安心して使えるモバイルバッテリー市場へ

GL-015策定メンバーに聞く意義と今後

 モバイルバッテリーの発火事故を防ぎたい―。

 モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)のモバイル機器安全推進委員会のメンバーらは、業界全体で安全性を高めていくことを目指し議論を進めてきた。

 MCPCでは、これまでもACアダプターやUSBコネクターといった充電に関する安全評価やガイドライン作成に取り組んできたが、この数年でモバイルバッテリーの事故が急増していることから、2025年9月ごろから本格的な議論を始めたという。

 モバイルバッテリーの発火事故は、製品不良の場合はもちろんのこと、誤った使い方が起因となり発生していることもある。メーカー側の取り組みだけでなく、正しい使い方の周知などもあわせて進めていく必要がある中、MCPCには通信事業者から端末メーカー、バッテリーや充電器メーカー、評価に携わる企業が関わっているため、多角的に事故防止に向けた指針が出せると考えた。

なぜ新しいガイドラインが必要か

 ここでは、「モバイルバッテリー安全性・品質ガイドライン(GL-015)」策定に関わってきたモバイル機器安全推進委員会のメンバーに、ガイドライン策定について聞き、その意義と今後の見通しについて探りたい。

事故増加を受け業界横断で議論

―今回、ガイドラインを作った理由について教えてください。

木村文紀委員長

木村文紀委員長 MCPCではこれまでも充電機器やUSB周辺機器に関する認証制度やガイドラインを作ってきました。関係企業が集まり議論をする中で、モバイルバッテリーの事故増加が共通の課題として認識するようになりました。電気用品安全法(PSE)マークがついている製品での事故も起こる状況に対し、法令適合だけでなく、製造や品質管理を含めMCPCとして取り組めることがないかと考えGL-015の策定を始めました。

―策定を決めた時期はいつごろからでしょうか。

桑田卓哉副委員長

桑田卓哉副委員長 2025年9月ごろからです。市場での事故が相次ぎ、大手メーカーの製品でも事故が起こっており、消費者からも「どの製品を選べばよいのかわからない」といった声が挙がっていました。経済産業省からの要請もありました。これまでモバイルバッテリーの安全性を業界が横断して議論する組織が存在しなかったことから、MCPCで取り組む意義は大きいと感じました。

―ガイドライン策定に当たって気を付けた点はありますか。

桑田副委員長 電気用品安全法(PSE)の適合を前提にそれとは別の形で、製造工程や品質管理、表示や取扱説明、アフターサービス、事故発生時の対応などを確認できるようにしました。モバイルバッテリーのベンダー各社に個別にヒアリングし、実際の事業や製造の実態を踏まえて項目を整理しました。

製品試験だけでは見えない製造現場

―日本メーカーや海外メーカーの違いや、工場によっても製造環境は大きく違います。委員会には製造現場を熟知した委員もいらっしゃいますが、どのように現状をみていますか。

山田陽士委員

山田陽士委員 メーカーとして海外の製造現場を長年見てきた経験から主に製造品質の観点でガイドライン策定に関わってきました。現状、モバイルバッテリーの製造は中国をはじめ、海外で行われることが多いです。生産国の政策や規制の違い、原材料や部材の調達状況、仕向け地ごとの品質管理も、それぞれ異なります。

また、書面などでは製造ルールを守ることになっていても、実際に工場へ行くと決められた管理や作業が徹底されていないこともあります。その管理の不備が、品質に問題のある製品の市場流出につながっているとみています。GL-015にはブランドやスペックではわからない、製造品質の管理監督という観点が盛り込まれていますので、こうした課題を解決する一助になると感じています。

バッテリー、充電器双方からの議論

―委員会では、GL-015の策定に加え、充電器側から事故を防ぐための技術的な議論も進めていますね。

黒田謙一委員

黒田謙一委員 当社はバッテリーではなく充電器メーカーになりますので、充電器側から見た安全性を考えています。充電器はスマートフォンやパソコンなどのバッテリーに給電するため、安全性と密接に関わっています。充電器の役割は、安全性を確保した上で、より高速に充電すること、電池への負担を抑えること、電池寿命を延ばすことなどです。

充電器が接続された端末や電池の状態を確認し、状態に応じて電力を制御することで「やさしい充電」ができるようになります。バッテリー側と充電器側が別々に安全性を考えるのではなく双方が協力することで安全性と利便性を同時に高められるとみています。

冨田泰弘委員

冨田泰弘委員 従来の充電では、バッテリー内部に劣化や損傷があっても、それが外部から検知されない場合には、あらかじめ設定されたアルゴリズムで充電が行われ、保護部品などによって異常を防ぐ考え方が中心でした。これからは異常が起きた後に保護回路で止めるだけでなく、そもそも電池に無理な負荷を与えず、劣化や発熱の原因を抑える上流側での対策も必要だとみています。委員会活動を通じて速やかに技術開発にフィードバックしていけると思っています。

自己適合宣言制度を採用

―今回、認証ではなく自己適合宣言制度とした理由について教えてください。

木村委員長 モバイルバッテリーは製品サイクルが短い上、単価も安いです。当初は認証制度も検討しましたが、第三者認証にすると取得までの時間と費用がかかります。制度参加のハードルを上げすぎると、事業者に利用されなくなってしまいます。そこで、自己適合宣言として、できるだけ早く、低い負担で安全性と品質の底上げにつなげることを優先しました。

山田委員 実際、通常の品質管理を適切に行っている企業であれば、GL-015への自己適合宣言は極端に難しいものではないと思います。特別なことを新たに始めるというよりは、事業者が日常的に行っている品質管理を確認し文書として示す性格が強いですね。

―MCPCでは安全評価なども行ってきていましたが、違いはどこにあるのでしょうか。

小熊堅司特別参与

小熊堅司特別参与 MCPCでは約10年前からACアダプターやUSBコネクターについて、短絡などが起きた場合に重大な事故に至らないようにする安全評価制度を運用してきました。従来の評価は、主にUSB周辺の回路設計や端子部分など、機器側の設計品質を対象としてきました。

一方の近年のモバイルバッテリー事故の原因を探ると、USB周辺だけでなく、バッテリーセルそのものの品質やセルの選定、バッテリーパックとしての管理、製造工程やサプライヤー管理なども見ていく必要があることがわかります。ただ、バッテリーセルや製造管理まで第三者認証で確認すると費用が非常に高額になる課題があります。そこで、今回は事業者が参加しやすい自己適合宣言を基本とし、必要に応じて市場製品を技術的に確認する方式が現実的だと判断しました。

「もともと安全な製品を安全に使ってもらう」

―モバイルバッテリーは、製品の品質だけでなく、落下など、使い方によっても事故が起こります。スマートフォンでは落下や耐久性を想定した試験が行われていますが、モバイルバッテリーとの違いはどこにあるのでしょうか。

木村委員長 スマートフォンとモバイルバッテリーには同じリチウムイオン電池が使われていますが、完成品として行われる試験に大きな差があります。スマートフォンは、開発時に落下や耐久性を含めて厳しい試験を行い、繰り返し落とされることも想定しています。

一方のモバイルバッテリーはスマホほどの落下を前提に設計・評価されていない製品もあります。したがって、適合マークが付いていても、落下や強い衝撃を受けた後まで安全が保証されるわけではありません。「もともと安全な製品を安全に使ってもらう」という考え方を広めていきたいと考えています。

―GL-015をこの先どのように展開していきますか。

木村文紀委員長

木村委員長 「自己適合宣言制度」を採用しているため、制度の信頼性を維持するには、申請内容と実際の製品が一致していることを確認する仕組みが不可欠になります。MCPCでは適合マークを表示して市場に流通している製品を購入し、抜き取り試験を実施することで制度の信頼性を担保していく考えです。抜き取り試験では、宣言内容に合っているかどうか、製造品質が維持されているか、市場流通品に問題がないか、といった部分を検査していきます。

せっかく適合マークを作っても、消費者がマークの意味を知らなければ、事業者には適合マークを付けるメリットが生まれません。この先はGL-015や適合マークの周知に加え、モバイルバッテリーを安全に使うには何をすべきか、どのような製品を選べばよいか、適合マークが事業者のどのような取り組みを示すものなのかまでを伝えていく必要もあります。適合マークが付いていても誤使用や強い衝撃、高温、水ぬれなどによる事故の可能性をゼロにはできません。万が一、事故が発生した場合の連絡や対応についてもきちんと整理していきたいですね。まずは関連ベンダー各社に賛同してもらい参画してもらうよう働きかけていきたいと考えています。

電池研究者が見るGL-015の意義

信州大学 是津信行教授

長年リチウムイオン電池などの研究に携わってきた信州大学/アクア・リジェネレーション機構・是津信行教授にガイドライン策定の意義について聞いた。

信州大学 是津信行教授

リチウムイオン電池は適切に設計、製造、管理し、正しく使えば非常に有用な技術です。一方でモバイルバッテリーは価格競争が厳しく、品質管理や製造管理など、表から見えにくい部分がコスト削減の対象になりやすいです。そのため、製品そのものだけでなく、製造や品質管理まで確認するGL-015の仕組みは価値があると思います。日本のものづくりは規制で求められる最低限を守るだけでなく業界全体で品質を高めようとする文化があります。業界関係者らが自ら課題を認識し、ガイドラインを作ったことはとても評価できることです。

【インタビュー対応者】

MCPCモバイル機器安全推進委員会
委員長

木村文紀氏

ソフトバンクデバイス技術本部IoTデバイス統括部デバイス品質部デバイスHW品証課課長

MCPCモバイル機器安全推進委員会
副委員長

桑田卓哉氏

KDDI先端技術統括本部先端技術企画本部システム戦略部エキスパート

MCPCモバイル機器安全推進委員会
特別参与/MCPC技術副委員長

小熊堅司氏

アリオン新規ビジネス開発コンサルタント

委員

山田陽士氏

京セラ通信技術部電気技術部第4技術課責任者

黒田謙一氏

Salom Japan
カスタマー&セールスサポート

冨田泰弘氏

Salom Japan
FAEテクノロジー カスタマー&セールスサポート