2021.10.01 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<59>5Gによるダイナミック・ケイパビリティー③

 ようやく空の天井が抜け、めっきり秋めいてきた。そのせいもあってなのか「屋台」と聞けばリヤカー屋台のおでん屋を思い出すのは筆者が昭和の断層世代だからかもしれない。

 近頃はほとんど見かけなくなったリヤカー屋台。暗い路地裏に赤ちょうちんを見つけては、のれんをくぐり、おもむろに体を乗り出して鍋の中を確認し、だしが中までしみ込んでいる具を皿にとってもらったものだ。

 「屋台」を辞書で引くと、道路・広場などで屋根が付いた台を設け、移動可能で飲食物などを売る店舗--とある。ここで重要なのが「移動可能」という条件だ。飲食店を〝移動可能〟にするために必要な要件の一つに、水道を引けない環境下でいかに水を確保するかということだろう。

 飲食店では何かと水が必要になる。たとえば食器を洗って使い回しするためにも水がいる。だからといって大量の水を屋台に積み込めばリヤカーが重くなり移動もままならない。

 それならば使い捨ての食器に替えればよいという話になるのだが、今度は大きなゴミ袋を積み込むことになり、購入や廃棄コストもかかるので採算が取れなくなる。道路交通法など規制の強化もあるが、リヤカー屋台が消えた理由は、その辺りにあるとも聞く。

一人屋台生産方式

 さて、ダイナミック・ケイパビリティーの変種変量生産に話を戻したい。ウィズコロナの時代になり、製造業で注目されている取り組みの一つに究極のセル生産方式がある。テレワークさながらの離れた場所において一人で多品種少量生産する「一人屋台生産方式」は、果たして〝移動可能〟という難題をクリアできるだろうか。

 先の飲食の屋台では〝水道〟が引けない問題があった。これを製造業の現場でみると〝有線〟が引けないという問題に置き換えられると思う。在宅勤務や、海や山の見えるワーケーションでの「一人屋台方式」の実現はまだ先の話として、同じ工場建屋内の離れた場所で行う「一人屋台方式」を実現する場合を考えてみよう。

 この方式は多種類の部品の組み立てから製品の検査まで、全てを一人でスピーディーかつ効率的に行わなければならない。そのため屋台ごとに異なる品種と仕様の指示、それに合った部品の搬入、製品ごとに異なる出荷場への完成品の搬出が素早く正確に実行できる必要がある。

 それには各屋台に設置するタブレット端末とMES(製造実行システム)をつなぐ通信回線が必要だ。さらに部品や製品の搬送には工場内を自動走行する複数のAGV(無人搬送車)を導入すればさらに効果的だろう。

ダイナミック・ケイパビリティー(変種変量生産)

無線回線が必要

 しかし「一人屋台方式」の場合には、注文数の増減に応じた屋台の増減をはじめ、部品のストック場所や製品の搬送先など、レイアウト変更などが頻繁に発生する。そのため有線によるネットワーク構築では、大規模な移動が迅速にできないため無線回線が必要となる。

 AGVも、床に設置した磁気テープなどのガイドで移動する有軌道型ではレイアウトの変更が難しいため、無線制御によって人やモノとの衝突を回避しながら走行する無軌道型のAGVが必要となるだろう。そうなると、ローカル5Gの出番がくる。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉