2023.01.01 【AV総合特集】’23展望 テレビ

23年はテレビの大画面化がさらに加速する

 2023年のテレビは高画質化と高音質化とインターネット対応が一層加速していく。各社とも実際に目で見ている景色と同じ映像表現を追求しており、クラウドとの接続や人工知能(AI)の活用がさらに進むとみられる。大画面でより高画質なテレビを求める人も増えてきていることから各社ともいかに画質性能を訴求できるかも今年の販促ポイントになりそうだ。映像コンテンツの視聴ニーズも多様化していることも最近の動きの一つ。視聴シーンに合わせた製品提案も23年の販促には欠かせなくなる。

テレビ市場の今と23年のポイント
テレビ離れに歯止め 利用シーンに応じた提案へ

 国内テレビ市場は21年の東京オリンピック開催や新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要などでこの20年までは増加傾向にあり、電子情報技術産業協会(JEITA)の出荷統計でも20年は年間542万台まで回復した。21年も前半までは堅調に推移したものの後半からは、オリンピック閉幕やコロナの行動制限が緩和されてきたこともあり一服感が出始めた。

 22年はさらにその動きが加速。特にコロナによる中国でのロックダウン(都市封鎖)や、半導体をはじめとした部材不足の影響を受け、22年前半は製品供給の面でも苦戦を強いられたメーカーもあった。夏ごろからは製品供給も戻り始めたものの、政府からの行動制限がなくなったことから消費が外食や観光などに回り、テレビなどAV機器への消費は戻り切らないのが実情だった。

 現在の国内テレビ市場は買い替えが中心だ。多くのメーカーは11年のアナログ放送停波に合わせてテレビを買い替えた人たちの買い替えが本格的に始まるとみていたが、思うように進んでいない。出荷実績でみれば11年までの特需により08年以降の3年間で通常期のテレビ出荷の5年分のテレビを販売した。11年以降はこの反動減が続いていたが15年からは高精細4Kテレビの普及もあり買い替えが徐々に進み始めていた。

 ただ一気に需要が回復せず年間400万~500万台でとどまっていた。その理由が薄型テレビの寿命だ。薄型テレビが出始めたころは、テレビの寿命はブラウン管テレビよりも短く5~8年程度とみていたが、実際は10年以上壊れないテレビが多い。内閣府の消費動向調査では買い替え年数がついに10年を超え、年々伸びる傾向にある。

 これはテレビの視聴時間にも関係している可能性がある。従来よりもテレビ視聴が変わってきていることにも起因している。総務省の情報通信白書によるとテレビ視聴よりもインターネット利用のほうが増え、テレビ視聴が減少していることが見て取れる。視聴時間の減少とテレビの寿命の相関関係は立証されていないものの薄型テレビの長寿命化の一つの要因とみることもできる。

新需要掘り起こし

 テレビメーカー各社の思いは年間600万台規模まで回復してほしいというのが本音だろうが、国内5500万世帯が10年に1度テレビを買い替える計算で、年間550万台という試算をする企業もある。さらに買い替え年数が伸びれば台数は減少する。JEITAの予測では23年以降、市場は縮小するという厳しい見方だ。この流れを断ち切るには新たな需要を掘り起こし提案していくことが不可欠になる。

 この数年で各社が取り組み始めているのがテレビ離れを起こしている層に向けたテレビの訴求と、テレビ視聴世代に対して、より画質と音質の良い製品を訴求していくことだ。一般的な家庭ではリビングなどに1台大型テレビを置くため、リビングに置くテレビを大画面で高画質なテレビに置き換えられるかが課題になる。

 一方で若者世代ではテレビを見ない人も増え、子ども部屋などにテレビがない家庭や、単身世帯ではテレビすらないところもある。テレビに対する需要も多様化している。23年は多様化するテレビに対する需要への対応と利用シーンに応じたテレビの提案が求められる。特に若者世代に対してさまざまな利用シーンに対応できるテレビの良さを伝えていくことも課題になりそうだ。

23年のテレビトレンド
動画コンテンツの高画質化に力

 主要テレビメーカーの22年モデルは、高画質化と高音質化がさらに強化されている。4K有機ELテレビは、パネルの開発から独自に進めるところが増えており、メーカーによって画作りに特徴が出てきている。AIを使った映像処理でも各社が独自にチューニング。有機ELでもより明るい映像が再現できるようになっており、23年は有機EL、液晶ともにもう一段上のレベルの製品が出てくるとみられる。

 この数年の動きでは地上波だけでなく、ネットフリックスなどのインターネットコンテンツ、YouTubeなどの動画配信サイトのコンテンツも高画質で視聴できる機種が増えている。基本的に動画コンテンツの視聴時間が減っているのではなく視聴するコンテンツが変わってきていることから、テレビ各社が打ち出しているのが、あらゆる映像コンテンツを高画質で再現する技術になる。地上波などの映像がきれいに映ることは大前提だが、それ以上に視聴時間が増えているインターネットコンテンツの高画質化にも力を入れるメーカーが多い。

 各社はAIを駆使し、映している映像や視聴シーンに合わせて画質を最適化している。地上波、映画、スポーツ、ネット動画など、視聴するコンテンツに応じて最高の画質を実現できるようにチューニングを施している。スマートフォンやタブレット、パソコンなどで視聴している映像コンテンツをテレビで視聴する流れを作れればテレビの購買行動につながってくるはずで、23年はこうした提案活動も重点的に進めることが求められる。

 テレビの新しい提案始まる

 多様化する視聴シーンに合わせたテレビの提案も始まった。パナソニックは、これまでも持ち運びができるテレビや移動が自由にできるテレビなどを積極的に展開してきたが、昨年は設置場所の制約を受けない新しい住空間を実現するテレビの提案を始めた。石膏ボードを使った壁であれば簡単に壁掛け設置できる高精細4K有機ELテレビを発表するとともに、新たに「くらしスタイルシリーズ」というコンセプトを打ち出し新しいテレビの考え方として訴求していくことを表明した。

部屋に合わせて自由に設置できるテレビの提案も始まった(パナソニック)

 ゲームを楽しむテレビとしての提案も進む。これまでレグザがゲームを楽しめるテレビとしてマニアの間で高い評価を得てきたが、有機ELで製品群を拡充してきたLGエレクトロニクス・ジャパンもゲーム対応を強化したテレビを展開。シャープもゲームを意識したテレビの展開を始めている。さらにLGは今年、20段階で自由に曲げられる42V型の有機ELテレビを発売する。ゲームをより楽しめるテレビとして訴求していく考えだ。多様化するニーズに応じた製品を利用シーンに合わせて提案していくことが今年はさらに重要になってくるとみられる。

各社の高画質化・高音質化技術の動き
有機ELパネル改善やAIなど活用

 高画質化に向けた各社の技術をみると、パナソニックは独自設計で組み立ても自社で行う高輝度有機ELパネルと新開発のパネル制御を組み合わせ、より明るく鮮やかな色を再現できるようにしている。

 シャープは超高精細8Kテレビをはじめ、8Kの技術を4Kにも展開。4K有機ELと4K液晶の全機種に新開発のAIプロセッサーを採用し高画質化を実現している。

 TVS REGZAは独自の有機EL新世代パネルを採用したほか、液晶ではレグザ初となるミニLED広色域量子ドットパネルを採用し、画質をさらに進化させている。

AIなどを駆使し実際に見ている景色と同じ再現にこだわる製品が充実(写真はTVS REGZA)

 ソニーは人間の脳のように処理をする認知特性プロセッサーと新開発の有機ELパネルで明るく自然な映像再現を実現。上位機は視聴者の位置に合わせて画質や音質を補正する機能も用意している。LGエレクトロニクス・ジャパンもAIを駆使した画像処理が特徴で高画質化に磨きをかけている。

 音質面では立体音響への対応が進む。本格的なホームシアターシステムを組まなくても映画館のような音が楽しめる技術が実装されてきている。各社の音質強化に向けた開発の視点はそれぞれ異なるものの、テレビ単体で手軽に本格的な映画館のような音を実現していく方向は同じで、今年も音質面でも目が離せない。