2025.03.11 【防災DXの新展開①】日常時から災害に備え 広がる「フェーズフリー」

防災DXについて講演する臼田氏(震災対策技術展)

 「フェーズフリー」――。そんな防災の考え方が広まってきた。災害時と日常時の局面(フェーズ)を区別しないという新しい概念だ。

 11日に東日本大震災の発生から14年の歳月が流れる中、この間にも甚大な被害をもたらす自然災害が多発。2024年1月に起きた能登半島地震も災害列島に住む現実を日本人に突きつける中、大規模災害に備える生活者の意識が高まっている。

 こうした動きを背景に存在感を高めているのが、フェーズフリーで使用できる製品だ。使用場面を問わないサービスも続々と登場。両フェーズのリスク情報を可視化するなど、デジタル技術を駆使し防災対策を高度化するDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例も増えている。

 2月に横浜市西区のパシフィコ横浜で開かれた「震災対策技術展」に足を踏み入れると、こうした潮流を肌で感じ取ることができた。

 「災害が起こったときにも活用できるフェーズフリーの状態を作らないといけない。そのためには、災害時を見越したモノづくりが大切だ」。

 防災科学技術研究所社会防災研究領域防災情報研究部門研究部門長で総合防災情報センター長も務める臼田裕一郎氏は取材に応じ、生活者が意識することなく災害時にも役立つ製品を使う環境づくりを進める必要性を強調した。

 防災科研自らも、防災力の向上に向けて多彩な試みを推進。臼田氏によると、注文住宅の設計・施工を手掛ける一条工務店と連携し、床下浸水や床上浸水などを防止する技術を取り入れた耐水害住宅の実験を実施。シャープと、IoT家電の音声発話機能を用いて災害時に避難のタイミングを知らせる実験など、民間企業との共同研究にも取り組んでいる。

 臼田氏は、山間部や離島など電波が届かない場所でも利用できる米宇宙ベンチャーの衛星通信サービス「スターリンク」にも着目。普段使いのスマートフォンで使えるスターリンクについて、「当たり前に日常生活で使える状態で、災害時にも活用できる存在だ」と期待感を示した。

 政府からの追い風も吹く。デジタル庁は24年に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定。その中で防災DXの推進を掲げ、防災デジタルプラットフォームと呼ぶ基盤の整備に向けて動き出した。

 臼田氏が注目しているのが、基盤の要となる「新総合防災情報システム(SOBO-WEB)」が果たす役割だ。昨年4月に運用を始めた仕組みで、断水や道路規制などの情報を関係機関で共有し被害の全体像を地図で把握できるようにする。

 今後は南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生も予想されており、日本に住み続ける限り自然災害を避けることはできない。それだけにフェーズフリーを社会に浸透させる対応は待ったなしの状況だ。臼田氏は「理想は『防災』という言葉が無くなり、いつ災害が来ても立ち向かえるという状況にすることだ」と、防災を無意識な存在にする必要性も説く。

 そうした課題の解決で鍵を握るデジタル技術をどこまで使いこなすことができるか。DXの実装力が官民に試されそうだ。

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 関連死を含む2万人超の死者・行方不明者を出した東日本大震災は、多くの教訓を突きつけました。一つが大規模災害への備えで、それを支えるデジタル技術の役割も増しています。4回の連載で革新サービスを手掛ける企業などに迫り、防災DXの最前線を浮き彫りにします。