2025.06.18 【探訪】横河電機 世界初のDCSから50年、安定したプラント操業支える
初代センタムのCPUモジュール
自動化から自律化へ 次世代モデル投入
横河電機が世界で初めて分散形制御システム(DCS)を発表してから50年がたった。DCSはプラント内の各種制御機器をネットワークで接続し、機器の制御を分散して行い、安定したプラント操業を支える。同社のDCSは世界各国の幅広い産業で採用されてきた。50年の歴史を経て、同社は自動化から自律化への革新を目指し、次世代モデルをリリースした。
初の分散形システム 時代の課題に挑戦
横河電機は1915年に電気計器の研究所として設立された。17年に電気計器を発売(日本初)、24年に携帯用電磁オシログラフを完成(日本初)、50年に電子管式自動平衡記録計を発表(日本初)、69年に渦流量計を製造・販売(世界初)など日本初、世界初の製品をリリースしてきた。
世界初のDCSとして「CENTUM(センタム)」(初代)を発表したのは75年6月19日のこと。あす19日で50周年を迎える。2012年9月に国立科学博物館が選定する「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」に登録され、21年3月には電気学会による電気技術顕彰「でんきの礎」に選ばれた。
竹岡一彦執行役常務デジタルソリューション統括本部長は「センタムはラテン語で『100』を意味する。発表当時、計装の100%のシステム化、つまり自動化を目指すという開発者の思いが込められていた」と話す。
石油化学や鉄鋼、LNG(液化天然ガス)のプラントの製造工程では、各設備に配置されたセンサーが流量や温度、液位などを読み取る。制御システムは、流量や温度などが最適値になるようにバルブの開閉などの制御に使用される。
1960年代から70年代にかけてプラントの大規模化・複雑化が進展したが、当時の主流は集中形の制御システムであり、データ量や処理能力は限界に近付いていた。操業や設備保全はプロセス単位ごとに管理され、機能分散、危険分散などの観点から分散形システムの必要性が高まった。
同社はマイクロプロセッサー技術をいち早く採用。システムを分散配置して制御バス(コンピューター内部のデジタル信号の伝送路)で接続する分散形アーキテクチャーを確立し、初代センタムを世に問うた。
「(初代センタムは)従来のシステムとは全く異なるため、お客さまにとっても大きな挑戦。情報化時代の到来を感じることもあり、多くのお客さまが当社とともに新しい時代の幕開けにチャレンジし、導入された」(竹岡本部長)。
初代センタムの構成は中央のオペレーターズコンソール(OPC)と、各設備に配置されたフィールド・コントロール・ステーション(FCS)。オペレーターはOPCによってプラントの監視操作を中央で一括実施。連続制御とシーケンス制御の融合が容易となり操業の高度化が進んだ。
初代の発売以来、センタムシリーズは世界100カ国以上、累積3万以上のシステムが採用されている。
自律操業の幕開け 第10世代モデル
同社はプラント操業における課題として▽より高いレベルの収益・品質の改善▽有形資産や、ベテランオペレーターの制御スキルをはじめとした無形資産の担保・継承▽セキュリティーリスクの高まり▽各国の法規制や環境規制の強化とサプライチェーン(供給網)の変化--を挙げている。こうした課題に呼応し、この先の未来を「センタムによる自律操業の幕開け」と位置付ける。
山本光浩執行役デジタルソリューション統括本部システム事業部長は「センタムはこれまで自動化を担ってきた。これからは自律操業。センタム自身が変化に対する学習能力や適用能力を持ち、人間の介在なしに最適かつ安全・安心なプラント操業を持続する、そういう世界観を目指す」と説明する。
多くのプラントで操業の自動化が進む。未来の自律化されたプラント操業では、見えない変化を予知して人の介在なしに自律的に最適化するだけでなく、不測の事態でも自律的な操業の定常復帰が想定される。
同社がセンタムに込めるコミットメントは①信頼性や安定性、継承性に妥協しない②持続的な操業の最適化を実現し続ける③顧客のサステナビリティーに貢献していく--の3点だ。
〝自動化から自律化への革新〟の第一歩として3日、第10世代となる次世代モデル「センタムVP R7」のコンセプトを発表し、「リリース7.01」の販売を開始した。コンセプトは①制御・操作監視範囲のさらなる拡大②操業に関わるプロセスの状態把握による予兆検知③経験知とAI(人工知能)技術を融合したプラント操業。
リリース7.01は、構成コンポーネントのサイバーセキュリティー対策、システム全体のセキュリティーレベルの強化を図り、データを駆使した操業を促進する。異なるメーカーの機器同士でデータを交換でき、プラットフォームに依存しない標準規格「OPC UA」接続により制御や操作監視の対象となるプラント内設備・機器を拡大。複数のエンジニアリングデータベースを結合してテストする機能も提供し、操業の全体最適に貢献する。
山本部長は「一足飛びに自律化に向かうとは考えていない。ステップを踏みながら自律化を目指し、機能の追加を進めていく」と今後を展望した。