2022.07.08 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<93>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤⑤

 公立小中学校のエアコン設置率は100%に近いらしいが、筆者が小中学生の頃には、どの学校にもエアコンがなかった。印刷物が風で飛ぶので扇風機も設置されておらず、携帯扇風機もあるはずがない。

 日照りで有名な四国の讃岐平野、それも直射日光を遮るものは何一つないあぜ道を20分ほど歩いて学校へ通っていた。学生服は太陽と体温で表裏からアイロンをかけられ、校門をくぐる頃には燃えるように熱くなっていた。そのため、狭い教室はまるでサウナのようだった。

変革を阻む六つの障壁(サイレントキラー)

 その中で40人あまりの生徒たちは、下敷きでバタバタとあおぎながらも、ワイワイガヤガヤ騒いでいた。そんな昭和の暑気払いといえば怪談話だ。中でも一番清涼効果が高かったのは、小泉八雲の『怪談』にある「耳無芳一の話」だった。

 琵琶法師の芳一が座する寺に平家の武将の怨霊がそっと忍び寄ったが、全身に経文が書かれていたので怨霊にはその姿が見えなかった。しかし、経文を書き忘れていた芳一の耳を見て「この耳を持ち帰るほかあるまい」と言って芳一の頭から耳だけを……、というくだりを先生から聞かされた時はさすがに身が凍り付き、暑さを全く感じなかったことを記憶している。

 さて、前回はローカル5Gを基盤としたデジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス変革に不可欠な「キラーアプリ」について述べた。「キラー」はさまざまな意味で使われるが、中高年になると気になるのが「サイレントキラー」だろう。文字通り「そっと忍び寄る殺し屋」という意味だが、本人の自覚症状がないうちに〝そっと忍び寄る〟「生活習慣病」という意味で使われることが多い。

六つの障壁

 最近は、VUCA時代のビジネス変革推進をやゆする際にもサイレントキラーが使われるようになってきた。ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授のマイケル・ビア氏によると、組織には「変革を阻む六つの障壁(サイレントキラー)」が存在するという。

忍び寄る組織の病

 ビア氏は、組織にそっと忍び寄る組織の病ともいえるサイレントキラーについて①方向性の見えない価値観②チームとして機能しない上位層③トップダウン的なスタイル④組織設計の不備による連携の欠如⑤人材開発への関心の乏しさ⑥組織の障害物を上に報告する恐怖心―という六つ(要約)を挙げている。

 そのうち、DXで変革を推進する際、特に留意すべき①と③④⑤のサイレントキラーに着目してみたい。

 まず①は前々回(第91回)で述べたように、組織の存在価値として、例えば「DX推進によってスマートファクトリー化を目指し、人手不足を解消する」というビジネス変革のパーパスを明示すれば打破することができるだろう。その意味では、パーパスは怨霊を打ち払う経文とも言える。

 次回解説する③④⑤については、ローカル5GやIoT、人工知能(AI)、ロボットをうまく連携させながら、ビジネスを一変させるキラーサービスを創出しようとする現場のビジネスユーザーの志をそぐ、サイレントキラーにほかならない。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉