まず読みたい 紙面 03面
宇宙産業の歴史 国主導の宇宙開発から民間・スタートアップへ
国家プロジェクトから、高専生の技術が生きる現場へ

宇宙開発は、国家が威信をかけて挑む巨大プロジェクトから、通信、防災、農業、環境、製造など、さまざまな産業と結び付き、社会を支える産業に変わりつつある。かつては国家機関や大手メーカーといった限られた人たちの取り組みだった宇宙開発は、今や多様な技術を使って社会課題の解決に向かう身近な存在になってきた。宇宙産業の歴史をひもとくと、特別な存在から幅広い技術者が関われる産業への変遷が見えてくる。まさしく高専生が学ぶ技術の延長線上にある産業が宇宙になってきたといえる。宇宙開発の歴史から現在の技術の広がりに迫った。
技術者目線で見る
宇宙産業の歩み
小さな実験から、高専生が関わる衛星開発へ
1955年
日本で「ペンシルロケット」公開発射
全長23cmの小さなロケットから日本の宇宙開発が始まった。小さく作り、試し、データを取り、改良する姿勢は高専のものづくりにも通じる。
1957年
ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げ
世界の宇宙時代が幕を開けた。宇宙開発は国家の技術力を示す巨大プロジェクトへと広がった。
1970年
日本初の人工衛星「おおすみ」打ち上げ
衛星は構造、通信、計測、電源などの技術の集合体。宇宙を飛ぶ精密機械として、技術者の力が問われる時代に。
2010年
小惑星探査機「はやぶさ」帰還
制御、通信、ソフトウエア、電源、材料、品質など、総合的な技術力が成果につながった。
2015年〜
JAXAの革新的衛星技術実証プログラム
大学、研究機関、民間企業などに宇宙実証の機会が広がり、宇宙を産業として捉える素地が整い始めた。
2021年
高専衛星「KOSEN-1」打ち上げ
高専生が衛星開発やソフト開発に関わる時代へ。宇宙は限られた専門家だけのものではなくなりつつある。
現在
「KOSEN-2R」打ち上げ、「KOSEN-3」開発中
高専生が衛星開発から地上局運用まで関われるようになり、宇宙が身近なフィールドになってきた。
宇宙産業の歴史は、夢のような遠い世界から“技術者の仕事場”へと近づいてきた歴史ともいえる。何もわからない空の彼方の世界を知るために「宇宙へ行く」ことを目指した人類の夢は、宇宙を使って情報を得るために「衛星を動かす」プロジェクトに広がった。
宇宙からの情報収集ができるようになると、地上で起こるさまざまな課題を解決するために「宇宙を使う」ことを模索。今は気象や災害、農業、環境など、幅広い領域で宇宙からの情報が使われるようになってきた。そしてこれからは宇宙を「産業にする」ことが大きな命題になってきている。宇宙に関わる入り口が広がる中、宇宙ビジネスは次の成長領域として注目されている。
小さな実験が大きな宇宙へ
ではどのようにして宇宙の扉は開いたのだろうか。その始まりは、1957年のスプートニク1号にさかのぼる。ソビエト連邦が世界で初めて打ち上げた人工衛星だ。その後は、米国とソ連の宇宙開発競争に発展し、軍事・技術・科学に大きな発展をもたらした。
一方、日本の宇宙開発の原点は、糸川英夫博士(東京大学教授)を中心に開発された全長23㎝の超小型ロケット「ペンシルロケット」だろう。スプートニク1号の打ち上げの2年前の1955年に公開発射された。超小型ロケットはコストを抑え何度も実験ができ、そこで得られたさまざまなデータは、後の本格的な飛翔実験や日本の固体ロケット開発につながっていった。日本の宇宙開発も小さな実験とデータ取りから始まったのだ。
スプートニクの打ち上げから13年たった1970年、日本初の人工衛星「おおすみ」が打ち上げられた。テレメータ送信機やビーコン送信機、電池などを搭載していた。人工衛星は、構造体だけでなく、通信や計測、電源といった技術の集合体だ。まさしく宇宙を飛ぶ精密機械であり、通信機器であり、センサーであり、コンピューターであり、データを生み出す社会インフラへと発展していったといえる。
日本の技術力で世界を魅了したのは、宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構=JAXA)が打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」だろう。イオンエンジンの実証を行いながら小惑星イトカワへ到達。サンプルを採集し60億kmの旅を終え地球に帰還した。月以外の天体にタッチダウン(着陸)してサンプルを持ち帰ることに世界で初めて成功した。制御、通信、ソフトウエア、電源、材料、品質など、技術者の総合力がなければ実現できないものだった。
超小型衛星が宇宙を身近に
こうした高度な宇宙技術の蓄積と、電子部品の小型化や衛星の標準化、宇宙実証機会の拡大により、衛星開発は新たな段階に入った。現在は衛星開発の小型化が進んでいる。超小型衛星の一種であるCubeSat(キューブサット)の普及は、従来の国家や大企業による衛星開発の裾野を広げた。
2015年から実施されてきたJAXAの革新的衛星技術実証プログラムも、大学や研究機関、民間企業などへの宇宙実証の機会を提供し、新規企業の参入障壁も下げてきた。こうした流れは、宇宙を産業として捉える素地を整えてきているといえる。
さらに小型衛星で忘れてはいけないのが高専衛星「KOSEN」シリーズだろう。国立高専で初めて開発した人工衛星「KOSEN-1」は、2年半かけて開発し2021年に打ち上げられた。衛星の心臓部は市販のマイコンボードを使い、多くの高専生がソフト開発に携わった。高専衛星は「KOSEN-2R」も打ち上げられており、現在は「KOSEN-3」も開発中だ。高専生が衛星開発から地上局運用まで関われるようになったことは、宇宙をより身近に感じる上で外せない事例だろう。
宇宙産業が身近になったのは、エンジニアらの技術開発の積み重ねがあったからだ。宇宙開発は、もはや限られた専門家だけのものではなく、高専生が学ぶ技術が基礎となり、既に宇宙に届こうとしている。