企業・高専OB/OGに聞く 紙面 12面

金属3Dプリンター技術で宇宙を支える

愛知産業|溶接の知見を生かしロケット部品開発を支援

数メートルの造形も可能なワイヤアーク式造形設備
数メートルの造形も可能なワイヤアーク式造形設備

2027年に創業100年を迎える愛知産業(東京都品川区)は、創業以来培ってきた溶接技術の知見を金属3Dプリンター(AM=Additive Manufacturing)に応用し、ロケット関連部品の開発を支えている。海外の先端装置の輸入販売だけでなく、顧客の要望に応えた製品開発の支援が強みだ。独自に研究開発してきた材料に応じた造形条件と精密加工の技術は難度の高い製品や部品の開発にも対応でき、さまざまな先端開発の依頼を受けている。航空宇宙業界からも注目され、ロケット関連部品の開発支援につながっている。

愛知産業はベルギーからの溶接棒の輸入を起点に、溶接、切断、切削、特殊溶接など、海外の金属加工周辺の装置の輸入販売から技術支援までを総合的に行っている。同社の強みは、企業の要望に合わせて装置を最適化していく技術支援力だ。先進機能部先進システム課課長の日比裕基氏は「単なる輸入商社ではなく技術商社という位置付けで、顧客の技術支援をしている」と話す。

顧客と一体で開発支援

企業の生産ラインは各社が工程に合わせて構築しているため、工作機械などはメーカーから機器を仕入れて納入するだけでは動かすことができない。そのため納入先に合わせたシステム設計や仕様変更が必要で、同社は顧客の要望を聞きながら実際の生産工程で最適に稼働できる装置を仕立てる技術を磨いている。

企業の新製品や新技術の開発を支援するケースもある。新技術開発推進部副部長の木寺正晃氏は「企業の最先端開発に関わることも多い」という。新規開発品を生産ラインに乗せるまでの試作に携わることもあり、同社エンジニアが技術支援することで実際の製品化に結び付けている事例も豊富だ。

中核事業として進めてきた溶接はさまざまな金属を溶かして接合するため、材料の選定も重要になり、長年、接合のための技術知見を蓄積してきた。創業時の溶接棒は戦艦大和にも使用された歴史を持つ。

小型から大型造形まで対応

金属AMに参入したのは2011年になる。「金属3Dプリンターという言葉が一般化する前から取り組み始めた」(木寺氏)という。粉末を吹き付けてレーザーで溶かし積層する方式や、溶接ワイヤをロボットで積み上げる方式など、用途に応じた複数のAM技術がある。AMは金属を溶かし造形するため、長年培ってきた溶接技術と親和性が高い。木寺氏が中心となり、世界の最先端のAM技術を日本に持ち込んだ。

3Dプリンター事業に参入する企業は3Dモデリングなどから入るケースが多いが、同社は溶接から入っているため、材料ごとのレーザー条件、パラメーター、造形条件の開発に強みがある。小規模造形から始まり、現在は大型造形にも取り組み、10社のAMメーカーの機器を取り扱っている。

溶接と同様にAMも材料選定やレーザーの当て方などを細かく調整しなければ、品質の高い製品は生産できない。AMでの製品開発が普及するとともに、早くから取り扱い技術知見を積み上げてきた同社への引き合いも増え、大手メーカーのガスタービン部品の研究開発や、エンジン関連部品の開発にも関わってきた。

同社相模原事業所には、AM関連設備を持ち、装置販売に加え、ベンチマークや試作、材料に応じたレーザー条件の開発なども進めている。木寺氏は「メーカーと一緒になり製品試作の支援から取り組んでいる実績もあり、AMを使った開発の際に当社に声がかかるようになってきた」と話す。

特許技術で燃焼器開発

SUIHO SPACE INNOVATIONSと開発しているロケットエンジンの燃焼室
SUIHO SPACE INNOVATIONSと開発しているロケットエンジンの燃焼室

宇宙関連との関わりもこうした積み重ねから生まれた。宇宙分野では、ロケットエンジンの燃焼器など、複雑な内部構造や高い耐熱性、軽量化が求められる部品でAMの活用が進む。同社は材料や造形条件を作り込む技術力を生かし、航空宇宙関連企業の開発を支援している。現在はロケットエンジンを開発するスタートアップのSUIHO SPACE INNOVATIONSとの連携を進め、ロケットエンジンの燃焼室やヘッド部品の造形を金属AMで支援する。

燃焼器は複雑な形状のため、材料ごとの造形条件やレーザー条件を作り込む技術が求められる。日比氏は

「当社が培ってきた溶接・材料・造形条件の知見が生かせる」とみる。燃焼器には熱伝導性などに優れるC18150銅合金が使われるが、同社は同銅合金の金属AM加工に関する独自の特許技術を活用している。

大型AMの分野では、将来宇宙輸送システム(ISC)、WAAM3D、クランフィールド大学と連携し、宇宙輸送機の推進薬タンクの製造に取り組む。溶接ワイヤを積み上げる技術を生かし宇宙輸送機の推進薬タンクを試作し2025年に耐圧・気密試験を行うなど大型部品の製造技術開発に関わっている。

同社は約150人の従業員のうち、約60人が相模原事業所で開発製造に携わる。AM関連のエンジニアは十数人規模。企業の要望に合わせた技術支援を行っており、最先端技術に触れながら顧客の難題に応えている。愛知産業の宇宙への挑戦は続く。

働く人に聞く

最先端技術に触れながら学ぶ

木寺正晃氏
新技術開発推進部 副部長 木寺正晃氏

木寺氏当社は技術が好きな人にとって非常に面白い環境だと思います。これまで多くの企業の最先端技術協力をしてきています。NDA(機密保持契約)の関係で話せないことが多いのが心苦しいですが、ほかでは触れられない最新技術に触れられます。金属AMを学ぶ環境はなかなかありませんが当社で体感し学ぶこともできます。自分で考え、計画して動ける人は、さまざまな仕事に挑戦できます。

メーカーの難題に応える面白さ

日比裕基氏
先進機能部 先進システム課 課長 日比裕基氏

日比氏大企業と違い、決まったマニュアルに沿う仕事ではなく、新しい技術や新しい課題に向き合う仕事が中心になっています。「難しいものなら愛知産業ができるかもしれない」という相談も来ますので、どう応えていくか考えるところに面白さがあります。冒険心や好奇心のある人はとてもやりがいがある仕事だと思います。

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