2023.06.14 【この一本】「絶唱浪曲ストーリー」

(C)Passo Passo + Atiqa Kawakami

(C)Passo Passo + Atiqa Kawakami(C)Passo Passo + Atiqa Kawakami

川上監督(C)Kazuharu Igarashi川上監督(C)Kazuharu Igarashi

 寄席演芸の世界が盛り上がりを見せている。「絶滅危惧」とまで言われた講談界では、女流らがけん引役となってきたところへ、神田伯山の人気が話題に。また、浪曲でも玉川奈々福、太福といった中堅・若手らがファン層を広げている。YouTubeをはじめオンラインの情報発信、noteなどにも力を入れているのが注目されている。

 そんな中、浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめ。伝説的な大ベテラン、港家小柳の芸にほれ込んで弟子入りした小そめが、師と過ごし、師亡きあとは、曲師の玉川祐子(先日、白寿の会で話題になった)に師事し、成長していく様子を描く。

 製作・撮影・監督は、川上アチカ。懐に入り込み、半ば生活を共にするような撮影を続け、8年の歳月をかけて本作を完成させた。迫力たっぷりの口演場面も大きな見どころだ。奈々福、太福ら人気者も登場する。アップを多用し、まるで一座、あるいは小柳の家族の一員になったような感覚になる。

 また、関東唯一の浪曲の常打ち小屋である木馬亭も、もう一方の主役。さまざまな人間模様が入り混じり、ベテランから若手へと芸が継承される様が体感できる。真打制度のない浪曲では、独り立ちする名披露目(なびろめ)が最重要の節目。それに向け、満員の客席で花を添えてあげようとする観客(ひいき)のまなざしも温かい。落語など古典芸能では斜にかまえるファンも散見されるが、若手らを見守り育てようという雰囲気が小屋全体に満ちている。

 どんな職業にも似た面はあるが、生活全体、存在全体が浪曲師、といった芸能の世界のにおいが伝わってくる。

 平成生まれの浪曲師や曲師が増え、女性演者も拡大する浪曲界、そして寄席演芸。新旧のファンが入り混じり、「新時代の到来」を予感させる。また「継承」とは何かも考えさせられる。

 7月1日から、東京・ユーロスペースほか全国順次公開。