2023.01.24 デジタル化が製造業復権の追い風 ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストが講演
講演する矢嶋氏
ニッセイ基礎研究所の総合政策研究部の常務理事で、チーフエコノミストの矢嶋康次氏が10日、日本電化協会と東京都電機卸商業協同組合(TEP)共催の新年名刺交換会で「『新冷戦』時代の国際情勢と日本の対応」と題した特別講演を行った。
その中で矢嶋氏が指摘したのが、日本の製造業にとって、今後の世界の価値判断の変化が追い風になるということだ。
矢嶋氏によると、日本はハイスペックな製品を作ってきたが、世界の価値判断が安さ重視だったために、日本製品が負けるというのがここ20~30年の構図だったという。
ここに経済安全保障の価値観が加わると、安心・安全といった品質を重視する傾向が強まり、それが購買動機にもつながってくる。矢嶋氏は「高いから買わないのではなく、安心だから買う」という方向に変わると強調する。
さらに矢嶋氏は、デジタル化も製造業の復権の追い風になると予想する。人工知能(AI)が端末側に組み込まれ、そこでの解析を生かしてサービスを作り上げることが、IoTや5G、6Gの世界では実現できると指摘。世の中や家庭内を見た時に「サービスを受ける端末の製品ラインアップが豊富で、縦の深さもある国は日本くらいしかない」とし、「日本は携帯から始まったデジタル化の負けをはっきりと認め、“リアル"なデジタル化をどれだけ起こせるかが非常にポイントになる」と強調する。
そのためには政策的なサポートも重要だ。「電気がない国にデジタル化は起きない」と矢嶋氏は語る。政府のエネルギー基本計画には不透明さがあり、投資が生まれにくい。「投資を生むということは技術革新が自動で起こるが、先々が決まっていない国や企業には投資は起こらない。これが先送りの最大の問題。技術が集まらない」と国に対して警鐘を鳴らした。
デジタル化を進めると、処理能力の高度化に合わせて消費電力も増えてくる。省電力化にも半導体は重要になる。現在、台湾TSMCが熊本県に工場を建設していることに関して「現在の日本に(半導体製造の)能力がないなら、海外の能力を含めて10年後、20年後に日本がキャッチアップするやり方は正しい」(矢嶋氏)とする。
デジタル推進には“予見性"もキーワードになる。矢嶋氏は、リスクの説明ばかりするのではなく、「何かをやる」という方針が重要になると指摘した。
データに基づく担保も必要。日本の安心・安全はアジアの中で評価が高いというが、これから起こるビジネスはデジタル化が前提となる。矢嶋氏は「デジタル化の思想が遅れていることが決定的に良くない」とし、デジタル化というインフラだけの問題ではなく、そこに根差した文化をどう作っていくかの重要性を強調した。