2025.07.16 「モザイク」で切り開くダイヤモンドの未来 次世代半導体市場に備える イーディーピー

イーディーピーの1インチウエハー

2022年に上場したイーディーピーだが藤森氏は「市場に振り回されてきた」と振り返る2022年に上場したイーディーピーだが藤森氏は「市場に振り回されてきた」と振り返る

 次世代の半導体材料として注目を集める人工ダイヤモンドについて、産業技術総合研究所(産総研)発企業のEDP(イーディーピー)が4月、1インチ(約25ミリメートル)の単結晶ウエハーを発売した。ダイヤモンドはその優れた物性からパワー半導体や量子コンピューティングの材料として期待される。12月には2インチウエハーを発売する計画。2029年には、4インチウエハーの製造を目指す。

モザイク結晶で大型化

 イーディーピーはガスから薄膜を成長させる「CVD(化学的気相成長法)」、とりわけダイヤモンドの親結晶から同種の子結晶を成長させる独自の手法を採用している。産総研ダイヤモンド研究センターの元センター長で同社を設立した藤森直治社長は「量産性の高い優れた技術だ」と自負する。

 ダイヤモンドの単結晶を横方向に並べ、その上に新たな結晶を成長させ「モザイク結晶」を生産することで、大口径化を実現する。一般的には、半導体基板は研究開発レベルで2インチ以上、一定程度の規模を持った量産レベルで4インチ以上の直径が求められ、サイズの確保が大きな課題となっていた。

大型モザイク単結晶の製造法

イオン注入で複数の子結晶

 モザイク結晶の境界の部分で、方位のズレである結晶粒界を小さく抑え、品質を担保するのも同社独自の技術だ。タイル結晶の元となるそれぞれの結晶について、「イオン注入」という技術により、一つの親結晶から成長させた子結晶を使えることによってだ。

 ダイヤモンド上に同種の結晶を成長させる時、両者が一体化して一つの結晶となり、分離が難しい。そこで、成長前の親結晶の表面に炭素イオンを注入し、結晶構造が乱れた層をあらかじめ形成しておく。成長後に電解エッチングなどの処理を施すことで、その層のみを選択的に溶かし、子結晶を分離する。このイオン注入により、一つの親結晶から複数の子結晶を効率的に得ることができる。

 これらに加え、親結晶となる単結晶のサイズを大きくすることで同社は大口径化を進めている。同社は2月に30×30ミリメートルの単結晶の生産を発表、4月には直径1インチの単結晶ウエハーを発売した。これを4枚使ったモザイク結晶による2インチのウエハーの生産を12月に始める計画だ。29年には、50×50ミリメートルの単結晶を作り、それを4枚使った4インチのモザイクウエハーの生産を目指す。

イオン注入を活用したCVDのイメージ

3年で社会実装に期待

 2インチ以降のウエハー製造を実現することで、本格的な市場の立ち上がりに備える。量子センサーやパワーデバイスへの活用について、藤森氏は「あと3年間くらいで(デバイスメーカ―にダイヤモンド半導体を)担ってほしい」と期待する一方で、「そう簡単にはいかない」との見方も示す。

 藤森氏は「本格的にダイヤモンド半導体を作る時代になった時に、我々の4インチのウエハーを使ってもらいたい」と展望を語る。独自技術で磨き上げた結晶は、次世代デバイスを支える日を待っている。

<執筆・構成=半導体ナビ