2021.02.25 広がるゼロカーボンシティー宣言自治体の中で連携の動きも

銚子市内には多くの風車が建設されている

銚子市役所で行われた宣言会見の様子銚子市役所で行われた宣言会見の様子

 二酸化炭素(CO₂)排出量を50年までに実質ゼロにすることを目指す「ゼロカーボンシティー」を宣言する自治体が増えている。国の「50年カーボンニュートラル」表明が流れに拍車をかけ、既に270を超える自治体が宣言。長期を見据えた取り組みで、自治体同士の連携も生まれ始めた。

 千葉県北東部にある漁業で名高い銚子市は16日に会見を開き、越川信一市長がゼロカーボンシティーを表明した。越川市長は「地球温暖化による気候変動は生活に深刻な影響を与えており、地球温暖化を食い止めることは喫緊の課題だ」と指摘。「再生可能エネルギーを推進し、市民や事業者との官民協働による〝オール銚子〟の体制で50年までに二酸化炭素などの温室効果ガス排出量を実質ゼロにする」と宣言した。

 越川市長がオール銚子と呼ぶのは、市民らのほか、市が約50%出資する地域新電力の銚子電力(同市)や再エネ系大手新電力のLooop(ループ、東京都台東区)との連携だ。再エネ導入などを加速化させるため、連携を強化していく。

 銚子市は太平洋に面した立地で風況などに恵まれており、既に市内の農地を貫くように巨大な風車約30基が並ぶ。官民連携の「実現の第一歩」(同市)として、21年4月に統合して開校する市立銚子西中学に、市内の陸上風力発電所で発電した再エネ電気を供給する。市内の風力発電による電力だと分かる非化石証書も組み合わせる。この仕組みなどに銚子電力やループも関わり、実質再エネ100%の電力を中学校に供給する。35年をメドに市内の全公共施設の電力を実質ゼロにする計画だ。

 銚子市沖は、国が大規模な洋上風力発電開発を認めた促進区域。早ければ27年にも、数百MWに及ぶ設備が稼働を始める。その電力の一部も市民に還元していく方針。同市の担当者は「ゼロカーボンを進めながら、エネルギー先進地を目指したい」と意気込む。

 会見に参加したループの小嶋祐輔取締役電力事業本部長は「再エネのポテンシャルを生かして具体的な取り組みを進めていく。ほかの自治体でも参考になる活動をしたい」と語った。

人材育成などを支援

 宣言は現状、制度や法律に基づくものではなく、あくまで首長の意思表明にとどまるものの、宣言の動きは全国に広がる。

 環境省のまとめでは、09年3月に表明した山梨県を皮切りに19年5月以降、拡大。20年9月末には156自治体だったが、翌10月に菅義偉首相が方針を表明して流れが加速した。22日時点で275自治体にまで増加、人口で約9940万人をカバーし総人口の78.2%を占める規模だ。

 ただ、全国には約1800の自治体があり、残る自治体もまだ多い。特に小規模な自治体が独自に宣言できずにいるケースが多いという。「温暖化対策の専任職員がいないことなどが足かせになっている例が多い」(環境省環境計画課)。

 宣言した自治体でも、ロードマップなど具体的な計画を策定しているのは東京都などわずかな自治体に限られる。国の表明以降、国は関連事業に計約400億円を予算付けする見通しで、再エネを戦略的に導入する自治体の計画づくりや人材育成の支援などに充てられる予定だ。

 同課は「化石燃料の費用として年間約17兆円が海外に支払われている。再エネを地域で導入し、地域で循環できれば地域経済にとってプラスになる。そういう視点で脱炭素に臨んでほしい」と期待を込める。

効率的な取り組み模索

 一方、自治体間でも独自の協力関係を築く動きが出始めた。既に19年6月に宣言した横浜市が、同様に宣言している全国の市区町村に呼びかけ、2月に設立したのが「ゼロカーボン市区町村協議会」(会長=林文子横浜市長)だ。脱炭素社会の実現に向けた政策研究や国への提言を行うため、人口規模や産業構造など背景に違いがある自治体が、情報共有を図る。

 約130の市区町村が会員になっており、3月下旬に国に提言することを目指す。協議会の事務局を務める横浜市の担当者は「大規模から小規模まで幅広い自治体が参加している。課題を整理し、集約することができる」と話す。

山梨県では、県や全市町村が参加して共同宣言が行われた

 また、全国に先駆けて宣言をした山梨県は15日、県内の全27市町村とともに改めて共同で宣言を行った。うち18市町村は、独自の宣言を出せていなかった。都道府県内全体での宣言は全国で初めてとなる。山梨県が対策をメニュー化して提示。市町村側が選択しながら実行していく枠組みを長期間にわたって進めていく考えだ。

 県環境・エネルギー課は「具体的にどういう施策に取り組むかを判断するのが難しい。同じ思いで向かっていくべきであり、連携して効率的に取り組んでいきたい」としている。