Red Hat 1社研修トレーニングをオンサイトで継続受講
社会インフラシステムの開発と運用担う
ほくでん情報テクノロジーが目指す技術力向上策とは―

左からほくでん情報テクノロジー総務部森猛副部長、情報システム開発一部営業システムグループテクニカルリーダー首藤昭彦氏、総務部人事労務グループ森嶋孝一氏
左からほくでん情報テクノロジー 総務部 副部長 森 猛氏、情報システム開発一部営業システムグループ
テクニカルリーダー 首藤 昭彦氏、総務部人事労務グループ 森嶋 孝一氏

 北海道電力グループで情報システムやインフラ基盤の構築運用支援をするほくでん情報テクノロジー(札幌市中央区、魚住元社長)は、グループ企業をはじめとした顧客のIT(情報技術)システムを安心安全に利用できる支援をしていくために日々技術力の向上に取り組んでいる。電力会社のシステムは社会インフラでもあるため高い品質が求められる。止めることのできないシステムを構築し運用していくためには高度な技術力が必要になり、ほくでん情報テクノロジーは常に最新技術の習得と技術力の向上を念頭に全社的に技術者育成に取り組む。中でも多くの基幹システムで採用が進むLinuxの教育に積極的で、2016年度からはレッドハットの1社研修トレーニングをオンサイト(同本社内)で受講。毎年研修を継続しLinux技術の底上げに役立てている。今回、レッドハットのオンサイト研修を続けているほくでん情報テクノロジーに、レッドハットの研修のポイントと技術力向上への考え方について聞いた。

北海道電力グループのシステムを一手に
高い品質と技術を維持する教育を最重視

 ほくでん情報テクノロジーは、北海道電力グループのITシステム開発と運用保守、インフラ基盤の運用を行う情報子会社として1991年に設立した。以降30年以上にわたり北海道電力のシステムの開発運用に取り組むとともに、現在はデータセンターにおける様々なソリューション提供を中心にグループ外の企業のシステム支援も行う。

 ITシステムの環境は、常に新しい技術が生まれており、最近はクラウドコンピューティングやIoT、ビッグデータ、人工知能(AI)といった最新のデジタル技術を活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む企業も多い。北海道電力グループも同様で、電力を安定供給するだけでなく、企業や消費者へ付加価値の高い電力のサービスを提供していくことが求められている。様々な電力サービスを行うにはITシステムが要となり、ほくでん情報テクノロジーの役割も大きい。こうした背景もあり、技術力向上に向けた取り組みは会社設立時から重点施策と位置付けられている。

 「電力は社会インフラになるため、品質は落とせないという強い覚悟をもって取り組んでいます」

 社内教育を担当する総務部人事労務グループの森嶋孝一氏は力を込める。品質を高めるのはもちろんだが、コストへも目を向ける必要があり、高い品質を担保しながら効率性を重視するという両立の難しい課題を解決しなければならない。これこそが技術向上に向けた研修を強化する一つの理由でもある。

 同社は、大きく北海道電力およびほくでんグループ各社向けのシステム開発や保守を行う部門(約190人)、インフラや運用を行う部門(約120人)、データセンター業務を行う部門(約30人)に分かれて業務を進める。技術力向上に向けては社員一丸となって取り組んでおり、全社研修に加え各事業部門での現場教育を並行して行っている。人材育成や技術力強化について社内で取りまとめる総務部副部長の森猛氏は「IT会社である以上、技術教育を最も重視しています」と話す。

 新人から中堅、ベテランまでスキルレベルに合わせた教育を行っている。新人は入社後3か月間技術教育を受け、その後各配属先で現場研修を進めている。全体ではJavaやWebアプリケーション開発を中心に教育し、その後は各部門で求められる技術の習得に努める。「最近はオープン化が進んでいるため、OSS(オープンソースソフトウエア)のOS(基本ソフト)やデータベースの教育に力を入れているほか、必須となってきているクラウドの技術研修も実施しています」と森氏。幅広い研修プログラムを用意することで入社後のスキルアップを無理なく続けられるように工夫している。

電力自由化のシステム再編が契機
Linuxの技術習得を全社的に

総務部人事労務グループ森嶋孝一氏
総務部人事労務グループ 森嶋 孝一氏

 中でも全社的に習得に力を入れている技術の一つがLinuxだ。同社がLinux関連の開発に取り組み始めたのは2016年4月からの電力自由化に伴うシステム再構築にさかのぼる。「北海道電力のサーバーにLinuxが採用される様になり、そこからLinuxの技術習得が本格的に始まりました」(森嶋氏)。採用が決まった15年にインフラ部門から技術習得の要請があったが、大規模システムの構築になること、今後全社に展開するものだったことから、部門ではなく全社で取り組むことにしたという。

 そこで法人向けにRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を展開するレッドハットと出会い、早速研修を依頼した。森嶋氏は「Linux研修の経験がなかったため全面的に協力していただき、研修環境の貸し出しなども含めてお願いしました」と振り返る。レッドハットからの提案はサーバー管理者向けとエンジニア向けの2つの研修だった。2016年度からサーバー管理者向け研修を「基礎コース」、エンジニア向け研修を「応用コース」としてスタートした。

 レッドハットの研修は用途に応じて様々なメニューが用意されている。RHELをはじめ、オープンソースのIT自動化ツールの「Ansible」、コンテナ技術を使い自由にシステムが構築できるシステムプラットフォーム「OpenShift」など、最新技術にも追従し認定資格の取得までできる研修メニューがある。個々の企業向けに研修を行う1社研修トレーニングや、必要な研修を必要なだけ受講できるRed Hat Learning Subscription(RHLS)など、受講者、受講企業の要望や環境に合わせて柔軟に対応できることも特徴だ。その中で、ほくでん情報テクノロジーが全社で活用しているのがRHELの1社研修トレーニングになる。企業ごとに研修を行うもので、実際に企業に講師を派遣するオンサイト研修ができるとともに、オンライン研修も自由に選択できる。

受講者の理解度と習熟度がより向上
オンサイト研修が大前提

総務部副部長の森猛氏
総務部副部長 森 猛氏

 同社が選んでいるのはオンサイトの研修だ。森嶋氏は「当社の研修は、基本はオンサイトでやることを前提にしています」と話す。オンサイトの研修を選択するのはオンライン研修と比べると、受講者の理解度や習熟度がより深くなるからだ。本社が北海道にあることからオンサイトの場合は講師派遣のための費用なども高額になる。

 「それでも実際に目の前で指導してもらい、講師から直に質問対応してもらえると費用には代えられない利点や効用があります」と森氏。とくにレッドハットの研修は実技と演習が多い。一般的な座学研修とは違うため、対面して講義や質疑ができることは大きな違いになるようだ。

 加えて1社研修トレーニングは研修するシステム環境をレッドハット側で構築してくれることも大きな特徴になる。「他ベンダーの社内研修は、自分で環境を作るケースがほとんどで手間がかかりますが、レッドハットは事前準備もしてもらえるため負荷が大きく減らせます」(森嶋氏)。コース内容によっては、事前設定したパソコンを貸し出すことも可能なため、研修担当者も煩雑な設定業務に追われずに済む。

常に認定資格取得を目標に研修
RHCSA合格者は毎年2~3人で累計14人に

情報システム開発一部営業システムグループテクニカルリーダー首藤昭彦氏
情報システム開発一部営業システムグループ
テクニカルリーダー 首藤 昭彦氏

 16年以降、毎年実施している1社研修トレーニングは、主にこれからLinuxの開発に携わる技術者や、新たなLinux関連のプロジェクトに携わる技術者らが毎年10人程度受講している。現在はシステム管理者向けの研修に注力。初めてLinuxに触れる技術者向け、すでにLinuxの基礎を習得済みでバージョンアップした内容を習得する技術者向け、Red Hat 認定システム管理者 (RHCSA)の資格取得を目指す技術者向け―の3本柱で取り組む。

 「当社は多くの分野で認定資格の取得を目標に研修をしています。もちろん技術者にはLinuxについても資格取得を目標に取り組むようにお願いしています」と森嶋氏。2018年から資格取得に本格的に取り組み始め、RHCSAの合格者は14人までになった。森嶋氏は「難易度の高い試験ですが、毎年2~3人の合格者を出せています」と自信をみせる。

 このほど1社研修トレーニングを受講した情報システム開発一部営業システムグループテクニカルリーダーの首藤昭彦氏は「これまで通常業務でLinuxに触れてきましたが、業務で必要となる技術しか知りませんでした。研修では普段触れない技術や新しい技術にも触れられますし、他社の研修と比べても非常に実践的でした」と振り返る。研修メニューは企業の要望に応じてカスタマイズもできるという。

 同社が利用しているRHCSA速習コースは通常5日間だが、6日間に増やしてじっくりと習得できるようにしているという。新機能についての講義も要望を出しメニュー化してもらった。毎年オンサイト研修を行っていることもあり、講師とも顔なじみになってきた同社。「要望も聞いてもらいやすくなっています」と森嶋氏。首藤氏もRHCSAの認定試験に無事合格し、「わかりやすい説明が受けられたことが合格につながりました」と笑みを浮かべる。

満足いくトレーニングは継続利用へ
新しい技術習得に向けても活用する計画

 現在、技術者育成に関して、「どのような業務ができるか」「どのような経験を積んだか」「どのような資格を取得したか」という3つの観点でみている。森氏は「情報処理技術者試験とベンダー系認定資格の両面で資格を取得しレベルを上げて行ってほしいと思っています」と話す。

 技術者一人あたりの教育費用は業界水準以上で推移しており、若手からベテランまで技術習得の機会を与えている。これから注力していく技術領域はLinuxをはじめとしたオープン系、クラウド系、AIなどを必須にしていきたい考えだ。レッドハットの研修メニューもさらに利用していく。

 「レッドハットのトレーニングに不満はなく、このまま利用し続けていきたい」と森嶋氏。

 森氏は「LinuxだけでなくAnsibleなど新しい技術習得に向けてもメニューを活用できるようにしていきたいと考えています。今後はサブスクリプションのRHLSも活用しながら、RHELを全社で、新技術を部門で習得できるような流れを作って行ければいい」と見通しを示した。

 ほくでん情報テクノロジーの技術力向上への取り組みは続く。