2025.03.18 企業で「人」への投資加速 NEC、幹部社員に株式 三菱、20年ぶり人事制度刷新

NECは昨年7月、新入社員が講師となった「リバースメンタリング研修」を開催するなど社員のエンゲージメント向上に注力している

NECの人的資本経営について説明する堀川執行役=17日、東京都港区NECの人的資本経営について説明する堀川執行役=17日、東京都港区

 デジタル人材不足が続く国内IT市場で、人材を「資本」として投資し、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」が注目されている。NECは2025年度から一部幹部社員を対象に株式報酬制度を導入。富士通は26年度から「新卒一括採用」を廃止し、通年採用を取り入れる。採用や待遇といった企業の魅力にも直結する取り組みだけに、各社の独自性も色濃く反映されている。

 「国内企業では先進的な取り組みだ」。NEC執行役コーポレートEVP兼CHRO(最高人事責任者)の堀川大介氏は17日の説明会でこう強調した。

 同社は25年度から、株式交付信託を用いた業績非連動型の新たな株式報酬制度「Value Shares」を、統括部長などの戦略ポジションを中心とした約400人に導入する。金銭ではなく自社株式を報酬として付与することで、株価への意識を高めてグループ一丸で企業価値の向上を目指すのが狙い。中長期的には本社と一部グループ会社の従業員6000人以上に広げる予定。

 持株会制度も拡大し26年度から約6万人を対象に、従来からある一定率の奨励金に加えて、自社株式を無償で付与する仕組みも取り入れる。堀川執行役は「若手からシニア層まであらゆる従業員の力を最大限に引き出す上で、人への投資として新たな報酬制度の展開を進めていく」と意気込む。

 職務内容によって雇用契約を結ぶ「ジョブ型」の人事制度を、新卒採用にも広げたのが富士通だ。26年度の新卒採用から、年度ごとに一斉に採用する「新卒一括採用」を取りやめ、新卒や中途採用などの枠組みに関係なく通年採用を導入する。年度ごとの採用計画数も定めない。

 入社後数年間で行う定型的な業務はAI(人工知能)や業務改革によって見直し、若手人材が魅力を感じるような高いレベルの仕事に入社後早い段階から就いてもらうことで「報酬に見合うジョブにチャレンジできる機会の提供も含めて社員を処遇していく」(富士通)という。大半の新卒入社者は年収約550万円から700万円程度で、高度な専門性などを持つ人材は年収約1000万円程度になる見込み。

 学生が大学時代に得た知識や経験を活かしたいという要望を踏まえ、KDDIは20年卒採用から、初期配属領域を確約する「WILLコース」を実施してきた。ネットワークインフラエンジニアやデータサイエンス、リーガル&ライセンスなど、同社が定める業務領域の中から、学生が希望するキャリアをスタートできるようにしている。

 一方、三菱電機は人的資本価値の最大化を目指し、24年度から新しい人事制度を立ち上げた。従業員のキャリアオーナーシップに基づく自律的な成長を促進し、適正な評価と自律的キャリア開発を支援することをコンセプトにしている。

 新制度では、等級・評価・報酬制度を20年ぶりに刷新し、年功的要素を廃止。マネジメント層にはグローバル基準でのジョブグレード制度を導入し、ジョブ型人財マネジメントへの転換を図った。評価基準も「成果評価」と「行動評価」の2軸に明確化した。

 人的資本経営は、企業の持続的な成長と価値向上に欠かせない取り組みとなっている。将来の競争力の源泉となる「人材」ひとり一人が働く先を選ぶ上でも、企業の将来性を判断する重要な要素となりそうだ。