2022.09.23 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<103> アジャイルによるDX推進者の早期戦力化⑤

 日本がバブル経済によって絶頂期を迎えていた1980年代、筆者は大手総合電機メーカーで海外向け電話交換機を開発していた。

 ICTの始まりともいえる情報通信機器の製造は、当時大きく電子デバイス(半導体)事業、コンピューター事業、コミュニケーション(通信)事業の三つに分かれており、このうちの通信事業は、交換、伝送、無線の三つの事業部から構成されていた。

 筆者は交換事業部に所属していたが、海外出張で伝送や無線の技術者とホテルで寝食を共にすることがよくあった。通信網整備プロジェクトの多くは、光ファイバーによる伝送網とマイクロ波による無線網、そして電話やデータ端末間をつなぐ交換網がセットになっていたからだ。

 変な話だが、同じ会社とはいえプロジェクトのメンバーはほぼ初対面なので、名刺の交換から始まるのが通例。日中はそれぞれの現場で作業し、夜は同じテーブルを囲みビールを飲みながら話をするわけだ。

 ところが、仕事の話になると無線技術者が語る用語が、まるで隣のテーブルから漏れてくる現地語のように聞こえてくる不思議な感覚を今でも覚えている。それくらい専門用語が普通に飛び交い、部門が違えば言葉すら通じない状態だった。当時、まだ携帯電話が普及しておらず、無線技術者の数が非常に少なかったのも理由の一つといえるだろう。

限られる技術者

 時を戻そう。今、移動通信網の普及と共に無線技術者の数が増えたのは間違いない。その半面で技術者は、移動体通信事業者や機器の製造業者に限られていると言っても過言ではない。

 そのため、デジタルトランスフォーメーション(DX)を内製化しようとしている一般企業にとって、〝一丁目一番地〟ともいえるDX推進チームの編成で苦労するのが、ワイヤレスIoTや5Gに詳しい無線技術者の確保のような気がする。

 特にローカル5Gを導入するためには「電波法」が定めるいくつかの事項を満たす必要がある。その一つに「無線従事者の資格要件」がある。具体的にはローカル5Gの基地局を扱う無線従事者を確保しなければならず、一般的には「第三級陸上特殊無線技士」の資格者が必要であるとしている。

 この〝三陸特〟とも呼ばれる国家資格を取得すれば、周波数と出力が制限された電波を利用した基地局や、陸上移動局などの無線設備の技術的な操作ができる。必要な技術としては、空中線系(アンテナなど)と電波伝搬、無線変調方式、通信方式などがある。

 ここでいう電波伝搬とは、送信アンテナから放射された電波が受信アンテナに到達するまでに減衰する伝搬損失や、障害物や反射物の影響を受けてさまざまな経路を通って受信点に到達した電波が互いに干渉し、受信レベルが激しく変化する「マルチパス・フェージング」などを指す。

無線が主役

 例えば、ワイヤレスIoTやローカル5Gの導入による工場のスマートファクトリー化を目指すケースでは、この電波伝搬を図で易しく解説できる無線技術者とのコラボレーション(協働)が、アジャイルなDX推進チームには欠かせない。

 情報通信機器の開発と製造が本格的に始まってから半世紀がたった今、無線はICTの主役になりつつある。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉