2024.03.07 【コネクター技術特集】パドルカード技術を活用したケーブルハーネスのSI性能改善 I-PEX

図1 従来の基板伝送 ASIC~I/O

 インフラストラクチャーやサーバーなどの通信機器だけでなく、半導体製造装置や工場内の検知カメラなど、膨大な情報処理が必要となってきている産業機器等においてもますます、高速伝送化が進んでいる。

 一方で課題として、従来の基板配線では挿入損失が大きく、伝送距離に制約が生じてしまっており、これらの機器で使用される各部品のシグナルインテグリティー(SI)性能を向上させる必要があり、そのSI性能の向上は機器の性能を向上させる役割を担っている。

 課題である挿入損失回避と伝送距離確保のための解決策として、細線同軸ケーブルやTwinaxケーブルを用いたジャンパーハーネスとパドルカード技術を以下に紹介する。

1.ケーブル(ジャンパーハーネス)ソリューション

 従来は多くの場合、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit=半導体集積回路)から出入力インターフェース(I/O)までの回路はPCB(プリント配線板)で基板伝送が実装されている(図1)。その場合、課題となっている点として、高周波になるほど伝送損失は大きくなってしまうという特徴がある。

 一方、図2では、ASICからI/Oへジャンパーハーネスで接続、伝送をさせることで、伝送損失を低減することを実現している。またPCBに実装されているASICは基板上の伝送が不可避であるが、できる限りジャンパーハーネスを接続するコネクターをASICへ近づけることで基板配線を短縮し、伝送損失を最小にできる。例えばヒートシンクなどコンポーネントの構成上ASICの周りのスペースの制約が厳しい場合にも、その下に配置できる高さの低いコネクターを使用できれば、基板伝送を最短化し伝送損失を最小限にすることが可能になる。このジャンパーハーネスソリューションに対応する低背省スペースコネクターによって伝送速度を確保できる。

図2 ジャンパーハーネス伝送

2.共振周波数

 SI性能向上のためのもう一つの要素として、共振を防ぐことがポイントとなる。

 例えば伝送速度64GbpsのPAM4(周波数16GHz)を想定したとき、従来の細線同軸コネクター製品では、13GHz付近までの伝送品質に問題は見られなかったが、17GHz付近にて共振が発生し伝送品質が悪化することが確認できた。(以下グラフ参照、従来製品の近端クロストーク〈Near End Cross Talk、NEXT=図3〉と遠端クロストーク〈Far End Cross Talk、FEXT=図4〉周波数において、それぞれ17GHz付近にて共振〈Resonance〉を示している)。

図3 近端クロストーク                    図4 遠端クロストーク

 共振周波数は、グランドパスの距離によって発生する周波数が変化する特徴がある。波長λが長くなれば、共振周波数は低周波で発生し、逆に波長λが短ければ、共振周波数は、高周波で発生する。

 この波長λの長さを調節するために採用したのがパドルカード技術となる。

3.パドルカード技術の活用

 パドルカード(図5)とは、FPCや基板のことを指し、グランドパスを簡単に追加でき、グランド性能を改善する。

図5 パドルカードコネクター

 パドルカードとケーブルははんだ付け接続されており、パドルカードの非接触部分の端子幅を狭くすることで信号線幅を特定の要件に合わせて調整することができるため、特性インピーダンスを簡単に調整可能となる。また特性インピーダンスが簡素化され、その結果、高周波帯域でのSI性能向上に寄与させることができる。

図6 従来コネクターの断面図
図7 パドルカードコネクターの断面図

 図6図7はそれぞれコネクターがレセプタクルに嵌合(かんごう)している状態を表し、プラグ部の構造の差により現れる共振エリア(緑色の部分)の幅の違いを示している。

 図6の従来製品のコネクターの場合、プラグの構造上、グランド経路を容易に設定することはできず、ケーブルと端子のグランド経路はグランドフィンガーで接続されている。その結果、コネクターとレセプタクルのコンタクト部分は一定の距離が必要になり、共振エリアの幅が長くなり、高周波帯域では不利な条件になってしまう。

 そこで図7のようにコネクターのプラグ部分をパドルカード(FPC)へ変更することで、グランドパスを容易に設置することが可能となる。結果、共振エリアを短くすることが可能となり、高周波帯域での伝送を実現できるようになる。

図8 近端クロストーク
図9 遠端クロストーク

 上のグラフ(図8図9)の赤い波形はパドルカード製品を使用したときの共振周波数を示したもので、NEXTとFEXTともに、33GHzまでシフトしていることが分かる。その結果、25GHz帯までの伝送が可能になったことを示している。また特性インピーダンスに関して、従来製品は約73Ωから94Ωの幅があるのに対し、パドルカード製品は約84Ωから93Ωへ改善されることを確認している(図10)。

図10 特性インピーダンス

 特性インピーダンスを改善することで挿入損失(Insertion Loss)および反射損失(Return Loss)も改善した(図11図12)。

図11 挿入損失
図12 反射損失

 当社の提供するソリューションと今後の展望

 これらの特性を踏まえ、当社では、SI性能向上に貢献するためにさまざまな機器やアプリケーションに対応できるパドルカード対応製品の開発に注力している。

 低背設計のコネクターにパドルカード接続を施し、接続できるケーブルとして細線同軸ケーブルに加え、Twinaxにも対応するCABLINE®-CA IIP PLUSジャンパーハーネスを開発、提供。それにより、さらなる伝送ロス(信号損失)の削減に貢献し、これまでの細線同軸線に比べ機器内での伝送距離も長く取ることが可能となる。PCIe Gen5.0に対応したAIサーバー機器や製造装置機器など、伝送データ量が膨大になる環境の中で、幅広いアプリケーションに柔軟に対応し、高速伝送における課題の解決手段を今後も継続して展開していく。

図13 CABLINE®-CA IIP PLUS

【伝送特性シミュレーション条件】
解析ソフト:Ansys HFSS 19.0
周波数:0~40GHz
ケーブル:細線同軸ケーブル、AWG#36,42.5Ω
ケーブル長:254mm(10inches)
コネクター両端付き
ピンアサインメント:GSSGSSGSSG(G:Ground,S:Signal)

【CABLINE®-CA IIP PLUSページ】
https://www.i-pex.com/ja-jp/library/news/i-pex-enterprise-solutions_leapwire_dualine_cabline_20230929

〈I-PEX(株)〉