2021.05.31 【この一冊】「オルタネート」加藤シゲアキ(新潮社)

 タイトルにもなっている「オルタネート」は本作の軸となる架空のSNS。ユーザーは高校生に限定され、メッセージを送り合えるコミュニケーションツールとしてだけでなく、ブログ投稿機能やマッチングサービスも備え、高校生活に必須のアプリとして人気を博している、というものだ。

 物語は、環境の違う3人の高校生を主人公に展開する。家庭のこと、学校のこと、友情や恋愛など、それぞれに悩みを抱える少年少女は、高校生活での出会いとその中に溶け込むオルタネートに時に振り回され、向き合いながら成長していく。

 架空のSNSの存在は、あくまでも物語における一つの要素にしか過ぎない。本作で描かれているのは、学校と家がほぼ世界のすべてである生徒たちが、その中で精いっぱい生き、成長する姿だ。

 前半では、一人一人の過去と現在が語られながら日々が進んでいく。読者は、どの登場人物にも自分の学生時代を重ねてしまう場面があり、引き込まれるだろう。

 登場人物のキャラクターを深く知った上で読む中盤からは徐々に話題が交錯していく。歌詞に乗って次々と場面が切り替わるクライマックスへの疾走感は、おのおのの悩みの解答へとつながり、胸がすくような結末を迎える。

 著者にとって3年ぶりの新作長編となる本作は、2021年本屋大賞ノミネート、第164回直木賞候補作と注目を集め、第42回吉川英治文学新人賞を受賞した。5月30日には、第8回高校生直木賞も受賞。

 新潮社刊、380ページ、1815円(税込み)。