高専から宇宙へ 紙面 14-15面
高専から宇宙へ
KOSEN衛星開発の挑戦から、宇宙を使い社会課題解決を学ぶ人材育成へ
国立高等専門学校が宇宙に本格的に目を向けたのは2011年のことだった。高知工業高等専門学校の今井一雅教授(現客員教授)の働きかけでスタートしたコンソーシアム「高専スペース連携」が始まりだ。小さなメーリングリストから始まった活動は、超小型人工衛星の開発に向けた宇宙人材育成事業として国の補助を受け本格化。全国の高専とも連携し人材育成プログラムとして発展してきた。宇宙への挑戦を始めて15年がたった2026年度、全国高専初となる「宇宙システム利活用人材育成特別課程」の開講につながった。高専から宇宙人材を輩出したい―。先生らの願いは今、次のステージに入った。15年の軌跡を追った。
今井一雅先生の記事を読む →高専スペース連携は、宇宙関連の研究分野を持つ高専教員によるコンソーシアムで、現在27高専41人が参加している。「高専で人工衛星を開発したい」という壮大な夢は、当時、小型衛星「CubeSat」が登場し、それまでの国家や大企業が中心だった宇宙開発や衛星開発が小規模、低予算でも取り組めるようになったことも後押しした。
高専は15歳から5年間の本科コース、その先の専攻科も含めると7年間の一貫教育ができ、実際に手を動かしながら学ぶ「ものづくり教育」が大きな特徴だ。衛星開発は中長期的な開発が必要になるため、高専教育との親和性も高い。2014年に文部科学省の宇宙人材育成関連事業に採択されたことが大きな転機となり、本格的な人工衛星開発と人材育成に向けた取り組みが始まった。
ただ、教員側に衛星開発への実経験が十分にあったわけではない。宇宙人材育成といっても決して知見が多いわけではない中での活動となった。こうした課題を解決していく一つの教育プログラムが合宿型の「高専スペースキャンプ」だ。高専生を「宇宙」というテーマでつなぐ取り組みとして15年にスタートした。当初はモデルロケット、缶サット、衛星モデルなど、高専生が比較的手近に取り組める教材を用いたものづくり型の合宿だった。
合宿は3泊4日で、模型や実験装置を作り実証してきたが、17年からは、スペースキャンプの予習的な位置付けで、遠隔講座「高専スペースアカデミア」を開講した。その後は、実際の衛星に近いモデルCubeSatを教材として開発し、遠隔講座を行う流れもつくった。
学生が実際の衛星開発にすぐに取り組むのは難易度が高いということもあり、21年には学生に衛星ミッションを考えてもらう場として「全国高専宇宙コンテスト」もスタートした。
KOSEN衛星への挑戦

14年から本格的に始まった宇宙人材育成プログラムで欠かせないのがKOSEN衛星プロジェクトだ。現在、KOSEN衛星は実際に宇宙で稼働している。
その原点ともなるのが21年に打ち上げた国立高専が連携して開発した初の人工衛星「KOSEN-1」になる。高知高専を中心に全国10高専が参加し、各校の得意分野を持ち寄って開発を進めた。高知高専・今井客員教授は「全国の高専が連携することで開発できた」と振り返る。
KOSEN-1に続く高専連携衛星として開発したKOSEN-2は宇宙から海洋観測データを集める仕組みの実証を目指した。KOSEN-2は搭載したロケット「イプシロン6号機」の打ち上げ失敗により宇宙に到達できなかったが、その後同じミッションを継続し、再設計し改良を加えたのがKOSEN-2Rだ。衛星通信や指向性アンテナ、姿勢制御、海洋データ収集などをテーマに、米子高専や群馬高専などが中心に開発を進めた。26年4月、JAXA革新的衛星技術実証4号機の一つとして打ち上げられ軌道投入に成功。2Rは衛星を作ることから、データ収集なども目的にしたことで宇宙を使う方向まで広げた。
現在はKOSEN-3の開発を進める。KOSEN-1、KOSEN-2/2Rに続くプロジェクトで、香川高専、明石高専を中心に複数の高専と大学が参加し、次世代CubeSatの技術実証を目指している。小型衛星を継続的に開発していくことで知見が蓄積され、より高度な衛星開発につなげられるようになる。今井氏は「衛星開発を継続していくことが重要だ」と強調し、衛星開発に携わる学生をさらに増やしていきたい考えを持つ。
宇宙を「つくる」から「使う」へ
11年から始まった高専の宇宙への挑戦は、人工衛星の開発という目標を達成しつつ、宇宙人材育成を実践してきている。コロナ禍より以前から全国に散らばる宇宙に関心のある高専生に対してオンラインを積極活用することで、場所にとらわれずに活動できるようにした。
超小型人工衛星の開発を目標に始まった人材育成プログラムは、宇宙産業を取り巻く環境が変化する中で、次のステージに入りつつある。高専教育と親和性の高い衛星開発を継続しながらも、宇宙システムや衛星データをどのように利用するかが課題になってきている。
新居浜工業高等専門学校の若林誠准教授は「幅広いバックグラウンドを持つ人材が宇宙産業に求められるようになってきている」と指摘する。これからは社会課題などに対して宇宙を含めた広い視野で解決方法を検討できる人材が必要になるのだ。
こうした課題を解決できる人材育成を目指すのが、26年度に開講した「宇宙システム利活用人材育成特別課程」になる。これまで培ってきた宇宙人材育成に関する知見を生かした特別課程は、宇宙人材育成に携わってきた教員らの悲願でもあった。宇宙を「使う」ことも視野に入れた講座は、裾野が広がる宇宙産業に必要となる社会課題を解決できる人材育成に力点を置く。15年にわたる蓄積は特別課程の開講で新たな段階に入った。
