2021.02.12 出光、「飛躍の地」で進めるバイオマス地産地消モデルへ衣替え
瀬戸内海に面した周南コンビナートにある出光興産・徳山事業所
石油元売り大手の出光興産は、山口県周南市でバイオマス発電事業の計画を進めている。周南市は、同社にとって精製部門に進出した、いわば「飛躍の地」。同社最大となるバイオマス発電所を建設し、豊富な森林資源を生かすため同市が進める地域循環の実証にも参画して、地産地消の一役を担う方針だ。
瀬戸内海に面した同市の出光興産・徳山事業所は、石油精製に乗りだした「第二の創業地」とも言われる。1957年、旧海軍燃料廠跡地に出光として初めて製油所を操業した。映画化された創業者の故出光佐三氏が、世界で初めてイランから石油製品を輸入した日章丸事件(53年)の直後で、わずか10カ月で完成させたことなどでも注目を集めた。
当時は「東洋一の規模」とされ、周南コンビナートの中核として機能した。だが、ガソリン需要の減少などの影響で、2014年に石油精製機能を停止した。
現在は化学事業の主力拠点として、ナフサから、裾野が広い基礎化学原料のエチレンなどを製造。パイプラインなどでコンビナート内の化学会社に供給している。エチレン生産能力は出光が国内トップ。同事業所としても国内で2番目の生産力を持つ。
この地で出光が、製油所跡地や既存のインフラを活用して、新たに建設を進めるのがバイオマス発電所だ。出力5万kWで、年間発電量は約10万世帯分に相当する3億6000万kWh。出光としては4カ所目のバイオマス発電所だが、出力は最大規模だ。発電した電気は、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)で中国電力に売電。22年度内の営業開始を目指している。
●早く育つ樹木を段階的に植林
こうした動きを受けて、出光などが参画して、地元、周南市が今年1月に発足させたのが「周南市木質バイオマス材利活用推進協議会」。地域に豊富な森林を、バイオマス発電の燃料供給地に育てる実証を行う。
参画企業には、コンビナートにある東ソーや、日本ゼオンなど大手化学会社も名を連ねる。周南コンビナートは「石炭火力の自家発電による安価な電力が競争力の源泉」(周南市)だったという。だが、世界的な脱炭素化の流れを受けて、コンビナート内で着目されたのが再エネの一つ、バイオマスを活用する動きだ。コンビナートでは、中核企業の一つ、化学会社のトクヤマも、丸紅などと組んで、バイオマス発電所(出力30万kW)の建設を進めている。こちらは、バイオマスと石炭を混ぜて燃料にし、22年の運転開始を目指す。
バイオマス発電にとって大きな問題の一つは、発電の燃料。量の確保やコスト低下が課題になる。だが、同市は面積の約8割を森林が占める。山間部からコンビナートがある臨海部も近く、輸送コストも低く見込める。
そのため、協議会では、同市北部の市有林約270ヘクタールに、15-20年で生育する早生樹を段階的に植林していく実証試験を始める。15年サイクルで、コンビナートでのバイオマス発電の燃料として供給していき、地元の林業活性化させる狙いもある。同市新産業推進室によると、植林した早生樹に特化して、バイオマスを地産地消する例は珍しいという。
従来のスギやヒノキは太い幹の部分は建築資材や紙などの製品価値が高いものに利用し、他に用途がない根元や枝部分などがバイオマスに使われてきた。価値を高くするため、時間と手入れが必要で、45年以上を費やすこともあったという。
実証では、当初から木の全体を燃料用途に限って育て、早生樹には、ヒノキ科の一種、コウヨウザンを植える。
●「地元とともに」、周南産の木材活用
2月から市有林のヒノキなどの伐採を始め、植林を進めていく。今後、年間5000トン強の木材が供給できるようになる見込みだが、実証が順調に進めば、近隣の私有林にも取り組みを拡大させる計画もある。
出光のバイオマス発電所は燃料の年間使用量が約23万トンに達する。当面は、輸入する木質ペレットやパームヤシ殻を充てるが、今後、協議会からの燃料提供も受けながら、国産材を広く活用していく方針だ。また、コンビナート企業が持つ自家消費の石炭発電について、再エネ事業を拡大させる出光が、低炭素化への技術協力をしていく構想もあるという。
出光興産は「徳山事業所では"地元とともに"という意識が歴史的に強い。地産地消がビジネスのキーワードになっていく中で、地域の経済循環に一緒に取り組んでいきたい」と話している。