2024.05.15 AIスーツケースが道案内 日本科学未来館が一般向けに試験運用開始

AIスーツケースで常設展内を移動する浅川氏

 AI(人工知能)を備えたスーツケースが自動で道案内――。日本科学未来館(未来館、東京都江東区)は、パートナー企業や大学などと協力して開発を進める視覚障害者向け自律型誘導ロボット「AIスーツケース」の定常的な試験運用を開始した。開館日には毎日3回開催。AIスーツケースで常設展を巡るツアーは、入館料のみで誰でも参加できる。

 AIスーツケースは、視覚障害者の移動を支援する自律型ナビゲーションロボット。同館館長でIBMフェローでもある全盲の浅川智恵子氏が出張の際に、「スーツケースが自動で道案内をしてくれたら」と感じたことをきっかけに開発が始まった。見た目は普通のスーツケースだが、内部にコンピューターやセンサー、モーターなどが組み込まれており、人や障害物を避けながら、目的地まで安全に案内してくれる。

 未来館では、AIスーツケースで常設展を巡る実証実験「『AIスーツケース』で常設展を歩こう」を4月下旬から一般向けに開始している。混雑など館内のさまざまな状況に対応するナビゲーション技術のさらなる向上や、社会的理解の促進などを目指すもので、視覚障害者向け誘導ロボットが1つの施設内で毎日運用されるのは世界でも初めて。

 専用アプリの入ったスマートフォンを使用して、画面タッチや声で目的地を設定する。ハンドルのスタートボタンを押して、グリップを握ると動き出す仕組みだ。ハンドルの下にセンサーが付いており、握ると動き、離すと止まる。動いているときは、ボタンでスピードを調節できる。

 レーザーを使用して距離や形をセンシングするLiDAR(ライダー)で自分の場所と障害物の位置を測定し、RGB-Dカメラ(深度カメラ)で、歩行者などの対象物との距離を把握する。画像認識AIで歩行者やその動きを捉え、膨大な量のデータを高速で処理するGPU(画像処理装置)が組み込まれたコンピューターにより、安全に移動できるルートを計算する。  

 浅川氏は「ロボットが視覚障害者を支援するという〝未来の風景〟をより多くの来館者に見ていただき、未来を想像するきっかけにしていただきたい」としている。