2025.03.12 【防災DXの新展開②】災害を「自分ごと」に デジタルマップで安全な地域づくりを支援
レインテックの藤井CEO(防災産業展の出展ブース)
安全安心な地域づくりを「自分ごと」にするきっかけを提供する防災テックベンチャーが、名古屋市昭和区にある。RainTech(レインテック)だ。
同社は自身が暮らす地域を教材に、防災について学ぶ機会を提供しようと、オリジナルのデジタル地図を作成できるアプリケーション「デジ防マップ」を2024年3月から運用。小中学校を主な対象に、防災教育などのツールとして提供している。
デジ防マップの操作は簡単だ。利用者は、タブレット端末を持ちながら街中を歩き、危険や不安を感じる場所を画面上の地図に入力。続けてその場所を撮影し、写真をアップロードする。投稿した情報は、SNSのようにリアルタイムで共有できる。
デジ防マップを授業の一環で活用する際は、まず児童や生徒が専門家による講義を受講した後、インターネットで身近な地域を調査。その上で、マップを利用して現場を探索する。教員の管理下でマップを適切に利用できるよう、1年間有効な学校アカウントを作成することも特徴だ。
既に24年4月から7月まで、愛知県刈谷市の市立依佐美中学校で実証実験を実施。26年度からは、教科書販売会社が販売代理店としてマップを扱う計画で、これを弾みに導入実績を積み上げたい考えだ。高校の探求学習に生かすことも視野に入れている。
レインテックの藤井聡史CEOは「自分たちが住んでいる場所を教材にすれば、自分ごとにしやすい」と、災害を対岸の火事と捉えがちな防災の変革に意欲的だ。
マップで「地域への愛着を掘り起こす効果」にも着目し、地域活性化も後押しできると考えている。
◇開発のきっかけ
藤井氏が22年4月に同社を設立したきっかけは、21年に静岡県熱海市で発生した伊豆山土石流災害だ。災害による悲しみをなくしたいという思いを抱き、起業に至った。
藤井氏には、エンジニアとしての豊富な経験がある。10年に自動車部品大手のデンソーに入社。製造現場でIoTや自動化などの技術を実装する業務に携わり、生産性向上や品質改善に取り組んだ。同社に所属しながら「出向起業者」としてレインテックの活動に取り組もうと、23年7月からは経済産業省の出向起業制度を活用している。
「実際に土砂災害の被害に遭う地域にいる人に雨量の状況を伝えたい」という使命感で起業後に提供を始めたのが、IoTを活用しスマートフォンで降水量を確認できるようにする雨量計だ。
藤井氏は「防災への関心を持つ層は高齢者や主婦が多いが、IoTへのなじみが薄く、受け入れられにくい」という認識も示す。幅広い世代が防災対策に参加しやすい環境づくりを進めたいという思いは、今回のマップにも込められている。
デジタルの力で防災を身近な存在にするベンチャーの挑戦の舞台は、一段と広がりそうだ。