2020.04.27 【テレワーク特集】新型コロナで在宅勤務本格導入
チームズでのビデオ通話は資料共有しながら打ち合わせができる(画像は今回のテレワーク特集の取材時のもの=撮影協力:大塚商会)
政府の緊急事態宣言発令を受け、時間や場所を選ばずに働く「テレワーク」の中でも在宅勤務を本格的に導入する機運が高まってきた。
これまで働き方改革の一環でテレワークの導入を推奨していたが、今や導入せざるを得ない状況になってきた。
新型コロナウイルスの感染拡大の勢いが止まらない中、人との接触を最大限なくす取り組みは個人だけでなく企業としても責任問題だ。今回は導入必至のテレワークに焦点を当てていく。
導入/予定企業は26% サテライトオフィス開設も
ここ数年、働き方改革の観点からテレワークの導入を推進する動きが活発になり、特に今年開催が予定されていた東京五輪・パラリンピックに合わせて首都圏では本格的なテレワークを実施する予定になっていた。
17年からは東京五輪開幕日の交通機関の混乱を防ぐとともに、働き方改革の推進を目指した国民運動「テレワーク・デイズ」がスタート。18年、19年と規模を拡大し、昨年は7月22日から9月6日までの期間で2887団体約68万人が参加した。
今年も東京2020大会の開催に合わせ、テレワーク・デイズ2020を開催する予定にしていた。
こうした動きもあり大企業などを中心にテレワークや在宅勤務を本格導入するようになっており、就業規則などを見直し19年ごろからは在宅勤務を本格的に導入する道筋をつけた企業も多かった。ただ企業全体で見るとまだ導入状況は途上だ。
総務省の調査結果(19年)では、テレワークの導入状況を見ると導入または導入予定の企業は26.3%。そのうち実際に導入しているのはモバイルワークが6割、在宅勤務が4割弱となった。
実際にテレワークを導入するにはICTの仕組みを導入するとともに働き方自体を見直す必要がある。
例えば外出先でも安全に社内システムに接続できる環境整備のほか、モバイルPCやスマートフォンといった持ち運びできる端末も必要になる。決済業務や申請業務などワークフローの見直し、ペーパーレス化などもしなければならない。
特に外出の多い営業などはオフィスに立ち寄らずに仕事をした方が移動時間が短縮できる。
在宅勤務だけでなく、ターミナル駅などの近くに仕事ができる拠点を設けるサテライトオフィスを開設するところもある。全国展開する大企業では、外勤社員が立ち寄れる環境をつくるケースも増えていた。
実際にテレワーク・デイズ2019に参加した企業は在宅勤務とモバイル勤務、サテライトオフィスを採用した企業や団体が最も多く23.8%、在宅勤務とモバイル勤務を採用した企業が21.3%と続いた。これはあくまでも業務の効率化を目的に自主的に改善を図るものだった。
テレワークを採用している企業の多くも在宅勤務の適用日数に上限を設けたり、対象者を子育てや介護など、特定の要件に限るなど制限をつけているところが大半。一部のテレワーク推進企業でも外勤社員を中心とした施策が多くを占めているのが実情だった。
在宅勤務のできない企業が多数
ところが、今回の緊急事態宣言は従来のテレワークの実施と目的が大きく変わっている。業務の効率化以前に、人との接触をなくすことが目的になったわけだ。
同時に、在宅勤務を利用したい人が使うのではなく、原則在宅勤務にすることが求められていることを見ても、今までとは全く違う。
3月初旬ごろまでは主要エレクトロニクス各社も在宅勤務を推奨する動きだったが、新型コロナの感染拡大を受けての学校休校や7都府県への緊急事態宣言発令で大きく変わった。もはや在宅勤務を選択するしかない状況になり、各社とも原則在宅勤務を徹底することになった。
現在は大企業を中心にホワイトカラーの部門は原則在宅勤務となり、工場など現場は〝3密〟を避けながらの運用をしているのが実情だ。特に緊急事態宣言が全国に拡大してからは一層強化する動きになっている。
その半面、在宅勤務を実施していない企業も多いことが浮き彫りになった。パーソル総合研究所の調査では、緊急事態宣言が出た後の出勤率が6割という結果が出た。政府は人との接触を8割削減することを求めているが、6割が出社していては到底削減目標には及ばない。
在宅勤務できない理由も様々だ。中小企業を中心にICTの環境が整っていないところが多いほか、経理部門など機密情報を持ち出せない部門、紙がベースのワークフローを採用している企業などは、ホワイトカラーでも出勤せざるを得ないという状況も明らかになった。
ただ在宅勤務の必要性は誰もが認識しているため、いかに勤務形態を変えていくかがこれから重要になってくるだろう。
コラボレーションツールに注目
緊急事態宣言発令後は、テレワーク環境の構築支援をするICT企業への問い合わせが殺到している。その多くが「在宅勤務したいが何をしてよいか分からない」というもの。また「ICTの仕組みはあるが活用の仕方が分からない」という要望もあるという。
今テレワークの導入に必要なのは、安全に社内システムに接続できるネットワーク環境とモバイルPCやスマホなどのモバイル機器、業務を円滑化するためのソフトサービスになる。
特に在宅勤務の際には出勤時と違って相対したコミュニケーションが取れない。ビデオ会議などのツールや情報共有などの仕組みも必要になる。
ここ最近注目されているのが、コラボレーション(協働)ツールだ。代表的なのがマイクロソフトのコミュニケーションハブとなるクラウドサービス「マイクロソフト・チームズ」。
ビデオ会議などを社内外問わず簡単にできるクラウド型のビデオ会議サービス「ズーム」も人気だ。最近はチームズを活用する企業がグローバルで拡大。昨年末にチームズの利用者は約2000万人だったが今年3月には3000万人を超え、3月末には4400万人を超えた。1週間で1000万人以上が増えるほど活用が広がっている。
チームズはチャットやビデオ通話がコミュニケーション手段になるため、今までの電話やメールなどとは勝手が違う。そのため、チームズを使いこなすためのセミナーなどは人気を集めている。主要ベンダーが行うチームズのセミナーは反響が大きいという。
ビデオ通話ではズームが一気に拡大している。一部でセキュリティの問題がありハッキングされるなどの被害も出ているが、社外などとも簡単にビデオ通話できることから根強い人気で企業の利用も多い。これからはこうしたツールの活用が普通になってくると見られる。
あるICTベンダーの首脳は「この時期だからこそ、働き方を抜本的に見直してもよいのではないか」と投げ掛ける。新型コロナを逆手にとり、在宅勤務を主軸にしたワークフローづくりが、今までになかった働き方の発想につながる可能性も秘めている。
別のICT首脳は「全社で在宅勤務を実施しているが、満足度は低くない。コロナ収束後も継続したい」という。これまでは在宅勤務が特別勤務だったが、今後は在宅勤務が普通になり、会社への出勤が特別になる日が来るかもしれない。その日のために今こそ在宅勤務の実現に向けた議論を積極的にすべきだろう。
新聞社の仕事も大きく変わりそうだ。これまで取材先に出向き面談での取材が中心だった。記者会見などもホテルや貸し会議室やホールなどを使い頻繁に行われていた。
これが新型コロナウイルス拡大に伴い軒並み中止や延期に。3月以降はとくに企業向けの発表に関しては会見や面談を避ける動きが広がった。
ところがこの1カ月で新たな動きが出てきた。製品発表や戦略発表などの記者会見はWebストリーミングになり、マイクロソフト・チームズやズームを使った会見なども増えてきた。
独自のビデオ会議サービスを使う企業も出ている。記者からの質問を受けたり挙手機能をつけて実際の会見のような工夫をする企業も出てきた。同時に個別の取材に関してもチームズやズームを使った取材に切り替わりつつある。
電波新聞社の取材先もこうしたICTを使った対応に切り替えてきた。今回のテレワーク特集の取材もビデオ通話で行った。
取材協力してもらった企業とビデオ会議で接続し資料を共有しながら面談をした。最初は慣れないものの、慣れてくればそれほど違和感なく取材などもできる印象だ。
本来は実際に会って取材するに越したことはないが、遠方での取材や時間調整などが困難な場合などはビデオ会議による取材も今後は有効な手段の一つになる可能性が多いにありそうだ。