2020.09.04 【石油暖房機特集】デザイン性の追求進む在宅勤務定着で需要増予想

石油ファンヒーターなどでも、在宅時間の増加による新たな需要に期待がかかる

 冬場の暖房シーズンに向けて、メーカー各社から石油ファンヒーターなど暖房機の新製品が発売されている。今年は新型コロナウイルス感染症予防の観点から、ウイルスがまん延しやすい冬場はこれまで以上に「巣ごもり」する世帯が増えることも予想される。在宅勤務の定着もあって、足元を温めるスポット暖房としても石油暖房機の需要は高まりそうだ。成熟市場である石油ファンヒーターでも、デザイン性の追求が進んでいる。住空間に溶け込むインテリア性も付加価値として活発に提案されている。

 今年は石油ファンヒーター市場にも例年と異なる変化が起きそうだ。寒波の到来や暖冬といった季節要因で需要は大きく変動しているが、今年は新型コロナの影響も無視できない。17年度以降は前年を2桁以上割る状況が続いており、暖冬となった昨年度は156万6千台にまで落ち込んだが、大きくプラスに反転する可能性は決して低くないだろう。

製品開発でしのぎ

 石油ファンヒーターは専業メーカーが強みを発揮する分野であり、コロナやダイニチ工業、トヨトミなどが製品開発でしのぎを削っている。製品として成熟していることもあって大幅な技術革新は起きにくいが、北海道や東北などといった寒冷地を中心に一定の需要がある。社会的なニーズも反映しながら、毎年製品の改良を進めている。

 今年は石油ストーブにも注目が集まる可能性はある。11年3月に発生した東日本大震災以降、災害への備えとして石油ストーブの需要が急増。その後は徐々に減少していき、昨年度は87万8千台で着地した。

 今年は、在宅勤務の定着でスポット暖房に対する需要が高まるはずだ。石油ファンヒーターや電気暖房など、いくつか選択肢はあるが、足元からじわりと温めてくれる石油ストーブの需要も底上げされる可能性はある。

 それにつながる片鱗は既に見えている。コロナの対流型石油ストーブ「SL型」は、1962年に初代モデルを発売してから約半世紀もの間、ユーザーから支持されるロングセラーとなっている。特に昨今では、昔ながらのデザインが人気を集め、自宅だけでなくカフェなどへの導入が進むなど、石油ストーブの存在感や暖房性能が見直される動きも出ている。

 こうした傾向を受け、コロナは今年2月にフェイスブックとインスタグラムでカラーについてのアンケートを実施。人気のあったブラウン系を新色「あずきミルク」のSL型として、10月19日に発売することを決めた。9月23日から同社オンラインストアで先行予約を受け付ける予定。在宅勤務時の暖房としての提案も行っており、石油ストーブも新型コロナ禍で需要が押し上げられそうだ。

 トヨトミも「GEAR MISSIONシリーズ」として石油ストーブの提案を強化している。遊びを全力で楽しむためのギア(歯車)として利用されることを目指した製品で、20年度の限定カラーを発売するなど、石油ストーブの使用シーンが見直されていると言えよう。

 日本ガス石油機器工業会は、今年度の石油ファンヒーターの出荷台数は前年比11%増の184万7000台に回復すると予測する。石油ストーブは同4%増の96万3000台の予測だ。ただ、これは2月発表の予測であり、新型コロナの影響を十分に反映したとは言い難い。むしろ、新型コロナ禍の影響は測りがたいものがあり、実際に需要期を迎えてみないと「どうなるか分からない」という意見が業界関係者からは多い。

 冬物商材は、毎年10月頃から需要が立ち上がってくる。寒波や暖冬が最も大きな影響を需要に与えるが、灯油価格の高騰も需要変動には無視できない要素だ。使用する上でのランニングコストに直結してくる部分だけにユーザーもシビアに見ているが、最近では「灯油価格を気にするユーザーが減ってきた」という声が多く聞こえるようになった。それ以上に、製品の魅力を重視する傾向が強まっている。

 例えば、コロナは石油ファンヒーターの20年度モデル「VXシリーズ」で、デザインを強化。暮らしに溶け込むシンプルなデザインにリニューアルした。装飾的な要素を抑えたマットな質感に加えて、操作部や表示部を含めモノトーンにそろえてシンプルを追求している。

 トヨトミも灯油と電気で暖めるハイブリッドファンヒーターの新製品で、ディープレッドとシルキーホワイトの新色を追加。機能面では大幅な進化が難しい半面、トレンドを取り入れたデザインなどで付加価値を高めている。

 新型コロナで在宅時間が増えれば、石油ファンヒーターや石油ストーブについても、これまで以上にデザインを求められる傾向が強まりそうだ。

 社会環境の急激な変化により、石油暖房機器に限らず、様々な家電で従来とは異なる訴求が重視されるようになっている。従来モデルから搭載している機能であっても、提案の仕方によっては新型コロナ禍で再注目されることも十分あり得るはずだ。