2022.08.04 【コンデンサー技術特集】高電圧3.0V品リード端子形電気二重層キャパシター「DLCAP™ DKHシリーズ」の開発 日本ケミコン
【図1】電気二重層キャパシターの蓄電原理
電気二重層キャパシターは高効率充放電が可能であり、大電流での充放電やその繰り返し耐久性に優れているという利点を有するため、車載や産機などの多くの用途で採用されている。
日本ケミコン株式会社(以下、当社)では電気二重層キャパシターDLCAP™の大形ネジ端子形品を2003年より量産化している。近年、自動車のシステム電動化が進む中で事故や故障でバッテリーからの電源供給が失活した際のバックアップ機能が求められており、車載用バックアップ電源として小形の電気二重層キャパシターが採用され始めている。このようなニーズの高まりから、当社では大形ネジ端子形品に加え、小形リード端子形品の開発を数年前から進めており、2018年より「DLCAP™ DKAシリーズ」の量産を開始した。
当社では「いま、社会が何を望んでいるか」ということを常に考えて、技術革新による社会貢献と、それを起点としたビジネス機会の創出に取り組んでいる。
具体的には、ユーザーにおける設計自由度の向上や長期的に安定して使用可能な信頼性の高い製品を開発テーマとして、製品の小形化や低抵抗化、高電圧化、高耐熱化、そして長寿命化といった高信頼性化に取り組んでいる。本稿では、高電圧および高耐熱かつ長寿命を可能とした小形リード端子形品「DLCAP™ DKHシリーズ」について説明する。
電気二重層キャパシターの動作原理
電気二重層キャパシターは主に正極と負極の2枚の電極と電解液、セパレーターからなっており、電極表面と電解液との界面に生じる電気二重層を利用して電気を貯蔵するデバイスである(図1)。二次電池のような化学反応ではなく、イオンの物理的吸脱着をエネルギー貯蔵の原理としているため、出力密度に優れており大電流での充放電が可能である。また、低抵抗であるという利点から充放電に伴う反応熱が少なく、充放電を数十万回行っても劣化が少ないことが特徴として挙げられる。さらに、セルを構成している材料には重金属などを使用しておらず環境負荷が小さいことも特徴の一つである。
電気二重層キャパシターの構成材料
構成材料としては、電極活物質として活性炭を用い、セパレーターにセルロース材料を使用するのが一般的である。当社の電気二重層キャパシターDLCAP™の特徴としては、電解液に沸点や引火点、有害性を考えて安全性の高い材料選定を行っている。
電気二重層キャパシターの応用事例
電気二重層キャパシターの応用として主要2事例について紹介する。
①車載バックアップ用途
2035年までに日本では純ガソリン車やディーゼル車、欧州連合(EU)ではハイブリッド車・プラグインハイブリッド車も含めた全てのガソリン車やクリーンディーゼル車の新車販売禁止を目指すことが発表され、電動車への置き換わりが進んでいる。それに伴い、近年自動車ではさまざまなシステムの電動化が進んでおり、重要システムに対してはメイン電源からの電源供給が途絶えた場合でも一時的に動作させることが安全面から求められている。さらに規則化(例:UN Regulation No.94)も進んでいることから、バックアップ電源が必須となっている。こういった瞬時に出力しバックアップする機構に対して小形リード端子形品の電気二重層キャパシターが活躍しており、自動車のドアロックやシフトバイワイヤなどのアプリケーションで採用されている(図2)。
②再生可能エネルギー用途
温室効果ガス削減や日本のエネルギー自給率向上のために、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの主電力化が進んでいる。これまでの電力系統は交流系統であり、火力や水力などの同期電源では自らの回転エネルギーによって、一部の電源が脱落し系統周波数が低下した場合でも他の同期発電機が瞬時に応答し系統周波数を回復させることで安定的に電気を送ってきた。一方で、太陽光や風力などはインバーター電源(非同期電源)であるため、自ら回転力を生み出せず慣性力や同期化力の能力を持たない。そのため、非同期電源である再生可能エネルギー電源が大量導入された場合、一部の電源脱落による系統周波数の低下が発生すると電気の供給を正常に行えず安全装置の発動によって発電所が停止し、場合によっては大停電(ブラックアウト)に陥ってしまう可能性がある。これらの出力変動の対策として、電力系統向け蓄電システムの導入が検討されており、蓄電システムを再生可能エネルギー電源に直接接続することに加え、電力系統にも接続することで再生可能エネルギーの供給安定化が可能となる(電力系統安定化システム)。この蓄電システムには応答性の速さを求められる場合があり、電気二重層キャパシターの適用が最適であると考える。(キャパシターを利用した電力系統安定化システムのイメージを図3に示す)
電気二重層キャパシターを導入することにより、前述した自動車の電動化に伴う安全性向上や、再生可能エネルギーの普及へ向けた貢献が期待されるが、いずれの用途に対しても今後更なる高エネルギー化(高電圧化)、高出力化が求められる。
高電圧化に対しての課題
電気二重層キャパシターは充放電過程において電圧が電極と電解液に印加される。高電圧を印加した際に電極と電解液の電気化学安定性が乏しい場合、電解液の分解や電極構成材料の劣化により内部抵抗の上昇などの特性劣化やガス発生の要因となり課題となっていた。
そこで、電気化学的に安定で劣化しにくい材料を選択することによって、高耐圧化および高耐熱化するとともに長寿命化を実現している。
高電圧3.0V品リード端子形電気二重層キャパシター「DLCAP™ DKHシリーズ」の特徴
①耐電圧性の向上(定格電圧 2.5V⇒3.0V)
②耐熱温度の向上(70℃⇒85℃)
③長寿命(1,000hrs⇒2,000hrs)
④小形化(20%ダウン)
※①~④はDKAシリーズ比
主な仕様
・カテゴリー温度:-20℃~+50℃、-20℃~+65℃、-20℃~+85℃
・定格電圧:3.0V
・定格静電容量:50F
・製品サイズ:Φ18×40Lmm
・耐久性:3.2V50℃、3.0V65℃、2.6V85℃ 2,000時間保証
当社で開発中の高電圧リード端子形品「DKHシリーズ」(図4)の製品特性について紹介する。
表1に、DKHシリーズの定格容量とDCIR値を、量産中のDKAシリーズと比較して示す。DKAシリーズでは定格電圧2.5Vにおいて70℃で1,000hrs保証であるが、DKHシリーズでは定格電圧3.0Vにおいて65℃または3.2V50℃、2.6V85℃で2,000hrs保証が可能となり、高電圧化および高耐熱化を達成するとともに長寿命化を実現した。
図5にDKHシリーズの各負荷条件と比較としてDKAシリーズの3.0V65℃(DKAは保証外条件)における静電容量の変化(⊿Cap.)と内部抵抗の変化(⊿DCIR)を示す。電圧印加時においても電気化学的な安定性を有する材料を採用することによって急激な特性劣化を示す事無く、非常に安定した寿命性能を確認することができる。
現在、DKHシリーズはΦ18×40Lサイズでの量産化を予定しているが、その他のサイズについてもラインアップを順次拡大していく予定である。当社ではセル単体だけでなく、セルを数本組み込むキャパシターモジュールの開発も行っており、あらゆる顧客要求のアプリケーションに対して最適な形で提案することが可能となっている。DKHシリーズを用いてモジュール化した場合では、DKAシリーズに比べセルサイズの小形化に併せて、定格電圧の向上により使用本数の削減が可能であるため、体積として約40%小さくすることができ、省スペース化に応えることが可能である。
今後の展望
電気二重層キャパシターの特徴と小形リード端子形品「DKHシリーズ」の製品特性について紹介した。当社の今後の展望として、小形品キャパシターでは「DKHシリーズ」の性能をさらに高性能化した製品を開発していく。大形品ではネジ端子形で低抵抗タイプの「DXEシリーズ」や高電圧タイプの「DXFシリーズ」、広温度適応タイプの「DXGシリーズ」などの現行品からさらなる高電圧化および高耐熱化に対応した製品の開発を行う。顧客のニーズに最大限応えるべく、小形品から大形品までさらなる高性能化に向けて開発に力を入れている。
〈日本ケミコン(株) 技術本部 第三製品開発部・菅野 正輝〉