2025.03.14 【防災DXの新展開④】耳で聴くハザードマップ 紙と同じ情報量を音声で届ける
谷口氏(左)と北原氏
「紙では災害時に周辺地域のリスクや避難場所を把握できない」――。そんな視覚障がい者の声に応えて誕生したのが、「耳で聴くハザードマップ」だ。印刷物の文字情報を二次元コードに変換する音声コードを手掛けるUni-Voice事業企画(東京都新宿区)が、そんな先進的なマップの制作を担った。
企画したのは、日本視覚障がい情報普及支援協会(JAVIS)だ。同協会と連携して2年以上の歳月をかけてマップの開発に取り組み、実用化した。JAVIS広報で視覚障がい当事者の北原新之助氏は「家から出る一歩を助ける。初動を早く起こせるようにしたい」と、マップを通じて災害時の行動を支援することに意欲を示す。
耳で聴くハザードマップは、音声コードを読み取るアプリ「Uni-Voice Blind」に実装した。スマートフォンの基本ソフト「アンドロイド」と「iOS」のスクリーンリーダーに準拠したアプリだ。14年に発表し、ダウンロード数は約10万に達している。
アプリには、利用者の視点も取り入れた。視覚に障がいがある当事者が監修し、紙のハザードマップと同じ情報量が伝わるよう工夫。さらに国土地理院の地図情報をリアルタイムで取得できるようにしたことも特徴で、河川や避難場所などの周辺情報や気象庁の気象情報も読み上げてくれる。音やバイブレーションで正しい方向に導いていくれる仕組みだ。
ボタンには、利用者が使いこなせるよう「ラベル文言」を付与し、どういう項目のボタンなのかを把握できるようにした。
同社がハザードマップを革新する背景には、近年の災害で多くの高齢者や障がい者が被害を受けている実情がある。
各自治体は、災害時に「自助」「共助」「公助」を連携させる課題にも直面。とりわけ大規模な自然災害は被害が広範囲に及ぶため、公助以外の重要性も増している。それだけに、耳で聴くハザードマップで日常生活を送る地域の地形や避難所を事前に把握する意義は大きい。Uni-Voice事業企画取締役の谷口公二氏は「自助の部分で差があってはいけない」と力を込める。
既に耳で聴くハザードマップの提供実績を積み上げている。これまでに青森県や秋田県、福岡市、目黒区など12の自治体が契約を結んでおり、契約数をさらに増やすことを狙う。
今後もより使いやすいサービスの実現に向けて改良。日本語も含めて5言語に対応するとともに、小学生でも理解しやすいやさしい言葉に再編集することも目指している。
東日本大震災から14年の節目は、誰一人取り残さない「インクルーシブ防災」という考え方を再認識する機会にもなった。防災をめぐる数々の課題をデジタル技術で解決に導く企業の挑戦はこれからも続いていく。
(おわり)