2020.10.28 太陽電池モジュール リサイクルへ動き技術や仕組みの確立急ぐ

J&T環境が稼働を始めた設備

 太陽光発電設備の普及に伴い、太陽電池モジュールのリサイクルに向けた動きが少しずつ表面化してきた。見据えるのは、急激な廃棄量の増加が懸念される30年代。FIT(固定価格買い取り制度)以降にも太陽光発電の拡大を持続させる鍵を握るとあって、各社は技術や仕組みの確立を急ぐ。

 12年7月に始まったFIT以降、太陽光発電の導入が全国的に進んだ。パネルの耐用年数は20-30年とされるため、試算では使用済み太陽電池モジュールの排出量は33年に一気に増加。35-37年にピークを迎え、年間17-28万トンの排出が見込まれる。これは15年度の産業廃棄物の最終処分量の2%程度に相当する量で、将来、処分場などのひっ迫が懸念されている。

技術をいち早く実証

 「技術は日進月歩する。先駆けて参入し、将来の事業のための技術をいち早く実証したい」。太陽光パネルリサイクルへの参入を23日に表明し、実証プラントの稼働を始めたのはJFEエンジニアリング(東京都千代田区)だ。プラント建設のほか、広範な廃棄物リサイクル事業も手がける。

 グループ会社のJ&T環境(横浜市鶴見区)が、産廃の収集運搬拠点である北関東営業部(群馬県伊勢崎市)で21年1月まで試験運用を続け、順調にいけば21年度から事業化する計画だ。

J&T環境の稼働を始めた設備が入る建屋

 着目したのはパネルのガラスなどを破砕する大きさだ。従来は粉状につぶしていたため、低品位で価格も下がり、リサイクル用途も限られていた。今回稼働させたプラントでは、熱を加えた上でハンマー状の機械でたたくなど、ガラスの割り方などを工夫し、5ミリメートル角程度の比較的大きな破片で回収する。価値が高まり、用途も広がるという。

比較的大きな破片に砕かれたガラス(J&T環境)

 30年度には年間40万枚のパネルをリサイクルし、6億円の利益を目指す。JFEエンジニアリングは「大量廃棄はビジネスチャンスでもある。各社の目の付けどころは同じであり、少しでも早く事業化に乗せたい」と力を込める。

実証プラントを建設

 国内の太陽電池メーカーとして動きを加速させているのが、出光興産。高性能な電池モジュール開発に力を入れる一方で、21年3月にリサイクル技術の実証プラントを建設する。同社によると、現状では国内太陽電池メーカーで唯一の取り組みとなる。

 100%出資子会社のソーラーフロンティア(東京都港区)は、銅などを主成分とする化合物半導体系のCIS薄膜太陽電池を量産しており、実証プラントもソーラーフロンティアの開発拠点である国富工場(宮崎県国富町)内に設ける。

技術開発用の装置から取り出したカバーガラスなど
一部の処理をした基盤ガラスなど(写真はいずれもソーラーフロンティア)

 太陽電池モジュールは、20年以上の長期にわたって屋外で使用しても問題ないような強固な構造が特徴。だが、この点が「リサイクルを技術的に難しくさせている」(ソーラーフロンティア国富工場技術部)原因といえる。一方、「太陽電池のリサイクルの最重要課題」(同部)と位置付けられるのが、一番の重さがあるカバーガラスを分離して再資源化すること。このガラスの分離についてソーラーフロンティアが独自技術を開発した。

 従来はガラスに付いた封止材(異物が内部に入り込まないようにする樹脂)を、加熱した刃で溶かしながら切断し分離回収する。しかしガラスに相当量の樹脂が残り、リサイクル市場として有望なガラスファイバなど向けには、改めて樹脂を除去する必要があった。

 そのため、樹脂が溶けない低温で加熱して引き剥がす手法を開発した。「テープを剥がすようなイメージ」(同部)で、従来の樹脂の除去がいらず、環境負荷の小さいプロセスだ。

 同社ではリサイクル用途の開拓を進め、既にモジュール全体でリサイクル率80%以上のメドをつけた。リサイクル技術は、CISだけでなく、市場の大半を占める結晶シリコン系でも応用が見込め、年間600トン、電池容量で5MWの処理能力を目標とする。

業界団体に動きも

 業界団体に動きも出てきている。ガラスメーカーやリサイクル業者などで構成するガラス再資源化協議会(東京都港区)は2月、太陽光パネルの出荷からリサイクルまでを自主的に管理する仕組みを立ち上げた。

 モジュールの製造番号などをメーカーや代理店、発電事業者などが登録してデータベース化。廃棄時には分別し、リサイクルやリユースを最終確認して証明の発行なども目指す。21年から試験的な稼働を検討している。

 仕組みづくりには外資系のパネルメーカー数社も協力。既に発電事業などを手がける業者数社から、参画したいとの申し出もある。

 国が発電事業者に対し、廃棄の際の解体などに備えて事前に費用の積み立てを義務化するなど環境の変化も起きている。協議会関係者は「リサイクル推進を明確に議論できる素地が整いつつある」と歓迎する。

 こうした動きの広がりについて、リサイクルのガイドラインを公表している環境省リサイクル推進室は「大量廃棄までには時間があるものの、リサイクルが進むにはインセンティブが必要だ。関係する技術革新やコストダウンなど課題は多い。今後の動向を注視したい」としている。