2021.02.02 石油開発最大手が描くネットゼロ戦略国際帝石、ブルー水素を突破口に

豪州沖のイクシスプロジェクトの海上設備

豪州ダーウイン近郊のLNGプラント豪州ダーウイン近郊のLNGプラント

 石油開発の国内最大手、国際石油開発帝石は、国が「50年カーボンニュートラル」を掲げたことを受けて、50年に向けての「事業展開」の戦略を公表した。同社の持つ技術や資産を生かすため、二酸化炭素(CO₂)を回収、利用、貯留するCCUS技術や、天然ガスから生産できる水素事業などを将来の中核に据える。合わせて公表した社名変更については、新分野への進出を「しっかりと胸に刻むため」(上田隆之社長)だとして、覚悟も示した。

 「二面性を持った会社に展開していく」。事業展開の説明会見に立った上田社長は語った。

 二面性とは、石油、天然ガス開発を中心事業としてきた同社が、当面は需要が続くエネルギーの安定供給を維持しながら、将来に向けて水素事業など新分野に傾注していくことを意味する。

 同社は今回、地球気候変動問題に対して、二つの目標を設定。中間目標として、事業活動などで排出する30年のCO₂量を、19年比で30%以上削減させることを目指す。さらに50年には、排出を実質ゼロにすることが目標だ。

 そのため、取り組むべき5つの事業を柱に据えた。上流開発事業でのCO₂低減、水素事業の展開、再生可能エネルギーの強化と重点化、森林保全の推進などだ。今後約5年間に、年平均で2500億-3000億円程度の投資を行い、このうち掲げた5つの事業に200億-300億円程度を充てる計画だ。

 新たな事業を推進するため、3月1日付で、社長直属の組織として「水素・CCUS事業開発室」を新設する。社名については、国外に限って使用していた「INPEX(インペックス)」を、4月1日付で正式な社名とする予定。上田社長は、従来、石油を意味していた社名の「P」について、「パイオニア(開拓者)のPだ」と語った。

CO₂回収技術と組み合わせ

 「最大の課題は、特に天然ガスについてCO₂をどのように低減するかだ。よりクリーンなものにしていくのが、当面の我々の行動だ」。上田社長は、会見で力を込めた。

 同社が事業の突破口を見出したいのが、「ブルー水素」だ。化石燃料に由来しながらも、CO₂回収技術を組み合わせることで、温暖化ガス排出をゼロにして製造する水素。再エネを使って水を電気分解するのは「グリーン水素」と呼ばれる。

 同社は、国内で水素プロジェクトを計画する。新潟県・南長岡のガス油田からの天然ガスを既存のパイプラインを活用し、水素とCO₂に分離。CO₂を地下に貯留するなどして、カーボンフリーな水素を生産する。水素を燃料にした発電所にも供給。そこで発生したCO₂は、減退しつつあるガス田に圧入して貯留する。

 その過程で、空気中からCO₂を採取する「DAC(ダック)」にも取り組む。この装置は世界中で技術開発が進んでいる。多くは熱を必要とするが、水素製造や水素発電で得られる熱を、有効活用する狙いだ。「国内で初めての水素の製造、利用を一貫した実証プロジェクトになる」(上田社長)という。同社によると、21年中に投資決定を行い、23年に事業開始する予定だ。

中東でも新プロジェクト

 ブルー水素には、CCS技術が肝の一つになる。豪州で進める同社最大のプロジェクト、イクシスLNGでもCCSの取り組みを進める。豪州北東部のダーウィンから新潟に船舶でLNGを運び、ガス化して国内に供給されている。同社がイクシスで生産する天然ガスは、日本の輸入量の1割を占める規模だ。豪州側でCO₂を圧入できる適地の選定や評価などに乗りだすという。

 また、水素は液化が難しいなど、運搬方法が大きな課題だ。世界各地にガス田を持つ同社にとって、日本への運搬法は重要な鍵を握る。

 計画している一つが、水素からアンモニアを合成して運搬する手法。既に製造法や運搬法が立証されており、「もっとも早く社会実装ができる技術」(上田社長)と見込んだためだ。

 世界的な産地である中東のアラブ首長国連邦のアブダビで生産された天然ガスから水素、さらにアンモニアを製造する事業を検討する。製造過程で発生するCO₂は、陸上油田に圧入するなどして、クリーンなアンモニアを目指す。既に現地政府側などと協議を進めているという。

 上田社長は、ブルー水素事業に必要な条件として、天然ガスやCCS技術、貯留する場所などを挙げて、「当社には、ブルー水素をつくる能力、意志、資産、人材がそろっている。活用していきたい」と意気込みを語った。