2020.12.30 加速度増す「50年カーボンニュートラル」エネルギー企業や業界団体が描く今後30年間
波照間島の可倒式風車
菅義偉首相の表明を受けて、国内で加速度を増した「50年カーボンニュートラル」。動向の要の一つを握るエネルギー業界でも、今後の30年間を描く企業や業界団体などが出てきた。国の政策的、財政的支援や、技術開発のイノベーションの進度…。不確定な要因に依存しつつも、将来の目標を見据えてシナリオを描くことで、「意思」を示す取り組みだ。
チャレンジングな50年ゼロエミ
大手電力で初、沖縄電力
大手電力会社として初めて、50年のゼロエミッションに向けた計画を取りまとめて公表したのが、沖縄電力(沖縄県浦添市)だ。30年間を見据えたロードマップを策定。「再エネ主力化」と「火力発電の二酸化炭素(CO₂)排出削減」の二つの方向性を示し、地域独自の離島を生かした実証なども進めながら、「チャレンジングな目標」(沖縄電力)を掲げる。
同社の供給する沖縄県では地理的、地形的な条件や需要規模の制約などで、原子力や水力の開発が難しい。また、地域内には本島のほか37の有人離島があり、海底ケーブルで供給したり、CO₂排出の多い重油で発電したりしているケースも多く、難しい要因も抱える。
電力需要は、沖縄県内の経済発展などで、近年まで右肩上がりを続けてきた。1990年には47億2500万kWhだった電力需要は、ピークとなった16年には78億1300万kWhにまで増加した。
一方、発電で発生するCO₂量も、需要に合わせて増加傾向を続けてきた。1990年の409万トンから2010年には704万トンに増加。一方で需要が増え続けていた15年には614万トンと下がり始め、19年も583万トンと減少傾向を維持した。
CO₂排出量は10年にピークを打ったとみられ、沖縄電力は「これまでの需要増に対しても、再エネの拡大やLNG(液化天然ガス)燃料の導入により、CO₂排出はピークアウトできた」とみる。
●風車とモーターで島の需要分を発電
こうした実績の背景として、同社が強調するのが、再エネなどの導入拡大を進めたこと。10年度に、これまで主力だった石炭火力の一つ、具志川火力(同県うるま市)にバイオマス混焼を開始。12年度には、LNG火力の同社として初となる吉の浦火力(同県中城村)を建設するなどしてきた。
中でも、注目されるのが、西表島の南にある日本最南端の有人離島、波照間島。島民約500人の電力需要を賄うため、09年に国内初となる可倒式風力発電2基を設置。台風の通り道でもあるため、襲来時には破損しないように風車を倒すことができる設備だ。
18年度からはモーター発電機も導入。風車は発電量に変動性があるため、これまでは他の離島と同様に重油のディーゼル発電機が必要だった。モーター発電機と組み合わせることで、余剰電力分は蓄電池にためておき、風力だけで需要が賄えない際に、蓄電池から電気でモーターを回して発電。足りない分を供給する仕組みだ。
波照間では風の動向などの条件が合えば、再エネ100%由来の電力で約10日間を賄うことできたという。同社は「蓄電池の技術革新などをみながら、他の島に広げることも検討する」とする。
●離島に独自のマイクログリッドを実証
策定したロードマップで掲げる2本柱は、これまでに実績を上げた取り組みの延長だ。メルクマールとして30年にCO₂排出量を05年度比26%削減する中間目標を掲げる。
「再エネ主力化」の施策として、30年までに太陽光や風力、バイオマスといった現状の再エネ2.9万kWを、約3.4倍に相当する10万kW分増加させる計画だ。太陽光発電設備と蓄電池を住宅に無償提供し、第三者モデルで供給する事業で5万kW、陸上の大型風力を導入して5万kW拡大することを見込む。台風のメッカである沖縄では風力導入も容易でない。国の規制緩和の動向などを見据えながら取り組んでいくとする。
宮古島に近い来間島では、システム会社などと共同で、太陽光発電と蓄電池とを組み合わせたマイクログリッドの実証試験を始める。21年夏ごろをメドに約100世帯で始める予定だ。宮古島の発電所から連係して電力供給されているが、自然災害時などには停電することも多かったという。マイクログリッドができれば、自立して運用することもできるメリットがある。
もう一本の柱、「火力電源のCO₂排出削減」策としては、今後もLNGを拡大させ、水素やアンモニアなどのCO₂フリー燃料の導入を検討していく。具志川に続いて、21年度には、残る金武(同県金武町)の石炭火力でもバイオマス混焼を始める予定だ。これで同社のすべての石炭火力がバイオマス混焼することになり、県内の建築廃材などを燃料として活用するという。
30年以降は、非効率火力のリプレースを進めながら、CO₂を回収・利用・貯留するCCUSの技術を発電所などに導入することなども視野に入れている。「再エネ主力化と、火力電源のCO₂排出削減にどちらに重点配分するかは、技術の進展次第で変わっていく」(同)として柔軟な姿勢を維持しながら、50年目標を目指す考えだ。
同社広報グループは「当社としてもともと検討自体は進めていた。菅首相の宣言を踏まえ、社会的要請が高まり、事業者としての挑戦の意思は、早めに社外に公開すべきだと判断した」と話している。
イノベーションで、ガスの脱炭素化
日本ガス協会
業界団体としては珍しくシナリオを明示したのが、日本ガス協会(東京都港区)だ。目指す姿勢を明確にするため、取り組むべき内容をまとめた「カーボンニュートラルチャレンジ2050」(チャレンジ50)を公表した。CO₂の排出が比較的少ない天然ガスへのシフトを徹底させながら、ガス自体を脱炭素化するイノベーションを進めていくなどして、CO₂を排出しないガス利用の割合を高めていく。
同協会は、全国の約200の都市ガス会社などが加盟する。協会の広瀬道明会長(東京ガス会長)は会見で、「脱炭素社会の実現に向けた貢献の意思表明だ」などと語った。
「チャレンジ50」では、天然ガスシフトの徹底や高度利用▽イノベーションによるガス自体の脱炭素化▽CCUS(二酸化炭素の回収、利用、貯留)技術の開発や海外貢献などを、3本柱に据えた。
需要側では、LNG(液化天然ガス)を船舶燃料などの用途に拡大させる。天然ガスの高度利用は、普及が進む「再生可能エネルギーの調整力としても活用が期待」されるとして、電力と熱を生産して供給するコージェネレーションシステムなどにも広げていき、「大幅な低炭素化」へと導いていく構想だ。
●肝の技術にメタネーション
一方、供給側では、ガス事業での「脱炭素化」を進める手段として、水素とCO₂から都市ガス原料の主成分であるメタンを生成する「メタネーション」の技術などを核に据えた。メタネーションは、経産省・資源エネルギー庁が推進する「カーボンリサイクル」の観点からも、主力の技術と位置付けられている。
CO₂と水素の反応は触媒技術があれば、大きな電力コストはかからないとされる。水素をつくる水の電気分解に使われる電力を、再エネなどのクリーンエネルギーで調達できれば、生産物も「カーボンニュートラル・メタン」として広く普及を促せる。
導管やLNGタンカーなどエネルギー供給インフラを、有効活用できるメリットも大きい。「既存の設備をそのまま使えることで、最も低コストで脱炭素化を図ることができる方法だ」(同協会)という。
チャレンジ50でも、再エネなどを活用したCO₂フリー水素と、LNG火力発電所からの排ガスなどから回収したCO₂とを合成してできるカーボンニュートラル・メタンの活用を重要視する。「まだ現時点では実証実験の段階だが、今後、開発に傾注していく」(同協会)考えだ。
ほかにも、水素ネットワークの構築や、森林保全などを通じてCO₂量を削減・吸収させた分で埋め合わせた「カーボンニュートラルLNG」なども活用する。そうした活動を通じて、CO₂などを実質的に排出しないガスを導管に通す割合として、30年までに5-20%、40年までに30-50%、50年までに95-100%を目指すという。
同協会は「ハードルは高いが脱炭素を目指す以上、しっかりやる必要がある。メタネーションのコストも水素の価格に依存するため、当協会だけでは進まない。国や他業界と一緒に取り組まなくてはならない」と話している。