2021.08.30 【この一冊】「平成史-昨日の世界のすべて」與那覇潤 著(文藝春秋)

 平成の終わりの前後に、多くの「平成史」が刊行されたが、「平成育ちによるはじめての決定版平成史」をうたう。

 著者は、「中国化する日本」で論壇内外で注目を集めた。経済では市場経済・自由競争が推進され、しかし、政治はある種の権威主義が進む、それがいわば「中国化」との見立てに、目からうろこが落ちる思いがした。

 この近著でも、昭和天皇の崩御や二つの大震災、政治・経済・社会・文化の流転を俯瞰。歴史が失われ、歴史に学ばなくなっていく日本のあり方を描く。それは静かな警鐘でもある。

 うつの体験を踏まえた言論も展開してきた著書は、この本を「歴史学者として著す最後の書物」と語る。多くの資料を渉猟し、広く取材・分析し、総合的に時代に向き合う姿は、立花隆氏にも通じるものを感じる。

 552ページ。2200円(税込み)。