2024.10.04 【照明業界 未来予想図】〈1〉LED革命前夜の日本

長期繁栄をつづけた照明産業の構図(出所:富士経済)

 令和の時代、「照明=LED」と一般的に認知され、身近で当たり前な存在となって久しいLED照明。ビジネス視点では、実は、平成後期(2011年ごろ)からほんの十数年という短期間で極めてまれなイノベーションを巻き起こし、従来の業界構造を大変革させ、現在に至っている。

 本連載では、そんなLED照明の業界変遷について、特に日本に焦点を当てて解説していく。初回は、LEDによる大変革が起こる以前の照明業界や市場環境について解説する。

 LEDが登場する前のレガシーな照明業界・市場構造は、「光源」と「照明器具」に分かれていた。光源とはランプのことで、白熱電球やハロゲン電球、蛍光灯などを指す。これらは、「太陽の光=自然光」に対し、「人工的な光=人工光」と表現されることもある。

 1879年、トーマス・エジソンが発明したとされる白熱電球から、光源の歴史は始まった。ここにLEDという次世代光源が登場し、市場に大変革をもたらした。

LEDの登場が照明産業に大変革をもたらす(出所:富士経済)

 光源と照明器具が分かれていることで、長期繁栄をもたらすビジネスモデルが構築されていたのが重要なポイントだ。産業として、最上位にランプメーカーがおり、中段が照明器具メーカー、下段が卸・代理店や工事店、その先にユーザーが存在するという構造だった。

 ランプメーカーはランプ=光源を製造・販売し、照明器具メーカーはランプを調達して筐体(きょうたい)を組み立てる。電材ルートなどを通じて照明器具を販売するが、ここでのポイントは「ランプは定期的に必ず交換する」ということだ。

 ランプメーカーは、世の中のユーザーに使用されるようになった照明(ストック市場)に対し、継続的にランプの販売機会を得ることになる。ビジネスモデルの教科書でいうところの「レーザー&ブレードモデル(替え刃モデル)」や「ジレットモデル」と呼ばれるもので、ひげそりの刃、プリンターのインク、そして照明のランプなどが代表的な製品例になる。昨今の流行り言葉で言えば「循環型事業モデル」や「リカーリングビジネスモデル」にも類し、ユーザー接点と収益化機会を継続的に獲得するモデルの1つだ。

 さらに、ランプビジネスは装置産業だ。スケールメリットや特許などで生産者を限定することで、ランプメーカーは寡占化された市場を構築・維持してきた。グローバル市場では、欧州のフィリップス、オスラムに加え、米国のゼネラル・エレクトリック(GE)が世界の3大ランプメーカーとして長く君臨し、世界共通規格を作り上げて「ランプ帝国」を築いた。さらに欧州2社は、自動車用ランプや特殊産業用ランプでも同様の優位性を保持していた。

閉鎖的で高価格な日本市場

 グローバルのランプ市場が3大メーカーによって共通化されていた中、独自規格で市場を形成したのが日本だ。例えば、白熱電球の口金規格は、世界では「E27」が標準であるのに対し日本では「E26」が普及している。蛍光灯は、世界では「T5」という規格が標準なのに対し、日本はそれより少し太い「T8」が標準。規格による参入障壁で、欧米ランプメーカーの日本市場のシェアは極めて限定的だった。

「ガラパゴス化」による独自市場の形成で、大手日系企業はグローバル企業に迫る売り上げ規模だった(出所:富士経済)

 日本のランプメーカーとしては、1890年に東芝が日本初の白熱電球の製造を開始した。LED前夜の2010年頃には、パナソニックグループ(松下電器産業から08年に社名変更。「ナショナル」ブランドも統合)、三菱電機オスラム、NECライティング、日立ライティング、岩崎電気などが、一般照明用と特殊光源の製造・販売を行っていた。

 パナソニックグループでは当時、照明器具事業はパナソニック電工(旧・松下電工)が手掛けていたが、「器具事業がどれほど苦戦しても、ランプ事業の収益と合算すれば余裕で黒字になる」とさえ言われていた。他のランプメーカーも同様で、ランプ事業は日本の電機メーカーにとって安定収益をもたらす優良事業として長らく位置づけられていた。

 また日本では、テレビCMを通じて、高度成長期や「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた1960~1990年代の経済成長の波に乗り、「より明るい照明が良い照明」「年末の大掃除には照明を交換して明るく新年を迎えましょう」といった生活文化・啓蒙も進んだ。そのため、「日本の照明文化は、松下と東芝、そして(東芝スポンサーのテレビアニメ)『サザエさん』によって形作られた」と冗談めかして話す業界関係者もいたほどだ。

世界と肩を並べる日本企業

 日本は、ガラパゴス文化であることで、世界的にも非常に高単価な市場であったことも特徴だ。照明は、日中・夜間に生活や活動を行う上で必要不可欠な製品という性質上、世界のどの国でも、住宅・非住宅の建設市場規模や電気利用、電化率、都市化率、人口規模、経済力などと相関がある。日本市場は10年時点で、人口規模は世界の約2%弱だったのに対し、照明市場規模は10%弱という高い構成比となっていた。

 同時期の一般照明と特殊光源に関するグローバル主要企業の売上高ランキングでは、フィリップス、オスラム、GEのグローバル照明メーカーに迫る規模で、パナソニックグループ(パナソニック ライティング社とパナソニック電工)、東芝グループ(東芝ライテックとハリソン東芝ライティング)が上位に入った。特殊光源主体ではあるが、ウシオ電機といった日系企業も上位にランクインしていた。

 パナソニックグループは当時、欧米に現地子会社を保有していた。東芝ライテックも海外展開はしていたものの、両社はともに日本市場が主軸。こうした日系企業がグローバルを主戦場とする3大メーカーにも迫る事業規模であったことは、驚嘆に値する。

 日本の照明環境は、海外と比べてみても、「白く明るい蛍光灯照明」が行きわたっている。そして、ガラパゴス化によって形成・維持されてきた照明産業が、日本の大手電機メーカーの発展に長らく貢献してきたことも事実。これらが、LEDという新光源の登場によって照明環境が一変し、崩壊していくことになる。

〈執筆構成=富士経済〉

【次回は10月第3週に掲載予定】