2025.01.22 【新春インタビュー】TE Connectivity Japan 鶴山修司社長

グローバルでブランドを統一化

 ―2024年10月1日付で社名を「タイコ エレクトロニクス ジャパン」から「TE Connectivity Japan」に変更されました。

 鶴山 当社にとり24年度(24年9月期)は大きな変革期でした。ポイントは、よりグローバル化を進めたこと、そして社名についてグローバルでのブランドの統一化を図ったということです。

 社名変更は、ブランド統一だけでなく、自動車市場が大変革期を迎えている中で、TEのグローバル資産を活用し、全社一丸となって対応していくという姿勢を表しています。

 ―最近の業績動向は。

 鶴山 TE Connectivityグローバルの24年9月期は売上高158億ドルを達成しました。GAAP営業利益率は17.6%、調整後営業利益率は18.9%で、いずれも過去最高を更新しました。特に4Q(24年7~9月)には大きな売上高を達成できました。

 日本でも24年は多くの引き合いをいただくことができました。特に5月の「人とくるまのテクノロジー展」では、EV(電気自動車)向けの800V高電圧ソリューションの提案を評価していただき、飛躍できました。

 ―それらの引き合いがビジネス成果に表れるのはいつ頃になるのですか。

 鶴山 実際に成果が広がっていくのは26年度から29年度が大きなマイルストーンになると思います。26年の秋ごろからわれわれの製品を搭載した顧客の新しい製品の市場への訴求が始まると考えています。

 ―800Vソリューションの手応えは。

 鶴山 電動車の設計思想は地域ごとに異なります。中国では800V仕様が標準化されてきています。欧米でも800V化がトレンドです。日本はHEV(ハイブリッド車)が大きな役割を担うため少し異なりますが、顧客の関心は高く、一部の顧客では採用への動きが始まっています。

 ―自動車以外のビジネスの動向は。

 鶴山 24年はクラウドAI(人工知能)関連のデータセンター(DC)向けで飛躍できた年でした。AIサーバーなどでは、224ギガbps市場が動き出す年になりました。

 産機市場は24年、ダウントレンドが継続しましたが、当社としてはできることをやり遂げることができた一年になったと思います。

 ―25年の展望は。

SDVが動き出す 

 鶴山 25年はSDⅤ(ソフトウエア・デファインド・ビークル)市場が動き始める年になると考えています。一方で、EVの高電圧化でより効率的なエネルギー伝送が可能になり、車室内にも変革が起こると思います。インストルメンタルパネルなどが進化し、AIの活用も進むでしょう。車内通信速度も5ギガbps以上が必要になります。当社は5ギガbps対応だけでなく12ギガbps対応の製品を準備しています。また、電子制御ユニットが多機能化するため、コネクターの小型化、多極化、そして信号・電源・高速通信などを組み合わせた統合型のソリューションにも注力します。

 ―非車載分野の展望は。

 鶴山 クラウドAI市場は25年もさらに活性化すると思います。医療機器向けは、治療や診断分野向けに信頼性の高い製品の拡販に取り組んでいます。

 エネルギー関連は、サステナビリティーのニーズへの取り組みを進めています。FA関連は、AIを活用してロボットの付加価値を高めるなどの動きが進むと思います。TEの自社工場でも、AIによるAGV(無人搬送車)制御などの取り組みが始まっています。25年は次世代スマートファクトリーへの準備を進める一年になると考えています。

多様性と成長支える職場環境を推進

 ―サステナビリティーへの進捗(しんちょく)はいかがですか。

 鶴山 大きなマイルストーンとなったのは社名変更です。社名変更を機に、社内の思いを一つにしていくこともFY24(24年9月期)のテーマでした。

 TEでは多様性を育む社内風土づくりの一環として、「ERG(Employee Resource Group)活動」を推進しています。TEグローバル全体では八つのERGがあり、その一つとして、女性の活躍と包括的で多様な環境づくりを促進するためのグループ「WIN(WO+MEN IN NETWORKING)」の活動を進めています。

 24年日本のWIN活動では、社内食堂を刷新し、メニューを充実させることで、Well-being向上に貢献しました。また、本社オフィス内に「Mother’s Room(授乳室・搾乳室)」を新設し、出産後の従業員が安心して職場復帰できる環境を整えました。今後も、女性がより働きやすい環境づくりを進めていきます。

 さらに、本社1階にカフェスペースを新設しました。これにより、上司や他部署のメンバーとのコミュニケーションが活性化され、トップマネジメントとの情報交流の機会も増えることが期待されています。

 ―人材採用活動は。

積極的に採用と育成

 鶴山 FY30までの5カ年で売り上げが成長することが期待されており、今年度はそれに向けて、採用と育成に積極的に取り組みます。

 採用戦略としては、26年4月入社の新卒採用活動を再開する予定です。中途採用は、グローバルな環境で活躍できる人材を積極的に確保していきます。現在当社で活躍している人材に対しては能力開発をさらに充実させ、社内人材の活性化を進めます。女性リーダー育成にも引き続き注力します。工場では30年までに数百人規模の人材を新たに雇用することになると思いますので、こちらも準備を進める予定です。

 ―工場投資への方針は。

 鶴山 工場戦略は、アジア全体を視野に考えています。日本だけでなくタイにも工場を展開していますが、「ローカル・フォー・ローカル」のプロジェクトを強く進めています。地産地消とも表現されますが、これを推し進めることで、顧客に対しても物流費抑制やリードタイム(L/T)短縮などの効果が大きく表れると思います。

 アジアで盤石な拠点を育て、日本では今まで守ってきた品質基準を、より一層昇華をして人材育成に取り組み、フラッグシップ工場として、これから取り組もうとしている「匠活動」の中心にしていこうと考えています。

 ―匠活動とは。

 鶴山 これはわれわれがFY25から取り入れた活動です。掛川工場に「匠」というチームを発足し、今までわれわれが培ってきたモノづくりの豊富な知見を世界に発信していきます。このチームが軸になり、今後の事業展開やモノづくり刷新、お客さまを支える上でどこの拠点で生産するのが適切か、という企業運営につなげていきます。

現有設備や機材を積極刷新

 ―今後の設備投資の戦略を教えてください。

 鶴山 当社は日本法人設立から67年が経過し、掛川工場も過去開業していた全ての工場を集約したセントラル化から十数年が経過しました。この10年の節目に、現有する設備や機材、お客さまの金型などを積極的に刷新しよう、という活動がFY24から始まり、より効率的な設備の導入に向けた投資を進めています。これをFY25も継続します。

 もう一つの大きな投資は、設計活動です。E-モビリティーの製品は、非常に大きく、さらに高電圧、高耐性化していますので、設計への投資が非常に大きくなっています。

 TE Japanは、FY24にはFY23比で3倍強の投資を行いましたが、この二つを軸に、FY25はFY24と同等あるいは上回る規模の投資を行い、時代の変化に対応した効率化を目指していきます。

 ―今後のサステナビリティー活動のテーマは。

 鶴山 TEグローバルでは、FY20からFY23までの間、自社の事業活動により直接排出するScope 1およびScope 2のGHG絶対排出量を72%削減しました。外部バリューチェーンに起因する間接的なScope 3の排出量をFY32年度までに30%削減する目標を設定しました(対FY22)。

 TE Japanでもサステナビリティーへの取り組みを強化しています。第1弾として、24年4月から再生可能エネルギー証書(REC)購入を通じて、100%再生可能エネルギー由来の電力使用を実現しました。今後も、マテリアル関連、輸送経路で排出されるCO2削減、スクラップ削減などさまざまなテーマに取り組みます。

 ―25年はどんな年にしたいですか。

 鶴山 一言でいうと、FY24は私たちがお客さまから大きな評価をいただいた年になりました。FY25は、その評価にお応えしていく年になります。そのためにさまさまな活動に取り組みますので、ぜひ注目していただきたいと考えています。

(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)