2025.06.04 【探訪】アルプスアルパインの「未来工房」、歴史的な製品を多数展示

アルプスアルパインの「未来工房」

同社の創業期を支えた製品の一つであるエア・バリコン同社の創業期を支えた製品の一つであるエア・バリコン

現在のカーナビの先駆けとして、ホンダと共同開発した世界初のナビゲーションジャイロケータ現在のカーナビの先駆けとして、ホンダと共同開発した世界初のナビゲーションジャイロケータ

大ヒット製品となった国産初のUHFチューナ大ヒット製品となった国産初のUHFチューナ

創業以来のモノづくり精神を紹介

 アルプスアルパイン(東京都大田区)は本社社屋内に、創業時からの歴史や手掛けてきたさまざまな製品を展示・紹介するミュージアム「ALPS MUSEUM 未来工房」を開設している。会社への理解を深めてもらうための施設として社内教育などに活用しているほか、一部の顧客にも見学してもらっている。

米MSと共同で開発、日本初のマウス

 未来工房は、1948年の創業(当時は片岡電気)以来のモノづくりの精神を、製品開発の歴史とともに紹介する施設として、創立50周年記念事業の一環で98年に開設された。当初は本社社屋の近接地にあった旧アルプス電気研修センター内に開設されたが、本社社屋建て替えにより新本社ビルが2009年に竣工(しゅんこう)、10年にグランドオープンしたことから、12年6月に新本社ビル内に移転した。

 施設内では同社の創業からの歩みをパネルと製品展示により紹介している。今年3月、施設の一部をリニューアルし、19年の旧アルプス電気と旧アルパインの経営統合による統合新会社設立以降の最新製品の展示も大幅に拡充した。現在は一般公開はしていないが「社員への教育などに活用したり、お客さまに当社への理解をより深めてもらうために活用している」(同社)。

 「FIRST1・ONLY1・ナンバー1展示」コーナーには、スティーブ・ジョブズ氏から依頼を受け、「アップルⅡ」に採用された5.25インチFDD(フロッピー・ディスク・ドライブ)の100万台到達記念モデルをはじめ、アルパインとホンダが共同開発した現在のカーナビゲーションの先駆けとなる世界初のナビゲーションジャイロケータ(81年)、米マイクロソフトと共同で開発した日本初のマウス(83年)などを展示。

 同マウスは、二つの操作ボタンによる形状から「グリーンアイズ」の名称で親しまれ、その後、ソフトウエアの進化と製品の改良で、ワールドワイドで大きな市場シェアを獲得した。

 年代別コーナーには、同社の創業期を支えた製品として、第1号製品の「S型ロータリースイッチ」(48年)や、第2号製品の「B23中型バリコン(バリアブルコンデンサー)」(49年)などが並ぶ。S型ロータリースイッチは主に短波放送受信用のバンド切り替え用として使用され、通称「赤箱」と呼ばれた。B23中型バリコンは、アマチュアラジオ組み立て熱が高まっていた中で、性能の高さが評価されベストセラー製品となった。

業界先駆け、国産初「UHFチューナ」

 日本でテレビ放送が始まった53年の翌54年に国産初の製品として開発された「6チャンネルスイッチチューナ」は、民間放送のスタートとともに販売を開始し、後に同社がチューナーのトップメーカーに成長する土台となった。

 テレビブームの中で同社が業界に先駆けて開発したのは、国産初の「UHFチューナ」(63年)。当時はセットメーカーからの膨大な注文に生産が追い付かず、完成した数に応じて出荷先を割り振った。同チューナーの調達を希望するセットメーカーの担当者が同社に殺到したことから、当時は「雪谷通産省」とも呼ばれていたという。

 ほかにも、76年に市場投入され、現在でも高い市場シェアを有する「タクトスイッチ」、同社の世界初の卓上向けテンキーが採用された電子式卓上計算機、ブロードバンド時代を支え、一時は世界シェアが約8割に達した光通信用非球面ガラスレンズ、リテールビジネスの一環で開発されたペン入力パネル方式ポータブルパソコン「スタウティ」、MDプリンター(溶融熱転写式プリンター)など、同社の歴史を支えた多彩な製品が展示されている。

 19年のアルプスアルパイン発足以降の製品を紹介するコーナーは、「新たな価値の創造」と題し、ミリ波センサーや、宇都宮大学と共同開発した空中表示・入力デバイス「ステルス空中インターフェース」などの最新の開発製品をアピールしている。

 未来工房内では、創業当時の工場写真や、創業期に営業に使われたリヤカーの写真などがパネル展示され、48年に23人のメンバーでスタートした同社の歴史を振り返ることができる。

 企業文化の展示にも力を入れている。その一つが、同社がモノづくりを未来につなげるための活動として長年取り組んでいる「ものづくり科学スクール」だ。ものづくり科学スクールは、次代を担う子どもたちにモノづくりの楽しさを知ってほしいとの思いから、近隣の小・中学生を対象に電子工作教室を開催するボランティアイベントで、24年夏に累計参加者が3000人を達成した。

 さらに、「震災の記録」コーナーも設けている。同社は東北地方や新潟県に多くの工場を展開しているため、「新潟県中越地震」(04年)、「新潟県中越沖地震」(07年)、「東日本大震災」(11年)など、多くの大規模自然災害を経験してきた。これらの被災経験から得た知識や教訓を後世に伝えるための記憶ファイルを作成し、今後の災害対応に役立ててもらうことを志向している。

 なお、未来工房での展示製品は旧アルプス電気製品が中心だが、同社のいわき開発センター(福島県いわき市)には、旧アルパイン製品を中心に展示している「アルパインミュージアム」がある。