スペシャル対談 紙面 04-05面
宇宙産業は高専生を必要としている
中島理事長×中須賀教授 宇宙研究を先導する2人に聞く
今、宇宙産業は大きな転換期を迎えている。宇宙開発は各国が注目する領域であり、ここで期待がかかるのが高等専門学校だ。高専教育は今の宇宙産業が求めている人材との親和性が高い。超小型人工衛星開発の第一人者でもある中須賀真一氏(前東京大学航空宇宙工学専攻教授、現立命館大学総合科学技術研究機構教授)は「宇宙産業に高専生の力が必要」と力を込める。今回、中須賀教授と今年4月に国立高等専門学校機構理事長に就任した中島英治氏とのスペシャル対談を企画し、高専生にとっての宇宙産業の可能性を探った。
──宇宙産業への注目度が高まっていますが現状をどのようにみていますか。
中須賀宇宙開発は現在、国も民間も双方で元気になっています。日本政府の宇宙予算は数年前の4000億円規模から、今年は1兆円を超える水準になっています。政府が宇宙をさまざまな用途に本気で使い、宇宙を将来の基幹産業に育てようとしている表れだと思っています。自動車や鉄鋼、半導体などの既存の基幹産業の先行きが不透明な中、宇宙に投資する動きは強まっていると感じます。

宇宙は衛星やロケットを作るだけではありません。地球観測衛星ALOSは合成開口レーダーで天候や昼夜問わず地表の状態を把握できますし、準天頂衛星「みちびき」は超高精度測位により自動走行にも対応できます。
同時に民間ではスタートアップによる宇宙開発が成長しています。従来は政府が民間に資金を出し衛星やロケットを作らせて成果を政府が使う形でしたが、今は民間がベンチャーキャピタルから資金を受け、自ら技術やサービスを育て、良いものができれば政府がサービスを購入する流れに変わってきています。
──宇宙産業が成長している中、課題はあるのでしょうか。
圧倒的な人材不足
中須賀圧倒的な人材不足です。宇宙予算が2.5倍、3倍と増えても、人材は急に2.5倍にはなりません。スタートアップも人材が足りておらず、海外の人材を使わざるを得ない状況になっています。宇宙人材は、衛星やロケットを作る「アップストリーム」人材と、宇宙を使ってビジネスを行う「ダウンストリーム」人材に分けられます。
アップストリームでは、ミッションに応じてどう衛星やロケットを設計するかを考えるシステム設計人材をはじめ、実際に製作できる人材が足りていません。ダウンストリームでは、エネルギー、食糧、防災など、社会課題を宇宙で解こうと発想し事業化できる人材やファイナンス、国際連携ができる人材が不足していますね。
中島今のお話を聞いていて、まさしく高専の人材が最適なのではないかと思いました。高専教育は大学のように理論を教えてから研究に向かうスタイルとは逆で、とにかく実践を先に行います。まずは体験し、そこから「なぜ、そうなるか」を考え、理論化し、さらに高度な実験に進みます。この繰り返しの中で手が先に動く人材が育ちます。

高専には流体力学、電気、材料などの基本があり、60年以上の伝統の中で基礎をつくり上げています。その上に半導体や宇宙など、時代ごとのテーマが重なってきます。高専はその時代ごとに必要とされる実践的なテーマを目指せるところも特徴ですから、宇宙という大きなテーマでも、これまでの基礎を積み上げていけば人材は育てられると感じました。
中須賀今こそ高専出身の人材が本当に必要だと思います。私が研究を続けてきた中でも研究室のエースは高専出身者が非常に多いです。ものづくりだけでなく研究もできる人材を育てていますから、高専には大いに期待しています。
──これだけ人材不足になっている要因はどこにあるのでしょうか。少子高齢化が原因なのでしょうか。それとも世界と比較して日本に優秀な人材がいないということでしょうか。
中須賀日本に能力ある人材がいないわけではありません。機械や電気などの基礎を持つ人は多いですが、宇宙の難しいプロジェクトを大学や高専で経験し、実践的に成長する機会が日本には十分にないとみています。私たちの力不足ともいえるかもしれません。
中島日本には50校余りの高専があり、1学年で約1万人、全体で約5万人の技術系学生がいます。宇宙学科をつくるよりも、機械や電気などの基本的な学科の上に宇宙に関わるプログラムを重ねることで宇宙人材をつくれると思います。
──宇宙といえばロケット、人工衛星とイメージする人もまだ多いです。「自分の学科やコースが宇宙に関わっているとは思ってもいなかった」と感じている学生もいます。
9割は宇宙を利用する産業
中須賀宇宙は最後のアプリケーション分野で、電子、機械、材料、情報など多様な分野を集め、インテグレーション(統合)するところに特徴があります。宇宙だけをやっていればよいのではなく、いろいろな分野に強い人材がいることが前提になります。
実際、民間需要の中で、宇宙産業の衛星製造やロケット製造は8%程度で、残りの92%は宇宙を利用する産業と言われています。地球観測画像を使った社会課題解決、準天頂衛星の高精度測位を使った自動走行やスマート農業などに広がっていきます。衛星やロケットだけでなく、社会課題を宇宙でどう解決するかというマインドを持つ人材を育てたいですね。
中島社会に課題や不満があることが解決への動機になります。宇宙産業の大半が利用側であることは学生の新たな気付きにもなりそうです。高専ではアントレプレナーシップ教育(起業家が持つ精神と起業家の資質や能力を育成する教育)も大事にしています。起業家になるには、一つの専門だけではなく、経済、仕事の進め方、法律など幅広い知識が必要です。技術や科学の方向性とアントレプレナーシップを合わせる形で育てていきたいと考えています。
中須賀従来の宇宙企業は新しいことに投資しにくい面がありますから、新しい挑戦をするにはスタートアップが重要になります。多少失敗してもよいという気持ちで新しいことに挑戦する姿勢が必要です。高専でアントレプレナーシップ教育を大事にしていることは素晴らしいことですね。
──高専では2011年から小型衛星開発を目的に宇宙人材育成プロジェクトを始め、KOSEN衛星開発を続けるとともに、26年度から「宇宙システム利活用人材育成特別課程」がスタートしました。新居浜高専が主導し全国高専で単位取得できます。
学生主体の取り組みが高専の強み
中島大学教育に長く関わってきた立場から見ると、高専教育には大きな可能性を感じています。全国の高専で毎年1万人の技術者を育てようとしている中で、それぞれの高専が強みを持った取り組みもしています。高知高専や新居浜高専のように宇宙に取り組む高専が出てきていることはとても重要です。各高専が得意分野を持ち前面に出していくことが、学生にとって魅力になるでしょう。
宇宙は、失敗を許されない、とても高い完成度が必要な世界です。高専だけでなく、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学、国際的な機関との連携も必要になりますので、こうした連携を楽しめる若者を育てることも課題になりますね。
中須賀2003年に東京大学と東京工業大学(現東京科学大学)が世界初の1kg衛星を開発し打ち上げました。当時は「学生がそんな小さな衛星を作っても動くわけがない」と揶や揄ゆされましたが、秋葉原で買い集めた部品で作った衛星は20年たった今も軌道上で動いています。これが超小型衛星の普及のきっかけになり宇宙の民主化に貢献したと自負しています。
私がこれまで衛星を16基製作し打ち上げる中で意識してきたのは、作る土台は用意するが教員が引っ張らないことでした。学生に全部任せ、教員は時々入って手伝う程度です。ただ、手伝うときに楽しそうにやっている姿が学生のモチベーションになります。学生に意思決定させ責任を持たせました。
衛星開発に継続支援を
中島高専のロボコンやDCONは、基本的に学生が主体になって取り組みます。高専の教員はサポートに徹し、学生が徹底的にやるからリーダー的な力も身に付くのでしょうね。
中須賀大学では教員が主導しがちな場面も多いですが、高専のロボコンなどは学生主体で徹底的に取り組みます。ロボコン経験者はリーダーシップ、システム設計、プロジェクトマネジメントができます。非常に優れた教育で、ものづくりに直結する力になっていると感じています。
あわせて衛星開発も重要だと思っています。KOSEN衛星開発はKOSEN-1に始まり、現在はKOSEN-3の開発を進めています。この取り組みは継続してほしいですね。高専で作る衛星をシリーズ化し継続的に打ち上げていけば学生は大きく伸び、即戦力がさらに出てきます。そのためには予算措置が必要ですし、国にも衛星作りや打ち上げ費用を継続的に支援してほしいと思っています。
中島政府が成長分野に投資する中では、宇宙も重要分野に入ってきます。個別機関に小さく予算を割り振るだけでなく、大きな裾野を持つプロジェクトに高専メンバーが入り、大学や研究者と一緒に取り組める形になれば学生にとって大きな励みになると思います。
──高専の学生は、就職か進学かで迷う人も多いと聞きます。
中須賀一つに絞る必要もないですし、人それぞれの素質、考え方、性格によってバラエティーがあってよいと思います。大学院の博士まで進み企業の衛星作りで活躍する人もいますし、アカデミアに残る人もいます。高専から企業で即戦力として働く道もあります。人に合った道があります。
最近は、一度就職した後に、もっと勉強したいと大学に戻ってくる人も多いです。5年生の時点での選択が一生を決める唯一の選択ではないですから、その時に自分が一番やりたいこと、自分に合うと思うことを選べばよいのではないでしょうか。
──高専生の皆さんへのメッセージをお願いします。
やりたいことを徹底的に
中須賀まずはやりたい技術を徹底的に身に付け、爆発させてほしいです。その技術を使って、どんな社会課題を解決できるかを考え、学んだ技術を社会で使う目を持ってほしいです。宇宙産業は人が足りないので高専生を待っています。周囲に「受験の邪魔になるから駄目」と言われても、やりたいことを徹底的にやってほしいです。
中島挑戦的な環境に飛び込み世界を見て成長してほしいと思います。サッカー日本代表は、ワールドカップ2026の決勝トーナメント1回戦でブラジルに惜敗しましたが、かつてとは比べ物にならないほど強くなっています。背景には日本国内だけでなく海外の一級の環境で経験を積み、心血を注いでサッカーに集中していることがあると思います。ぜひ、広い視野でチャレンジをしてほしいですね。
私は2026年4月から理事長に就任しました。現在、教育研究のさらなる充実のために、一層の投資が必要です。学生を成長させるには、教員が力を発揮できる環境が必要ですので、本来教員がやるべきことに集中できる環境をつくっていけるようにしたいと考えています。