2023.02.02 【コンデンサー技術特集】ニチコン 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの最新技術動向

【写真1】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「PCWシリーズ」

【写真2】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「PCAシリーズ」【写真2】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「PCAシリーズ」

【写真3】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「RDSシリーズ」【写真3】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「RDSシリーズ」

【写真4】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「RKSシリーズ」【写真4】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサー「RKSシリーズ」

はじめに

 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは、電解質にPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を代表とする耐熱性・電導度の高い導電性高分子を使用する。これにより電解液タイプと比較して高周波数領域における優れたESR特性に加え、許容リプル電流耐性にも優れた特長を有するため、産業機器向けや情報通信機器向けなど市場は飛躍的に拡大しており、技術ニーズも多様化している。また車載機器においても安全性能向上に向けた先進運転支援システム(ADAS)に関わる安全関連技術、自動運転機能を搭載した自動車開発が加速しており、これらの実現に不可欠な自動ブレーキ、画像認識、センサー関連機器にも採用が進んでいる。これらのような高度な信頼性が求められるアプリケーションに対する導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーの最新技術動向について以下に解説する。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーについて

 一般的なアルミ電解コンデンサーの素子構造を【図1】に示す。陽極箔(はく)、陰極箔の間にセパレーターを介して巻き取った素子に、電解液を保持させている。導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーも電解液タイプと基本的な素子構造は同じであるが、電解質が固体電解質であるため、電解液タイプのコンデンサーと比較して、以下のメリットが挙げられる。

【図1】巻回形アルミ電解コンデンサーの素子構造

1)低ESR

 固体電解コンデンサーで一般的に使用されているPEDOTの導電機構は電子伝導であり、イオン伝導を導電機構としている電解液と比較すると、その電導度は高く約1万倍となる。そのため、大幅な低ESR化が可能となる。さらに製品の低ESR化は、温度上昇が低減できるので許容リプル電流の増大にもつながっている。

2)温度特性

 固体電解質PEDOTは金属性の電子伝導の特長を有しており、その温度特性は低温度側にて抵抗がわずかに上昇する程度である。よってそれを用いた製品特性においても温度依存性は小さく幅広い温度範囲にて安定した製品特性を有する。

3)長寿命

 固体電解コンデンサーでは電解液タイプのコンデンサにて認められる電解液が蒸散する「ドライアップ現象」が発生しない。よって、その製品設計内容および、使用環境次第ではメンテナンスフリーに近い寿命も期待できる。

新規開発品「PCWシリーズ」「PCAシリーズ」

 MLCC(積層セラミックコンデンサー)からの置き換え検討において、大電流かつ高温度でも安定動作可能な高信頼製品の要求が高まっている。これらのニーズに対して、低電圧、高電圧領域でそれぞれ新シリーズを開発した。概要を【表1】に示す。

【表1】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーの新規開発品

 まず、2.5~6.3Vの電圧領域において、封止性の向上等、各部材の最適化を実施することにより、業界初となる125℃2000時間リプル重畳保証「PCWシリーズ」【写真1】を開発した。

 電解質に導電性高分子を用いたアルミニウム固体電解コンデンサーの特長として、高周波数領域における優れたESR特性に加え、許容リプル電流耐性にも優れている。「PCWシリーズ」は、高温中でもこれら安定特性を得るために、高耐熱性の封止材を使用するとともに、製品自己発熱低減のために部材選定を最適化したことで、導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーでは業界初となる、リプル重畳保証かつ高リプル電流対応を実現した。ケースサイズはφ5×6L、φ6.3×6L、定格電圧および定格静電容量は2.5~6.3V、150~390μFをラインアップしており、低電圧領域にて高リプル電流が必要な回路に貢献する。

 加えて、25~63Vの高電圧においても高温度下での信頼性を確保し、高許容リプル電流に対応した125℃4000時間リプル重畳保証「PCAシリーズ」【写真2】を開発した。

 当社が従来から取り組んできた導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーの高耐熱化・リプル電流耐性向上技術をベースに、導電性高分子形成方法、部材構成および材料設計をさらに最適化することで、業界最高の125℃高許容リプル電流保証を実現した。これにより、現行品「PCRシリーズ」と比較して、同一サイズで最大1.5倍の高リプル化を達成しており、搭載員数削減によるユニットの軽量化、小形化、高性能化に貢献する。ケースサイズはφ8×10L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は25~63V、47~470μFをラインアップしている。現行品との定格静電容量・定格リプル電流比較を【表2】に示す。

【表2】現行品との定格静電容量・定格リプル電流比較

 これら新規開発品のラインアップにより、高温環境下で高信頼性や高許容リプル電流を必要とする用途に対応することが可能となった。このように導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは低ESR、高リプル電流、耐久性後の安定性、高温下での長寿命が強みである。

新規開発品「RDSシリーズ」「RKSシリーズ」

 マザーボード、グラフィックボード、ゲーム機、充電器向けを中心に導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーを生産しているニチコン宿遷(江蘇省)のラインアップに、近年、需要が増大している情報通信機器、産業機器、車載機器などの高信頼ニーズに対応した新シリーズをラインアップした。概要を【表3】に示す。

【表3】チップ形導電性高分子アルミニウム固体電解コンデンサーの新規開発品

 まず、2.5~16Vの電圧領域において、導電性高分子形成プロセスを最適化し、高温度長寿命化した125℃3000時間保証「RDSシリーズ」【写真3】を開発した。導電性高分子形成方法、重合などのプロセスを最適化し、現行の105℃2000時間保証「RSSシリーズ」と同等のESR等の諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証の高温度長寿命化を「RDSシリーズ」で実現した。現行の「RSSシリーズ」と同一定格・同一サイズでの特性比較を【表4】に示す。

【表4】同一サイズ(φ6.3×5.7L)、同一定格(16V/100μF)でのシリーズ別特性比較

 さらに、20~63Vの電圧領域において、封止性の向上、導電性高分子形成プロセスの最適化を実施することにより、高温長寿命化、高耐湿化をした125℃3000時間・85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)「RKSシリーズ」【写真4】も開発した。高機能封止ゴムを採用、材料設計および導電性高分子形成方法を最適化することで、現行の「RPSシリーズ」「RSSシリーズ」と同等のESR等の諸特性を維持しながら、業界最高レベル125℃3000時間保証、85℃85%RH(1000時間定格電圧印加)保証をRKSシリーズで実現した。高耐湿性能保証を追加したことで車載向けにも提案が可能になる。現行品「RSAシリーズ」と同一定格・同一サイズにおける特性比較を【表5】に示す。

【表5】同一サイズ(φ6.3×7.7L)、同一定格(25V/100μF)でのシリーズ別特性比較

今後の展望

 情報通信機器や車載機器市場は拡大傾向にあり、これらに搭載される導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの需要増加が見込まれる。技術ニーズも高度化しているため、当社は小形・高容量化、長寿命化、高温度化、大電流対応化を図り、今後もお客さまの要求に対して迅速かつ最適なコンデンサーを提供できるよう製品開発を進めていく。
〈ニチコン(株)〉