覚、触覚といった感覚を共有することで、あたかも自分がその場にいるような体験ができる。その入り込むというアクションを「アバターイン」と名付けました。すなわち、アバターインすることで世界中、どこへでも瞬間移動ができるようになるのです。
 アバターインが世界中で可能になれば、そもそも飛行機はいらないのではないか。お客さまを遠隔地に運ぶ技術がいらないのではないか。なぜそんなにアバターに入れ込むのかという質問をしばしば伺いますが、実は世界中の人口77億人の中で飛行機を利用している方はわずか6%にしかすぎません。94%の人はまだ飛行機を利用されていないのです。また、病気などの身体的な理由で移動が困難な人もいれば、さまざまな社会的なルール、経済的な格差で移動ができない人もいます。そんな人々も含めまして、全ての人類が物理的な制限、身体的な制限も越えて移動しあい、つながりあい、支えあうことができる。こんな世界を叶えることは私たちにとりまして、飛行機を飛ばすことと同じくらい重要なことなのです。
 私たちは67年前に、たった2機のヘリコプターで創業しました。その後、最新鋭のジェット旅客機を次々と導入し、世界中の人と人をつなぐ夢を追い続けてきました。世界をつないで未来に貢献したい。これが、われわれがアバターに力を入れている理由です。


基調講演で多彩なカラーや身長のアバターを紹介するANAHDの片野坂真哉社長

 アバターによってどんな未来が実現できるのか。1つ目はアバターによって、瞬間移動が実現します。世界中のどこへでも宇宙へでも、意識をトランスポーテーションすることで、その場にいるのと同じような体験ができるようになります。
 2つ目は、人は経験やスキルをシェアできるようになります。例えば、離れているアバターが自分と全く同じ動きをして、この触感を自分の手で感じることができる。素晴らしい料理人が自分の腕を、シェフを志す若者に直接伝えることになるでしょう。お医者さんになりたい若者に、世界的な名医が自分のスキルを直接伝えることもできるようになるでしょう。
 自動運転が大変普及してきてますが、アバターによる自動運転の方が先に普及するかもしれません。
 アバターの進化の予想について、紹介したいと思います。2025年までに介護士と同じ動きをするアバターが誕生します。2030年までには、レスキュー隊と同じことができるようになります。災害の場所になかなか人間が近づけない。こういうところにアバターが出かけ、救助活動や復旧活動で活躍すると思います。2040年になりますと、脳からの指示でアバターが動けるようになります。そして2050年には、アバターと自分の差が一切なくなる。つまり、視覚、聴覚、触覚だけではなく、嗅覚や味覚も含めた人間の感覚の全てについて、アバターを通じて全く同じような体験ができるようになります。遠く離れたところにいる自分が、本当の自分になるということです。
 このような世界を実現していくためには、まずはアバターの社会インフラ化が必要です。世界中のあらゆるところに瞬間移動できる環境をつくる必要がありますが、私たちだけではできません。自治体や各方面のディベロッパーの皆さまの協力を得て、アバターがいる街づくりを普及させようと考えています。
 まずは、誰もが気軽にアバターを導入できることが必要と思っております。そういう考え方から生まれたものが、ANAが独自に開発したニューミーです。いかがですか。可愛らしいと思われたでしょうか。これはロボットではありません。ここには人格が生まれ、あなた自身が吹き込まれた新しい私です。人を意識して作っていきますので、大きなニューミーも小さなニューミーもいます。肌触りもソフトな感じです。
 このニューミーを世界中に普及させたいと考えていますが、まずは日本においてこのニューミーがそろった街づくりから始めたいと思います。既に多くのパートナー様がこのプロジェクトに参加し、一緒に開発に努力して頂いております。
 このニューミーを東京オリンピック・パラリンピックが開催される来年に、1000体普及させたいと考えております。インターネットが世界中に普及し社会のあらゆるところに入り込んで生活を変えていくのと同じように、アバター社会がやってくると思います。アバターにこそ、人類の夢、世界を変える力が詰まっているからです。
 このアバターのプラットフォームを来年4月にローンチし、サービス化します。アバターを動かすアプリを使って、世界中の人たちが社会インフラとしてのアバターを使えるようになります。
 経団連が掲げている「Society(ソサエティ)5.0」の実現に向かってアバターは不可欠と思います。アバターによる未来への働きかけと、多様な人々のイマジネーションとクリエーションによって、社会の様々な重要課題を解決していきます。
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ぬいぐるみを「ウェアラブルアバター」を装着した
ANAHDの片野坂真哉社長に手渡す綾瀬はるかさん(左)

 スピーチの後、片野坂氏が女優の綾瀬はるかさんを紹介。すると綾瀬さんがニューミーで現れ、「皆さんこんにちは、綾瀬はるかです」と挨拶した。その後、実際の綾瀬さんが登場すると、場内は拍手に包まれた。
 片野坂氏は綾瀬さんとともに、アバターで実現できる世界も紹介。片野坂氏は、2本の腕を遠隔操作できる「ウェアラブルアバター」を背負って登場。ステージ上にいる客室乗務員がゴーグルとコントローラーをつけ、遠隔版の「二人羽織」のように操ると、綾瀬さんは目を輝かせた。
 感想を問われると綾瀬さんは、「これがどんどん普及したら、いろいろなところにジャンプできそう。皆さんもぜひ、体験していただきたいと思います」と述べた。