2022.10.18 直接投資が続くマレーシア 強固な産業エコシステムと堅実な経済政策が後押し マレーシア投資開発庁(MIDA)大阪事務所、グラム・ムザイリ所長に聞く

グラム所長(Gulam Muszairi Gulam Mustakim Director)

 マレーシアは、昨年国境を再開して以来、パンデミック後の回復基調にある魅力ある投資先の一つとなっている。特に、今年上半期は海外直接投資と国内直接投資がともに増加入りして、グローバルおよび地域内の事業拡大にとって魅力ある投資先であり続けている。マレーシア投資開発庁(MIDA)大阪事務所のグラム・ムザイリ(Gulam Muszairi)所長に聞いた。

ツインタワーが象徴的な首都クアラルンプール

 「マレーシア経済はいま堅調な回復軌道にあり、強固な産業エコシステムと堅実な経済政策や景気刺激策のおかげで投資を継続的に誘致している。一例として、マレーシアのGDP(国内総生産)は昨年に比べて増加しており、今年上半期まではマレーシアへの投資増大を確保している」と、グラム所長。

パンデミック後の投資

 最近のMIDAの発表によると、2022年1月から6月だけでマレーシアの製造業、サービス業、第1次産業に280億ドル規模の認可投資がなされているという。そうした投資に関連して、同期間に1,714のプロジェクトが立ち上げられている。

 それを受けてMIDAは、マレーシアに57,771人分の雇用機会が創出されるだろうとしている。従来から引き続き主要な投資タイプは海外直接投資(FDI)で、70.9%を占める199億ドル、国内からの投資は29.1%の82億ドルであった。

 最も注目すべき点は、サービス部門が成長をけん引する重要な役割を果たしており、その部門への投資が認可投資額全体の63.3%を占める177億ドルに達している。

 一方、製造業への投資は98億ドルで適格投資全体の34.9%、第1次産業は5億ドルで1.8%だった。

 海外直接投資は認可投資額の70.9%を占める199億ドルだった。2022年1月~6月期の認可投資額全体の中では、ドイツが20億ドル、ブルネイの11.5億ドル、シンガポールが11.3億ドルと続く。

 州承認の投資プロジェクトについて見ると、ジョホール、セランゴール、サバ、ケダ、ペナンの主要5州が1035億リンギット(235億ドル)を拠出しており、2022年1月から6月に承認された投資全体の83.9%を占めていた。

投資をけん引、弱みへの対処

 グラム所長によると、マレーシアはMIDAを通じて海外からの投資意欲を絶えず維持してきた。MIDA内にワンストップの仲介センターが設けられ、税関、入国管理局、労働局など政府の関連機関と連携して、マレーシア国内での事業が容易になるよう便宜を図ってきた。

 「マレーシアへの投資に何ら問題が生じないように、投資家に対する行き届いた実務支援が整備されなければならない」と、同所長。 また、「発展性のある投資先となる上で必要な長所がマレーシアには備わっている」と指摘した上で特に強調したのは、マレーシアが常に投資家の関心事に配慮してきた点である。とりわけ電気・電子分野においてマレーシアのサプライチェーンが「上から下まで」確立されている点も挙げている。

 「マレーシア経済はいま堅調な回復軌道にあり、強固な産業エコシステムと堅実な経済政策や景気刺激策のおかげで投資を継続的に誘致している。一例として、マレーシアのGDP(国内総生産)は昨年に比べて増加しており、今年上半期まではマレーシアへの投資増大を確保している」と、グラム所長。

 実際に2021年は、ローム・ワコー、インテル、インフィニオンなど大手半導体や半導体関連企業の新規半導体工場の建設、拡張投資が相次いだ。

ハイテク投資を奨励

 その一方でグラム所長は、数字の上で投資は上向き傾向にあるとはいえ、マレーシアが投資先として注目され続ける上で課題がないわけではないとした。その一つとしてグラム所長が挙げたのが、現地人材の持続的確保だ。

 「より多くの投資を見込むのであれば、より多くの人材、とりわけ高い技能と資格を有する労働力を確保する必要もあるため、十分な人材が確実に供給されるようにしなければならない。とはいえ、十分な人材を確保しておくために、政府も既に対策をいくつか講じている」と話す。そうした対策の一つに挙げられるのが、大学と技術研究所の協力によって実施される人材開発プログラムである。

 グラム所長によると、マレーシア政府は製造工程での自動化とデジタル化を含むハイテクへの投資を奨励しているという。

 投資家が製造業にスマートオートメーションを採用すれば、投資税控除、自動化に関する資本控除、スマートオートメーション助成といった複数のインセンティブを受けることも可能になる。そうした対応によって、地元の製造業がデジタル化やスマートオートメーションといった方向へ転換していくことが推奨されている。

EVへの期待

 国家投資目標(NIA)計画の一環として、マレーシア政府はハイテク分野への投資を増大させようとしている。グラム所長によると、特に電気・電子、航空、医薬品、化学の各部門の製造現場への投資を増加させると同時にデジタル経済への取り組みを促進することが想定されている。

 また、電気自動車などの新エネルギー自動車(NEV)がまだ初期段階にあるマレーシアでは、政府が既に積極的な取り組みに着手している、とグラム所長。マレーシア政府は、従来型自動車の生産・組み立てにおいて構築できたエコシステムの増強を既に始めている。政府はそうしたエコシステムを、特に自動車メーカーとの協力・連携によるEVへの取り組みに活用しようと考えている。

 「電気自動車(への取り組み)は、SDGs(持続可能な開発目標)に関する公約や2050年を期限とする温室効果ガス排出ゼロへの取り組みといった国のエネルギー政策とも合致するものだ」と、グラム所長。「EVはMIDAが可能な限り多くの投資家、特に日本の投資家に納得して投資してもらえる分野だと言える」とも語った。

 手始めとして、マレーシアは国内で組み立てられるEV関連製品への輸入税を100%免除するとしている。さらに、消費税、輸入税、通行税の免除も予定している。

 マレーシア政府は現在、先駆的事業を奨励する意味で、自動車と重要部品の製造・組立部門への投資家に対して5~10年間所得税を70~100%免除する措置をとっているが、上記の免税措置はそれに上乗せして実施されることになっている。さらに、5~10年間60~100%の投資税控除が加わる。

MIDAと日本の役割

 グラム所長は、マレーシアの投資パートナーとしての日本の重要性を強調した。長年にわたり、日本はマレーシアへの投資が多い上位5か国に常に名を連ねているという。

 1980年から2021年までに日本企業が2,709もの製造業プロジェクトに投資した総額は約276億ドルに上ると指摘。加えて、これらの投資によって約33万7,280人の雇用が創出されている。

 「こうした数字を見れば、日本はマレーシアにとって重要な国であることは間違いない。日本からの投資は、電気・電子をはじめとしてさまざまな部門でマレーシアの強力なエコシステムに貢献してきた。だからこそ、私たちは特に『東方政策』を通じて日本との関係をさらに強化している。これこそが、ここ日本で私が自分の役割において今後取り組むべき課題だ」と、グラム所長は語った。