2021.06.03 【ケーブル技術ショー特集】 CATV業界、コロナ禍で変化インフラとサービスを強化、ローカル5Gに注目

 新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、メディア・エンターテインメント産業に大きな影響を与えた。ライブイベントが中止となった音楽・スポーツや映像ビジネスなどは深刻な打撃を受けた。コロナ禍でケーブルテレビ(CATV)業界も変化を遂げている。CATVの地域メディアとしての基本対応は、地域ごとの感染状況・行政対応・保健所や病院などの医療情報を、コミュニティーチャンネル放送を中心に、情報発信してきた。コロナ禍2年目になる今年はどのように取り組んでいくのか注目だ。

 こうした環境下、CATV業界は放送・通信のインフラとサービスを強化する。今年のケーブル技術ショーでは、FTTH(光回線)設備の整備、ローカル5G設備、4K/8K対応STB、ヘッドエンドの強化などのインフラとともに、4K/8K放送サービスとOTTとの連携や防災・災害時の情報サービスなどが披露される。CATV業界において、コロナ禍での新たなビジネスチャンスを狙いたい。

 今年は、第5世代高速通信規格5Gを企業や自治体などが自ら構築できる「ローカル5G」が急拡大している。CATV網とローカル5Gを組み合わせることで、さまざまな地域サービスやコンテンツサービスなどが展開できることから、新たなビジネス機会と捉えるところが多い。地域や産業の個別ニーズに応じて、自らの建物内や敷地内など限定された特定範囲でスポット的に柔軟に構築できる新システムとして、ローカル5Gへの注目が高まっている。地域の企業や自治体などさまざまな団体によって活用され、地域の活性化につながることが期待される。

 CATV業界はローカル5Gを積極的に活用し、地域の発展と事業の拡大を目指す。さらにIoTなどの技術活用を進め、地域のデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)の担い手として地方創生に向けた取り組みを加速させていく。超高速、超低遅延、多数同時接続の三つの特長を持つ5Gを利用するローカル5Gを活用し、地域課題や各種事業に取り組む。

 CATV事業者は地域の多様なニーズにきめ細かく対応するため、インフラとコンテンツの両方の知見を生かし、地方創生への貢献を目指している。

 日本ケーブルテレビ連盟を中心に、業界内連携による取り組みを進めている。2019年12月にはローカル5Gに向けて無線コアを共同利用するために、同年8月に新会社「グレープ・ワン」を設立し、業界統一コアを立ち上げている。グレープ・ワンは、CATV事業者向けに無線サービスにおける基幹システムとなる無線コアネットワークを構築し、回線サービスを提供、基地局や端末の販売・運用・保守に至るまで総合的なサービスを提供。これにより、業界内の事業社が地域や規模にかかわらず、同じ条件でコア設備や基地局などを利用、調達することが可能となり、事業者の設備投資や運用面での負担軽減に貢献する。CATV事業者による地域のDXとして期待されている。

 CATV業界では、日本ケーブルテレビ連盟を中心に、コンテンツからインフラまでの総合力を持つ、地域DXの担い手となることを目指し、2030年にCATVが目指すビジネスの方向性を示している。

eスポーツの取り組み推進、イベントや通信基盤整備で支援

 昨年から続くコロナ禍で、自宅で過ごす時間が増え、動画配信サービスを利用する人が増加している。特に、オンラインを通じて提供可能なエンターテインメントとして、eスポーツに注目が集まっている。

 ゲーム総合情報メディア「ファミ通」によると、日本国内におけるeスポーツ市場は年々成長を見せている。2020年の日本でのeスポーツ市場規模は、前年比109%の66億8000万円となっている。「VALORANT」などの人気タイトルのオンライン大会の開催により、市場が拡大したという。また、20年から24年までの年間平均成長率は約29%と予測され、今後さらなる成長が期待できる。

 CATV業界でもeスポーツへの取り組みに乗り出している。まだ日本のeスポーツ市場規模は小さいものの、注目度と認知度が急速に高まっている。全世界のeスポーツ視聴者の79%が35歳未満だが、契約者の高齢化が著しいCATV事業者にとって、若年層に人気のeスポーツは魅力のある市場と考え、多様な年齢層の加入を期待している。

 eスポーツを通じてCATV事業者のプレゼンスを若年層にアピールし、CATVファンを拡大するeスポーツ選手や観戦者にCATV事業者の高度な通信基盤を提供し、通信事業の収益に貢献していく狙いだ。

 既に、CNCIグループケーブルテレビ11社は、eスポーツ推進プロジェクトとして、サービス提供エリアである愛知・岐阜・三重を中心に楽しんでもらえるオンラインeスポーツ大会を開催するなど、積極的に取り組んでいる。

 しかし、eスポーツで勝敗を左右する重要な要素として、GPUなどのハードの処理能力や、宅内の遅延や通信経路による遅延、ゲームサーバーまでの地理的・物理的な距離による遅延など、通信による遅延の課題がある。eスポーツのインフラに求められる要件は、低遅延を実現するためのインフラの強化である。

 高度な通信基盤と低遅延DOCSIS、5G、放送型Wi-Fiなどの低遅延要素技術を持つCATV業界は、スポンサーとしてeスポーツイベントへの協賛、eスポーツイベントの主催、コミチャンでの放送、高度な通信基盤を提供していく計画だ。

スマート医療実現めざす、医療事業者などと連携

 一方、CATVインフラを活用したスマート医療の実現も目指す。

 オンライン診療サービスの提供に携わる医療事業者、保険調剤薬局事業者、ヘルスケア事業者とCATV事業者らが連携して、地域住民が自宅で簡単に診療・服薬指導を受けられる「地域スマート医療コンソーシアム」を5月18日に設立した。高齢者を含む地域住民が利用しやすいオンラインによる医療・介護・ヘルスケアサービスの普及促進を図る。

 同コンソーシアムでは、医療関連事業者が持つ診療・服薬指導の知見と、オンライン診療プラットフォーム事業者やCATV事業者の通信機能を連携し、医療分野におけるデジタルコミュニケーションの場を提供し、医療DXの推進に向けた取り組みも行っていく。