内田洋行(東京都中央区)は、長年培ってきたICT(情報通信技術)構築の知見を生かし、いち早くICTを活用した教育現場の改革に取り組んでいる。特に教育データの活用に力を入れており、2020年度からは文部科学省のCBT(Computer Based Testing=コンピューター試験)システムの構築に携わるなど、教育ICTでは先陣を切る。2025年12月には世界で活用が進むCBTプラットフォームの次世代版を世界に先駆け発表した。この世界標準のCBT基盤を前面に出しながら教育データの活用支援を加速する。
■ICTの知見生かした「学び方変革」を推進
内田洋行の教育データ活用に向けた取り組みは1998年の教育総合研究所の設立にさかのぼる。現在は「学び方変革」を提唱し、学びの現場を変えていくための研究からシステム開発まで総合的に手がけている。これまで総務省の「フューチャースクール推進事業」や文部科学省の「学びのイノベーション事業」にも参画してきたほか、2008年には全国学力・学習状況調査事業を受託し教育アセスメント事業も行う。政府が主導したGIGAスクール構想では、1人1台タブレットパソコン導入からネットワーク構築、ICT支援員の研修までワンストップで行い運用支援もしている。
CBTは2012年から本格的に取り組み始めた。文部科学省の受託事業でオフラインのCBT開発に着手し情報活用能力の測定を手がけていたが、2016年に世界で利用されているルクセンブルクのOpen Assessment Technologies(オープン・アセスメント・テクノロジーズ=OAT)社のオンラインCBT基盤「TAO(タオ)」と出会ったことが大きな転機になった。
■世界標準のCBT基盤「TAO」と技術協力
TAOは、ルクセンブルク研究技術機構(LIST)とルクセンブルク大学による政府プロジェクトとして開発されたもので、2002年にオープンソースとして公開された。その後、各国の大規模学力調査での利用に対応するために2013年にLISTとオランダ政府教育評価機関Citoが出資しOAT社を設立。世界にCBTを導入する目的で各国関係機関との連携を進め、データを連携するための国際技術標準規格の策定にも参画している。
世界的に採用が拡大していたTAOにいち早く目を付けたのが内田洋行だった。グループのインフォザイン(東京都台東区)がパートナー契約を結び取り扱いを始めたのがきっかけだ。内田洋行の大久保昇社長は「CBTをデジタルのプラットフォームとして提供できることを高く評価した」と話す。TAOが世界各国で標準的に利用することを目指していたのも魅力だ。インフォザインの永井正一取締役は「共通ルールで記述する国際技術標準のQTI準拠や、オープンソースである点に可能性を感じた」と振り返る。
2016年に文部科学省の「高校生のための学びの基礎診断」でTAOが国内で初めて採用されて以降は、OAT社との技術協力を本格化。その後、文科省の事業で次々とTAOの採用が進み、2020年度のCBTシステム「MEXCBT(メクビット)」の導入にもつながった。MEXCBT整備後は、全国の小中学校でCBT環境を安定して使えるよう運用支援をするとともに、2021年からはMEXCBTとデータ連携する学習eポータル「L-Gate(エルゲート)」を開発し展開している。
■CBTの環境整備に力
少子高齢化による労働人口の減少が顕在化する中、内田洋行ではデジタル環境とリアル環境でのデータ活用の重要度が高まるとみている。これから「人」と「データ」の時代になることを掲げ、働く現場や学ぶ現場の変革に取り組んできている。内田洋行が考える教育データの活用は、普段の学習から学力調査、復習までの一連の流れをデジタル基盤上で回していくことだ。デジタル学習教材の展開から教職員向けシステム(校務システム)まで総合的に展開するだけでなく、教育における標準化に向けた「日本1EdTech協会」の設立にも協力し、世界共通のオープンスタンダードの技術で、ベンダーロックインをしない国内の教育デジタルエコシステムの構築を推進している。
その中で重視したのがCBTの環境整備だ。2023年には、技術連携を進めていたTAOの開発をさらに加速していく目的でOAT社を完全子会社化し、グループでの開発体制をより強固にした。OAT社をグループ化してから2年半が経過した2026年には、大規模な利用もクラウド環境下で安定して行える次世代版TAOをサービスインする。最新版は経済協力開発機構(OECD)の「生徒の学習到達度調査(PISA=ピザ)」で採用され106の国と地域で実運用するなど、すでに成果を上げている。
■大規模安定運用できる次世代版TAO開発
今回、次世代版TAOを国内外で本格展開する。「すべての人が、どんな環境でも公平に同じテストに参加できる」ことを理念に掲げ開発し、フルクラウド環境でありながらも大規模な試験にも耐えられるシステム構造を採用した。OAT社CEO・町田潔氏は「全世界で誰もが公平な試験を安全に受けられる環境になっている」と言い、ネットワーク環境に依存せずに国家規模の学力調査から資格試験まで、さまざまな試験を安定して行える特長がある。
各国政府のウェブアクセシビリティー規格にも対応した。視覚、聴覚、肢体、認知、言語など、さまざまな特性を持つ受検者が公平に試験を受けられるよう細かく設定できる。国際技術標準に対応しているため、学習管理システムや、さまざまな教育ツールとも連携可能だ。API(アプリケーションインターフェース)により教育機関や試験団体などの独自のシステムとも連携できる。誰でも簡単に問題作成ができる機能も用意した。マウス操作で直感的に問題が作れるようになっている。2026年9月に提供を予定している問題作成環境の「TAO Studio」を使えば、問題やテストを体系的に蓄積でき、過去問題の管理も簡単に行える。
■教育アセスメントソリューションで課題解決へ
次世代版TAOの発表に合わせ、教育アセスメントソリューションの提案を強化していく。学力調査をはじめとする学習改善に役立てるためのアセスメント(評価)から、入試・資格/検定試験までを要望に合わせて提供する。教育総合研究所所長の伊藤博康氏は「教育データを活用した学びの質の向上と公平で持続的な教育環境づくりに取り組みたい」と力を込める。
TAOは、ポータルサイトから、テスト、問題作成環境、採点、結果分析などの各モジュールで構成され、利用者に合わせ自由に組み合わせて環境が構築できる。国内では、専用のシステムを構築せずに必要に応じて柔軟に利用できる「TAOエンタープライズ(SaaS=Software as a Service)」を発売した。年間利用で約60万円(税別、テスト回数約2400回)からとなる。
2026年1月5日にはTAOの無償版のオープンソースを公開した。世界中の開発者や研究者が参加するオープンコミュニティーを展開し常に最新の技術や機能を取り入れていく。大久保社長は「世界の利用者の声でよりよいものにしていきたい」と話している。