2020.10.15 【次世代オーディオデバイス技術特集】 ピクシーダストテクノロジーズの音響技術

【写真2】SOUND HUG

【写真1】Holographic Whisper【写真1】Holographic Whisper

 筑波大学発のスタートアップ企業であるピクシーダストテクノロジーズ(東京都千代田区)は、独自のコア技術「HAGEN波動(波動制御技術)」から生じる要素技術や応用技術を適用することで、様々な社会課題を解決するための研究開発を行っている。同社は筑波大学の落合陽一研究室のアイデアを商品化するために設立され、今年5月で設立3年を迎えた。

 同社が事業化を進めている「Pixie Dust」は、超音波フェーズドアレイを用いた3次元音響浮遊技術。超音波で物体を浮かせることができることは従来から知られていたが、その空間分布を制御することにより、浮かせた物体を自在に動かしたり従来とは異なる並び方で浮かせたりすることが可能。

 アプリケーションとしては、工場の中でロボットアームを使わずに小さい部品を個別に持ち上げたり、医薬品や化粧水などの液滴をボトルまで搬送したりすることが考えられる。また、白い粒子を面状に配列することによって、空中に映像投影のためのスクリーンを設置するなど、エンターテインメントやアドバタイズメントへの応用可能性もある。

何もない空中から音を発生

 超指向性スピーカ技術の「Holographic Whisper」(写真1)は、超音波の焦点をつくることで何もない空中から音を発生させる音響技術。音の発生位置、再生する音声、ボリュームをうまく切り替えることで、誰に何をどこから聞かせるかを制御できる。

 映像の中で注意を向けたい方向から音声を聞かせたり、イベント会場の特定の場所を通ったときのみ情報を届けたりと、視覚情報や位置情報と連動した没入感の高い演出が可能になる。また、音量を絞ることによる特定の人物にだけ音声を届けることができる。これにより、秘匿性の高い情報伝達や、周囲への音漏れに配慮したコミュニケーションなどが可能になる。さらに超音波焦点の位置を切り替えることにより、複数の人物にそれぞれ異なる音声を届けることもできる。

 Holographic Whisperの応用用途としては、特定の場所のみに音を発生させることが可能で、車室内の音響境の切り分けや、座席が多い飲食店などで特定の席・テーブルに座っている来店者だけにはっきりと音を伝えるなどの用途に活用できる。

振動と光で音を感じる

 「SOUND HUG(サウンドハグ)」(写真2)は、振動と光で音を感じることができ、聴覚障がい者でも音楽を楽しめるデバイス。抱きかかえることで音楽を視覚と触覚で感じられる球体型デバイスで、楽曲全体の音・特定の楽器の音をMIXして、球体に内蔵された振動スピーカで再生することにより、音楽の振動を触覚で感じることができる。音楽に合わせて球体が発光する仕組みになっていて、振動だけでは伝わりづらい曲の旋律を視覚でも感じることができる。

 同社は、SOUND HUGによって、目の自由・不自由にかかわらず、単に耳で感じるだけではない、音楽を身体で楽しむという全く新しい音楽体験を提案している。

 同社は、サウンドハグを活用し、日本フィルハーモニー交響楽団とのタイアップによる、聴覚障がい者の人でも音楽を楽しめる音楽会を、18年、19年と2年連続で開催している。

 「Leaked Light Field」は、自然な質感を持った素材にディスプレイとしての機能を付加する情報提示技術。対象物体の表面に微細な穴加工を施し、光の通り道を作ることで表面素材の質感を損ねずに情報の表示を可能にした。表面素材の選択の幅が広がることで、ディスプレイを使用したプロダクトデザインの可能性を広げる商品。

 従来のガラスやプラスチックで表面が覆われたディスプレイでは革や木材などの素材の凹凸を持った質感を再現するには限界があった。Leaked Light Fieldでは、これらの質感を持った素材に対して微細な穴加工を施し、光の通り道を作ることにより表面素材の質感を損ねずに情報の表示を可能にした。

 Leaked Light Fieldで作られたディスプレイでは、視点位置に応じて表示内容を動的に変更することができる。ディスプレイを右側から見ている人には時間を表示し、左から見ている人には天気予報を表示するなど、同時に異なる情報を異なる人に提示することが可能。この機能を応用して、裸眼での立体視も実現することが可能。

 「xWheel」は、市販の車椅子に後付けで自動運転化ユニットを搭載することで、車椅子の利用者がボタンや音声操作で好きな時に好きな場所に行くことができるという車椅子の自動運転技術。車椅子の利用者の利便性向上と介護士の移動介助に関わる負担軽減を目指している。

 同社は、今年1月に米国ラスベガスで開催された「CES2020」に出展。SANDS EXPOの「J-Startup」ゾーンに出展し、超指向性スピーカや、聴覚障がい者でも音楽を楽しめるデバイスなどをデモを交えて紹介し、来場者の関心を集めた。

 同社は昨年11月に新研究開発拠点の「テクノトープ」(茨城県つくばみらい市)を開設している。