2024.12.20 【照明業界 未来予想図】〈6〉第二次LED革命 自由自在な「夢の照明」誕生

光と制御の解放がLED飛躍のカギを握る(出所:富士経済)

 日本の照明市場は、標準的な他国・地域に比べると「コモディティ化による短期・壊滅的な状況を回避し、時間的に猶予のある照明制御・ソリューション展開が可能」な市場になった。ブーム後の反動で世間の評価はやや下がりつつも、LED照明はまだ大きな伸びしろを残していたことも事実だった。それが「照明制御・ソリューション」市場であり、それを指して「これからが第二次LED革命だ」と評する建築・設計事務所の方も多くいた。その背景には、照明がLED化することにより「『光』と『制御』が解放された」ことがある。

「光」と「制御」2つの解放

 「光の解放」が指すものは何か。これは、従来であれば「光源に規定された照明器具」であったものが、その限りでなくなることを意味する。具体的には、照明器具の設計自由度が著しく向上し、光の波長や色などの変更・設定が可能になったことが挙げられる。

 器具設計では、電球や蛍光灯の形を前提として筐体(きょうたい)の設計を行うことが基本だった。しかし、LED光源は非常に小型で点光源。しかも光自体は熱を帯びないという特性から、従来光源では作れなかった照明デザインが可能になった。照明器具メーカーにとっては、電源や放熱など新たな設計項目が増えつつも、自由自在にデザインできるという意味で大きな恩恵があった。

 変更できなかったランプ(光源)の光も、LEDメーカーとの調整によってはるかに自由度の高い光を選択できるようになった。

 設計自由度の高さは、照明製品(プロダクト)のあり方を大きく変える余地があった。そのため、LED化が加速する前から、LEDの設計自由度の高さに期待する設計者やデザイナーが多く存在していた。

 しかし、日本では「従来照明のLED化」が喫緊の課題としてあった。そのため「レトロフィット」、いわゆる既存照明からの置き換えに終始するLED化が先行していた。自由度の高い照明に本格的にチャレンジするようになったのは、2010年代後半にレトロフィット需要が落ち着きを見せるようになってからだ。

光と制御の解放によるLED照明の進化(出所:富士経済)

 もう一つの「制御の解放」も、自由度を高める重要な要素になる。照明制御市場は以前から存在していたが、有線式制御が中心だった。提供していたのも電機大手が中心で、寡占市場になっていた。それ以外も舞台照明などの特殊・専門用途が多かった。

 しかし、LED化による機器の「デジタル化」により、多種多様な手段での制御が可能になった。

 有線制御では、欧州を中心にDALI(Digital Addressable Lighting Interface)というオープン制御規格が注目されるようになった。照明制御に関して寡占市場となっていた国内は、提供企業の囲い込み的な提案が中心。一方、オープン制御が広まれば、さまざまな器具メーカーの多様な照明から製品を選び、制御できるようになる期待があった。

 LED化で無線制御も容易になった。10年代にスマートフォンやタブレット端末が爆発的に普及し、ブルートゥースなどの無線通信規格も一般化した。建築市場の通信インフラ環境も、スマホなどの無線通信機能を備える電子機器を操作デバイスとして活用できるように変化していった。

 光と制御という2つの「解放」は、従来照明にない使い方やあり方の可能性という点でも、LEDや有機EL、レーザーなどを含む固体光源照明(SSL)全体に対する期待値だった。SSLとして考えると、照明用はLED光源が現時点で主流だが、ディスプレー用は有機EL、自動車用はデザイン性の高い外装照明やレーザーヘッドライトなど、用途によって使われる光源に変化もみられる。

 LEDによる自由自在な照明のあり方について、10年代半ばに照明専業器具メーカーの方がぽつりと「私が入社した時には想像すらしなかった。よくよく考えると夢の照明なんですよね」と話していたことがとても印象に残っている。それほどまでに、10年以前には「有り得なかった」照明が、それ以降の技術革新によって当然のように使えるようになった。これまでの状況を知らないとその凄さを図ることすらできないものだと感じた覚えがある。

 ちなみに、「IoTは、昔で言うユビキタスネットワークだ。DALIよりも前からマルチベンダー対応として提案され、コンセプト自体は1990年代以前からも存在していた」と話す大手電機メーカーの方もいた。こうした点からも、DALIをはじめ、無線制御などマルチベンダー対応へと当たり前のように可能性を広げたLEDによる技術革新は、レトロフィットにとどまらない、凄まじい影響を照明業界にもたらしたと言えよう。

LED照明は無線通信などでさまざまな機器との連携も可能になった(出所:富士経済)

イノベーションの後半戦、「社会実装」へ

 最近よく指摘されるのが「イノベーション=技術革新は誤訳」という論調だ。本来的には、「技術革新も含め、『社会実装』がどれほどなされ、社会にどれほど影響を与えたか」という点が重要視される。

 照明業界では、青色LEDがノーベル賞を受賞した理由の一つとして、「社会にどれほどの影響を与えたか」という点が重視されたと聞く。LED照明が当初、小型化や省エネ性の高さというインパクトが評価されたと考えた場合、照明制御・ソリューションの展開はいかに「社会や市場、顧客の実装に至ったか」という視点が重要になってくる。

 光も制御も自由自在になった。今度はそれをいかに市場に提案し、顧客を見つけ、使い方を認知・定着させるか――。「モノ売り」だけでなく「コト売り」を含む提案と実装が求められる事業モデルへの移行が、10年代後半から照明各社に問われるようになってきた。

<執筆構成=富士経済・石井優>

【次回は来年1月第3週に掲載予定】