パイオニアは2026年、新たなスタートを切った。2019年以降、ファンド傘下で再建を進めてきた同社は、2025年12月にスマートコックピットを手掛ける外資への傘下入りを決め、経営のステージを一段上げた。2026年3月からは経営体制を刷新し、社長に髙島直人取締役兼常務執行役員が昇格。約6年ぶりの生え抜き社長として歩みだした。再建期を支え、パイオニアの過去から現在までを熟知している髙島体制での新生パイオニアのこれまでとこれからを探る。
■カーエレ専業メーカーでの再生へ
パイオニアは1938年の創業以来、家庭用のAV機器メーカーとして成長してきたが、1980年代以降は、カーオーディオやカーナビといった既販車向けの市販事業と、自動車メーカー向けの純正オーディオやナビを手掛けるOEM(相手先ブランドによる製造)事業を両輪に、カーエレクトロニクス分野でも存在感を高めてきた。市販市場ではグローバルで高いシェアを誇るまでに成長した。その後は、市場環境の変化に合わせて事業ポートフォリオを見直し、2015年以降はカーエレクトロニクス事業に特化した体制へ舵を切った。
しかし自動車業界はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の波に直面。100年に一度の大変革期といわれる中では順調にはいかなかった。
■転換期はBPEA傘下での再建
本格的な経営再建に向けた一つの転換は2018年のことだ。投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA、現EQT)の傘下に入ることを決め、19年から抜本的な改革に着手。20年1月に外部から矢原史朗氏(前社長、現シニアアドバイザー)を招へいし新たな成長に取り組んだ。矢原氏が目指したのは、長年培ってきたカーエレのノウハウをサービスに活用するというものだ。
スピーカーなどの音響システムやカーナビで培ってきたHMI(ヒューマンマシンインターフェース=人と機械との操作技術)の知見を生かし「モノ(プロダクト)×コト(ソリューションサービス)」を前面に打ち出した。
市販製品やOEMを手掛けるモビリティプロダクトカンパニーとサービス化を推進するモビリティサービスカンパニーを設置し、サービス展開を進めたのもこの時期だ。長年のカーナビ開発で培った技術やノウハウを活用したスマートフォン専用カーナビアプリ「COCCHi(コッチ)」やバイク専用ナビゲーションアプリ「MOTTO GO(モットゴー)」といった新たなサービスも生まれた。
同時に、市販・OEM事業の収益性改善にも着手。モビリティプロダクトカンパニーCEOに就任した髙島氏が陣頭指揮を執り、収益性を重視した事業運営へと転換した。「赤字のビジネスを徹底して見直した」と髙島氏。OEM事業の収益にこだわることで、黒字化の道筋をつけた。
こうした取り組みを積み重ね、2020年3月期以降は業績が改善し6期連続で営業黒字を達成し、次の成長フェーズに向けた基盤を整えた。髙島氏は「OEMの収益向上が黒字化に大きく貢献した」と振り返る。
■CarUX傘下で新たな成長へ
2025年12月、台湾液晶パネルメーカー群創光電(Innolux)の子会社で自動車向けスマートコックピット統合システムを展開するシンガポールのCarUXホールディングスの傘下に入ることを決めた。CarUXは自動車の次世代コックピットをグローバル展開するティア1サプライヤー(一次請負事業者)として20年以上の実績を持つ。欧米での顧客基盤もあるが競争の激しい自動車部品サプライヤー業界での勝ち残りには課題もあった。スマートコックピットでは強みがある半面、CASE時代に不可欠となる音響やHMIはパイオニアが圧倒的に高い技術力を持っていた。
今回、CarUXの傘下に入ることで、両社が持つ顧客基盤、製品ポートフォリオ、R&D(研究開発)・製造拠点の3分野でシナジー(相乗効果)を出していく計画だ。
顧客基盤では、CarUXは米国と欧州のOEMで、パイオニアはグローバルでの市販製品ブランドと日本のOEMで強みがある。拠点では、パイオニアは日本、タイ、ベトナムをはじめとするアジア全域と欧米に、研究開発と製造のネットワークを持つ。インドやドイツにもR&Dセンターを開設した。CarUXはアジア全域に製造拠点を持つだけでなく欧州とアジアに4つのR&Dセンターがある。
この先は両社の拠点網を生かしたクロスセル(相互販売)に加え、次世代の車室内空間を提案する取り組みを加速していく。髙島氏は「OEMで新たに案件を獲得するのは簡単ではないが、新体制となりグローバルでの選択肢が増え、案件獲得が期待できる」と話す。事業基盤が整ってきたことから、これからは長年培ってきた技術を生かし、モノづくりを軸にした提案を強化する。
■2027年CESで協業成果を披露へ
2026年1月に米ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES」では両社がそれぞれコンセプトを展示した。この先は両社の技術融合もカギになる。2027年のCESでスマートコックピットとHMI、オーディオを融合した両社協業によるソリューションを提案する計画だ。
髙島氏は「現在、両社で検討を進めている部分も多いが、双方の技術を掛け合わせると、とてもよいものができる」と話している。
髙島直人新社長に聞く
CarUXとの連携でグローバル成長を加速
――髙島社長はエンジニア出身ですが営業など様々な業務に携わってきていますね。
髙島氏 大学卒業後に新卒でパイオニアに入社し、大手自動車メーカーの新ブランド立ち上げ時の大型プロジェクトに関わる部門に配属されました。パイオニアにとっても大きなプロジェクトの一つで、ラジオやオーディオなどの電気設計に携わり様々な苦労もしましたが、多くを学び経験しました。
また、エンジニアが営業に行くことは、この業界では当たり前でした。製品を販売していく上では、調達から販売まで様々な営業活動が必要になりますが、技術面での知見を持っていることが優位になるからです。当社もプロジェクトを推進する中で自動車メーカーと同様の体制を敷いたという背景もあります。私自身はエンジニア出身ですが、OEM事業の責任者や北米現地法人の経営にも携わり、自動車向け事業ではほぼすべてを経験しました。
――経営が厳しい時期に経営陣として改革に携わっていました。
OEMで徹底的な収益化推進
髙島氏 2015年から役員として事業と経営の両面をみていくことになりましたが、とくに資金面では、開発に必要な投資とその回収のタイミングがうまくかみ合わず、慎重な判断が求められる状況が続いていました。本来であれば、新しいプロジェクトを受注する際に、投資と回収のバランスを継続的に保つことで安定した経営が可能になりますが、そのサイクルが当時は十分に機能できていませんでした。
自動車業界全体で支えあっていければよいのですが、業界も100年に一度とも呼ばれる変革期にあり、独立系の当社は自律的に生きていく道を選択するしかなかったわけです。そのときに手を差し伸べたのがベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA、現EQT)でした。
――実際、BPEAの下での経営改革で苦労したところはありますか。
髙島氏 私自身はブランドだけが残るような存続だけは避けたいと思っていましたし、実態を伴ったパイオニアを残したかったのです。「パイオニアはすごい、パイオニアには価値がある」ということを理解し全面的な支援をしてくれたBPEAには感謝しています。
経営改革はグローバルを含めて全面的に見直しをかけました。矢原のもとでサービス化を推進する半面、OEM事業をすべて把握している私がモノづくり領域の再建を手掛けました。サービス化に向けては社内に知見がありませんから、外部から経験者を招へいして取り組みました。
プロダクトビジネスではOEM事業に力を入れましたが、売上だけを意識して案件を取りにいくと赤字になることもあり、私は収益にこだわり値付けを徹底して見直していきました。常に利益をみるようにして投資と回収のサイクルを回していった結果、財務基盤や事業の収益性を整えることができ、6期連続の黒字化(連結営業利益)を達成できました。
――CarUXの傘下に入り新たに社長に就任しました。ご自身の役割をどうみていますか。
エンジニアと営業の経験生かす
髙島氏 CarUXはグローバルのティア1サプライヤーです。私自身も交渉時から携わっていましたが、両社の技術を補完することで新たな価値が見いだせると思いました。スマートコックピットを強化していく上では当社の技術が生かせますし、世界の自動車メーカーに対して新たな価値提案ができます。パイオニアにとって選択肢が広がった、とみています。これから事業をさらに強化していく中では私がこれまで当社で経験してきたエンジニアや営業の知見を多く生かせると思っていますし、橋渡しできるようにしたいと考えています。
――これからパイオニアをどのような会社にしていきたいですか。
髙島氏 まずは顧客、株主、従業員を同じ重みで大切にしていきたいと考えています。事業面ではこれまでは日本の自動車メーカーが中心でしたが、ここ数年はグローバルで展開する海外メーカーの案件も獲得できつつあります。海外拠点の強化もしていますし、グローバルの体制強化も始めています。その意味ではCarUXと連携できることで次のステップに入っていけると思います。
当社が持つIVIやソフトウエアの領域とCarUXが持つディスプレーの領域を掛け合わせることで新たなソリューションも作れるようになりますし、いろいろなチャレンジができるとみています。両社の連携は今までにない組み合わせにもなりますので面白い座組みだと感じています。パイオニア自身は次の成長に向けた段階に入ったと思っています。
――これからのカーエレ市場をどうみますか。市販市場はどうなるでしょうか。
髙島氏 CASEの時代になり、自動車が移動の手段だけでなく、快適な車室内空間として求められ、一つのプライベート空間としての役割も担うようになっていくでしょう。電気自動車の充電をしながら、車内で音楽を聴いたり映画を観たりする人もいます。運転していない時でも過ごせる場になってくるのではないでしょうか。そうした空間づくりには、CarUXのディスプレーと、当社の音やIVIの組み合わせは欠かせず、より良い提案ができると思います。
市販市場もこれから変わっていくと思いますが、純正品では満足できない層は確実にいます。スピーカーなどのオーディオの需要はありますので、きちんと開発していきます。またBtoBtoC(法人の個人向けサービス)の領域ではドライブレコーダーを使った保険などのサービスもさらに増えていくと思います。今後は車載機器とその価値を高めるサービスとを組み合わせた新たな提案を生み出し、パイオニアを次の成長フェーズへ導いていきたいです。
【略歴】
たかしま・なおと 1965年2月18日生まれ(61歳)。千葉県出身。中央大学理工学部電気工学科卒。1988年4月パイオニア入社。2009年11月Pioneer Automotive Technologies, Inc. SVP。15年6月パイオニア執行役員スピーカー事業担当。17年6月執行役員OEM事業部長。19年7月常務執行役員プロダクト&コンポーネント事業本部長。20年4月取締役兼常務執行役員モビリティプロダクトカンパニーCEO。22年12月取締役兼常務執行役員モビリティプロダクトカンパニーCEO兼東北パイオニア社長。26年3月代表取締役兼社長執行役員グループCEO兼モビリティプロダクトカンパニーCEO兼東北パイオニア社長(現職)。趣味はゴルフ。座右の銘は一期一会。愛犬の柴犬と戯れるのが日々の癒しになっている。