2023.11.02 【電源用部品/次世代パワー半導体技術特集】IPM製品の技術的特徴と石川サンケンのスマートファクトリー化の取り組み サンケン電気

【図1】パッケージサイズ比較

はじめに

 近年、地球温暖化による気温の上昇や異常気象の影響を世界中で受けるようになってきている。そのため、世界中でエアコンの需要が増加し、エアコン自体が消費する電力も増加することになる。そのため、エアコンには省エネ性の高いインバーターエアコンの使用が望まれている。

 インバーターエアコンでキーデバイスとなるのがIPM(インテリジェント・パワーモジュール)であり、パワーデバイス、ドライブIC、保護機能を一つのパッケージに収めているものである。

 弊社はこれまで、ルームエアコンの室内ファンモーター、室外ファンモーター、室外コンプレッサーを駆動するためのIPMを開発・生産してきており、昨年新たに超小型パッケージを特徴としたSIM2シリーズをリリースした。

 また業務用エアコンのコンプレッサー駆動向けに2021年からSAM2パッケージ製品を量産している。

 本稿では、弊社のIPM製品の技術的な特徴と生産の効率化と安定した生産品質のベースとなる石川サンケンにおけるスマートファクトリー化の取り組みについて紹介する。

SIM2、SAM2の紹介

 SIM2シリーズは、ルームエアコン・コンプレッサー駆動、洗濯機・ドラム駆動などを想定した製品で、従来製品から大幅に小型化したスペックとなっている(図1)。

 これにより、基板の小型化・軽量化に寄与している。小型化を実現するに当たり、絶縁距離を犠牲にすることなく、またリード形状も実装しづらい千鳥は採用していないこと、ロングリードタイプもラインアップしていることも特長となっている(図2)。

【図2】絶縁距離の確保

 小型化を実現するために、①高放熱特性DBC(Direct Bonding Copper)基板の採用②ブートストラップダイオードのMIC内蔵化③フレーム形状の最適化を行った。パワーデバイスは、EMIノイズ特性を優先してFS-IGBTとFRD構成を採用している(図3)。

【図3】SIM2シリーズ製品構成図

 一方、業務用エアコン向けSAM2シリーズは、車載向け製品もラインアップし、SIM2パッケージと同様に開発効率向上を目的としたプラットフォーム技術SPP(Sanken Power-electronics Platform)を用いて開発が行われ、DBC基板の採用、モールド樹脂、はんだなどのアッセンブリー材料は同じ材料を使用するなど共通化を図っている。

 SAM2の特長は、パワーチップ近傍に配置したチップサーミスターを内蔵して感度の高い温度検出を実現していることである(図4)。

【図4】SAM2の内部構成

 ドライバーICによる温度検出方式(アナログ電圧出力)と比較して応答性、ケース温度Tcとの温度差において優位性を有している(図5)。

【図5】温度検出方式の温度差例

 また、パワーデバイスはFS-IGBTおよびFRD構成をとっているが、デバイスの最適設計により、スイッチング損失とEMIノイズの低減が実現できている(図6)。

【図6】スイッチング損失と発生ノイズ例

 SAM2製品は、650V 30A・50A、1200V 5A・10A・15Aをラインアップしており、1200V 25Aおよび50Aは現在開発中である(表1)。

【表1】SAM2シリーズのラインアップ

スマートファクトリー概要

 次に、当社で取り組んでいるスマートファクトリーの概要について述べる。サンケンスマートファクトリーは、図7のように、デジタル技術の活用によるビジネスプロセスの改革を目指すものである。

【図7】サンケンスマートファクトリー概要

 アプローチとしては、①直行業務を主とする生産ラインの自動化、画像化、IT化を行い、生産の効率化および原価低減を図る生産ライン改革と②間接業務においてITデータ活用による必要なデータの即時獲得と、それによる間接業務のPDCAサイクルおよび決定判断の迅速化を狙う業務プロセス改革の2本柱となっている。

 直行業務において生産ラインの改革を行いながら収集したITデータを収集し、収集したデータを間接業務が活用・業務改善していき、最終的には相互に連携し、現状を覆す生産改革を創造することを主目的としている。

【図8】スマートファクトリーライン構想

 当社のスマートファクトリー構想を図8に示す。高生産性かつ高品質の生産ラインを実現するため、現状作業者が行っている目視作業・運搬作業・入力作業を画像化、自動化、IT化に置き換えることで、本来作業者が行うべき生産作業の比率を増加させ、生産ラインの高効率化・品質の安定化を図り、最終的には人に頼らない自動生産ラインの構築を目標としている。

 スマートファクトリー構想を実現するため、表2のような9ステップ展開をベースとして取り組んでおり、現時点でモデル工場となる石川サンケン堀松工場および一部工場ではStep5までを完了しStep6以降を実施・計画中である。

【表2】スマートファクトリー9ステップ展開

 今後、上記以外の生産工場にも順次展開をしていく計画である。

むすび

 以上のように、弊社のIPM製品の特徴および、スマートファクトリー化の概要とステップごとの活動内容について説明し、現在の石川サンケン堀松工場における取り組み状況について述べた。

 カーボンフリー社会実現のためには、モーターや電源と駆動回路や周辺技術の効率改善は急務である。それらに寄与すべく、製品開発面においてはさらなる高効率で小型の製品開発をたゆまなく進め、また生産面では、モデル工場である石川サンケン堀松工場から各工場へと展開するとともに、高生産性、高品質の生産ラインの実現に向けて、残りのステップ活動を各生産工場と連携して取り組んでいく。
〈サンケン電気(株)〉