2023.01.18 【情報通信総合特集】市場/技術トレンド 5G
ローカル5Gの社会実装進む ミリ波活用も検討が本格化
昨年は移動通信規格5Gをエリア限定で使うローカル5Gの活用が、実証段階から実用段階に入り本格的な社会実装が進展。手応えを得たIT各社は、低遅延、高速大容量が強みのローカル5G基地局を導入コストを抑えて手軽に実装できる製品を相次ぎ市場投入し始めた。今年も企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資熱は旺盛な見通しで、通信インフラをけん引する5Gを巡る各社の主導権争いが激しさを増しそうだ。
NECは、ローカル5G基地局の導入に必要な機器を1台に集約した一体型の新製品を、他社に先駆けて市場投入した。「UNIVERGE RV1200」はA4とほぼ同サイズで重さ約3キログラムと小型化を実現。1台でオフィスビルの1フロア程度をカバーできる。最大128台まで連結させ、大規模工場などへの導入も可能にした。
ローカル5Gは、スマートフォンなど向けに通信事業者が提供するパブリック5Gとは異なり、企業や自治体が一部エリアや建物に専用の5Gネットワークを構築できる仕組み。パブリック5Gが届かないエリアなどでも高セキュリティーで利用できる一方、導入コストが課題となっていた。
今回のシステムは、無線部と制御部など複数機器で構成されていた従来の分離型に比べて導入コストを半分に抑制。シンプルな構成で導入期間と消費電力の削減にもつなげた。LANケーブルで電力を供給するPoEで設置できるのも特徴だ。
NEC事業戦略・プロモーション統括部上席テクノロジー・エバンジェリストの藤本幸一郎氏は「Wi-Fiと同じ感覚で手軽に導入してもらえる」と胸を張る。
設備の点検業務をローカル5Gで自動化する取り組みを進めるのは富士通だ。データセンター(DC)の安定稼働と運用自動化に活用するサービスを実用段階に仕上げた。
自社DCの設備点検作業で、自走ロボットで撮影した機器設備の動画像データをローカル5Gで伝送する。人工知能(AI)で状況を分析して機器の異常を検知する仕組み。
今回の取り組みでは富士通総研とともに横浜DC(横浜市都筑区)にローカル5G環境を構築。高精細の4Kカメラを搭載した自走ロボットが施設内を無人巡回監視してサーバー機器のLEDランプ点灯状況などの異常を検知し、ローカル5Gネットワークを介してオペレーターに通知する流れだ。
2019年12月に免許申請がスタートしたローカル5Gの社会実装が本格化する中、導入コストを抑えて手軽に実装できるローカル5G基地局の実際の導入環境に近い検証施設の開設も相次ぐ。
NECは既存施設をリニューアルし、5G環境下で重機の遠隔操作などを実演する環境を整備した。富士通はドローンや無人搬送車を実際に動かせる屋外検証施設を整えた。NTT東日本は5Gを起点に、自動運転技術や農業など地域循環型社会に向けた技術が体験できるフィールドをオープンさせた。
今後注目されるのが、ミリ波など高周波数帯の活用だ。現状では大半のシステムの周波数帯は、通信速度は遅いが電波が届きやすい「Sub6(サブシックス)」を利用している。
ある大手ベンダーの担当者は「当面は低価格になっているSub6が成功するのは間違いない」とした上で、通信速度は速いがエリアが狭い「ミリ波」(28ギガヘルツ帯)について「ユースケースを増やしていかないと次世代通信規格のビヨンド5G(6G)にはつながらない」とし、ミリ波の活用を強化していく考えだ。
総務省もビヨンド5Gを見据え、ミリ波を重視する。幹部の一人は「今後の5Gへの割り当ての中心となるミリ波などの高い周波数帯を活用した5Gビジネスを拡大していくための方策について検討する」と言及。「それに資する新たな割り当て方式として、条件付きオークションの制度設計も検討していく」との意向を示した。
30年代の実用化が見込まれるビヨンド5Gの開発に向けた議論も活発化しつつある。ビヨンド5Gでは現行5Gの10倍以上の通信量が想定されるほか、現状のままの電力使用量が続くと50年の消費電力は4000倍に達するとの試算もある。超高速性とともに低消費電力も踏まえた研究開発が求められている。