DAY 4 (10/18)

AI Summit

DXを実現するAI技術の利活用とその課題

 CEATEC開幕3日目には、AI(人工知能)をテーマにしたパネルディスカッションが開催された。フィリップス・ジャパンの堤浩幸代表取締役、アマゾンジャパンハードライン事業本部の渡部一文バイスプレジデント、東芝の島田太郎執行役常務最高デジタル責任者の3人が登壇。島田執行役常務がモデレーターを務め、AIのメリットや課題、導入・運用のポイントなどについて様々な議論がなされた。
 はじめに登壇者3人がそれぞれ講演を行った。

 フィリップス・ジャパンの堤氏は、「ヘルステックが創り出す未来―社会リーダーシップと生活イノベーション」と題して講演。以下のような内容を述べた。


フィリップス・ジャパン 堤 浩幸社長

 DX(デジタルトランスフォーメーション)はなぜ今やらなければならないか。様々な生活パターンを変える必要があるからだ。DXにより、患者体験の向上や健康の促進などが実現される。
 当社は、医療機器というハードウエアからスタートし、ソリューションに移行した。そしてこれからはインフォマティクスの時代。情報技術をいかに活用するかがヘルスケアの中でも大きな課題でありチャレンジでもある。
 その実践は、きちんとしたインフラがないとできない。閉じたインフラでやろう、閉じたデータでやろうというのは一昔前の話。プラットフォームを共有し、シナジーできる形態を作らなければならない。皆がつながりシナジーを創るのがこれからの課題だ。
 デジタル化によってどういうベネフィットが得られるか。様々なデータはあるが、どうやってそれを解析し正しい道、正しいタイミングで使うかを考えなければならない。
 AIは全体最適化で進めなければならない。個人に合ったアドバイスをし、きちんと導くためのタイミングも大事だ。様々な面でデータを用いて方向性を出すのがフィリップスのAI。当社はアダプティブ・インテリジェンスと呼んでいる。通常の人工知能プラス適用が重要だ。
 AI導入の課題もある。いかにセキュアなデータでいかに価値創造できるか。これが一番のポイントだ。相互運用性、データシェアリングがこれからの課題。クラウドとクラウドがつながらないのは誰も価値創造できない世界になる。
 フィリップスだけでできるとは言わない。エコシステムが大事だ。健康な生活で楽しめるようになる。それが、AIがもたらすことではないか。

 アマゾンジャパンの渡部バイスプレジデントは「地球上で最もお客さまを大切にする」Amazonの変わらぬ経営理念と日々進化し続けるイノベーションと題して講演した。


アマゾンジャパン 渡部一文 バイスプレジデント

 DXの中で気を付けていることは、常にお客さまの利便性向上のために導入するということだ。AIはIT部門や専門家が導入するという考え方をしがちだが、そうではなく、導入部門も教育プロセスも必要。データをゼロベースで作っていった方がいいかもしれないという考え方もある。AIは新入社員と同じで、最初から完璧ということはない。そういうメンバーが1人加わるという考え方を持つ必要がある。
 AIを導入すると仕事がなくなるのではないかというのは間違いだ。人間はAIに仕事を任せて次のステージに行くことが必要で、その覚悟を持たなければならない。AIの導入で常に新しい仕事をやっていくことが求められる。そういう理念を持った人間が開発することでさらに優れたテクノロジーを生み出せる。
 当社の企業理念は地球上で最もお客さまを大切にする企業であることだ。1997年の株主向け書簡には、「お客さまに注力することにこだわり続けます。短期的な利益を求めるのではなく、長期的な視点で投資をします」と書かれている。このあと黒字化するまで8年かかったが、赤字でも長期的に何が必要かを考え開発を続けてきた。
 その結果どうなったか。毎年30%の成長を続けている。30%成長とは3年で倍になるということだ。だからこそ今の成功が数年後には成り立たないという感覚で仕事を続けている。
 例えば「Amazon Go」。カスタマーペインポイントはレジに並ぶことで、それを解決できないかと考えた。人減らしの機械じゃないかと言われたが、店員数は減らしていない。サンドイッチを作るとか商品を並べるとか従業員をたくさん投入している。レジがないだけだ。AIを導入すると表面的なことばかりを見て勘違いすることがある。

 東芝の島田氏は「東芝CPS企業への道」と題して講演した。


東芝 島田太郎常務

 当社のような製造業は、フィジカルの領域で100年以上の歴史を持ち、様々な機器を届けて顧客とのデイリーコンタクトを持っている。しかし、そこにあるデータは皆が活用できるようになっていない。
 サイバーとフィジカルをつなげることで未来につながるのではないか。ハードの強い力に加えソフトウェア、AI、エコシステムを構築することで様々な企業とつながることがこれからは最低条件になってくる。
 AIは基礎技術と応用技術の掛け算でもある。世界の中で光り輝く技術を持っているのであれば、そのドメインにおいて知識は一番になる。これをAIでも強みすることも重要だ。

 講演後に、島田氏がモデレーターとなってディスカッションを行った。

島田氏 「お客さまは神様」と言っていた我々はどこで間違えたのか。

渡部氏 日本の企業はよく言っていましたね。外資系でお客さまと言うことはなかった。どの経営者からも出てこない。一体どこに行ったのかと思っていたが、アマゾンは違う。お客さま第一。アマゾンに勝つという議論はよく出てくるが、我々は誰かに勝つという考えは全然ない。日本企業はそういう眼鏡でアマゾンを見る。すごく違和感を覚える。

堤氏 お客さま第一。昔の医療業界は患者を見ていなかった気がする。今だと患者や健康な人々がお客さまになるという考えだ。

島田氏 お客さまのためと言いつつも、お客さまが変えたくないからそれをやっているだけで、それが本当にお客さまのためになっているのか疑問だ。こうしたらよりよくなるという提案する方が大事ではないか。

渡部氏 アマゾンはカスタマージャーニーとしてお客さまに寄り添うことを重視している。お客さまがどこに時間を使っているかを真摯に見る。サービスありきではなく、具体的にどういうプロセスをお客さまが実行しているかを見ている。

堤氏 だからこそAIが必要ではないか。企業では短期的な視点で見るところがある。短期的なことができているだけでは、それだけで終わってしまう。
 AIはある一定の長さとか一定の範疇で見ていかないと間違ってしまう。部分最適のいいところもやらなければならない。ただ、全体最適を見ることも最終的にはプラスになる。

島田氏 全体最適は以前から言われている。しかし、なぜかできていない。テクノロジーでユーザーの体験を超えさせるアイデアはあるが、お客さまが許さないという現状がある。これをどう変えていくべきか。

渡部氏 労働不足の日本こそAIを率先して導入していくべきだ。心の抵抗を抑えていけばいいのではないか。失敗することに対する恐れが促進させない要因になっている。
 アマゾンは失敗ばかりしてきた。アレクサは当初、携帯に搭載するボイスレコグニション機能だった。それが携帯がうまくいかず、行き場がなくなった。それでリビングに置けばいいのではないかとなり今の姿になった。
 アマゾンのサイトでもたくさん失敗している。アマゾンには失敗の許容度がある。それがあるとずいぶん違う。

堤氏 失敗を許す環境が大事だ。ただし同じ失敗を繰り返すのはダメだ。
 AIでモチベーションが高まればもっといい。我々もDXを理解し、受け止める能力が必要になる。人は確実にどこかに携わる。AIとのバランスを考えていく必要がある。

島田氏 データ共有のようなエコシステムは、なぜいまだにできていないと考えているか。

堤氏 企業のエゴはある。囲い込んでしまう。例えば病院でも情報はサイロ。病院同士が連携できない。
この状況にベネフィットがあるかというと違う。データをシェアリングすることが大事。当社はクラウドに関しオープンクラウドでエコパートナーと一緒に作る場を始めた。サイロな考え方は捨てないといけない。
 また日本だけよくても世界の標準とつながらない。今度は取り残される。AIもクラウドもこういうところを今度から見ていかなければならない。日本からのイノベーションを世界に持っていく活動を考えていくべきだ。

島田氏 世界のデータをすべて集めているのではないかと思われがちなアマゾンはどう思うか。

渡部氏 アマゾンはデータを集めることを志向していない。利便性が高い購入体験をしてもらうための蓄積にすぎない。データを集めようとしているというより、類型化してレコメンデーションとして返すためのエンジンに使っているだけだ。
 一方、得たデータをそのまま取引先に出すとき、個人情報とどう向き合うかが難しいところがある。総合的に見た時のアマゾンの見方と取引先から見た時とのアマゾンが違って見えており、そこが難しい。

島田氏 なぜデータ共有が進まないのか。それをやると売上げが下がるという問題が必ずあるからだと思う。ネガティブに働く問題が根底にあり、全体最適すると部分的に苦しくもなる。皆がwin―winになる方法を見つけなければならない。

堤氏 データが多すぎる。自分が何をやったらいいかわからない。情報が多くなるとコストがかかるのと流出リスクがある。
 データは持ちたい半面、持ちたくもない。個人のデータを自分に還元してもらう。マネージングする会社がこれから出てくるだろう。個人にシェアリングするデータとクラウドなどのセンターに置いてあるデータ。そういうのがあるのではないかと思う。

渡部氏 データを持つことに対する恐れはある。アマゾンで口座を開設するには名前と配送先、クレジットカードのデータが必要だが、それ以上はもらわないようにしている。性別、年齢、家族構成などを聞けば、個人情報をそれだけ持ってしまうことになる。
 購買履歴から想像し、買わなかった情報が膨大にある。これをどうマイニングするかが大事。余計な情報は初めからもらわないようにするのを心掛けている。

堤氏 データのシェアリングでAPIは大事な話になる。クラウドとクラウドがつながらない。人間の行動を変えることが大事ではないか。API開放することに対しては賛成だが、どうやって促進するかは規制を緩和するとかも必要になる。企業ごとの動きを連携するとともに、日本とグローバルを考えていかなければならない。

島田氏 理論と実践が重要。成果を実践として見せていく。

渡部氏 購買のレコメンデーションの中に生かすということを個人で選べるようにすればいい。プラスアルファでデータを入力することでレコメンデーションの内容も変わってくる。

島田氏 AIだけをみているよりも、周辺コネクションを考えていく方が重要。テクノロジーだけ見ていてもしようがない。

渡部氏 AIはツールと見ていて、5年経ったらAIが当たり前で、だれもコンファレンスなどは開かなくなる。AIで勝負しようという人は今かなと思う。
 ツールとしては、AIは完璧ではない。受け入れ側にアダプションさせる。使えなくてもいいからまずはやれと言う。それでツールの悪いところをフィードバックするプロセスを作る。それをいかに早くするか。それによりツールのインプルーブメントができる。
 そしてマネジメントがレビューし続ける。使えないという声を拾い上げる。それでメカニズムを知ることになる。

堤氏 AIはツール。イノベーションのきっかけだ。私は3年先にはAIはないのではないかと考えている。当たり前のように入ってくる。アダプティブ・インテリジェンスであって欲しい。適用力を考えていくことが大事じゃないか。ゼロセッティングも一理ある。
 莫大な解析をするところにAIを導入すると、それは違うところに行ってしまうのではないか。