2025.08.15 「AIでアニメ表現の拡大を」 映像制作のズーパーズースが変革期を視野に提言
ズーパーズースの中島代表。制作で生成AIを全面使用したアニメ映画「死が美しいなんて誰が言った」は国際的に評価を得ている(提供:ズーパーズース)
コンテンツ作りでAI(人工知能)による省人化や効率化を追い求めると、技術が流出する恐れがある――。そう警鐘を鳴らすのは、AIを活用した映像制作支援サービスを手がけるズーパーズース(東京都杉並区)の中島良代表だ。中島氏はAIの利点と限界を理解した上で、映像表現の幅を広げる補助ツールとして適切に使いこなす必要性を強調した。
2020年設立の同社は、アニメーションや実写映像を制作する会社。23年からは、AIによる革新的な手法をアニメ作りに取り入れている。
具体的には、「絵コンテ」「レイアウト」「原画」「動画」といった工程に、AIと実写撮影を採用。簡単な線画や文で指示を出していた伝統的な手法を変革した。
AIを活用して実写の動画をアニメ化することが特徴で、「(指示文の代わりに)自分の写真や自分の表情で伝えることが可能になった」(中島氏)という。
革新的なドキュメンタリー
同社はこうした手法を用いて、日本酒の魅力を探求するアニメドキュメンタリー「The Taste of Water(ザ・テイスト・オブ・ウォーター)」の制作に乗り出した。実写の主人公が日本酒を飲んだことで思い浮かべる情景をアニメで描く内容で、コンセプトアートをAIで動かす。26年春の完成予定だ。
まさにコンテンツ作りで存在感を高めつつあるAIだが、リスクもある。AIによる効率化や省力化を追求するあまり、コンテンツの制作技術を磨いて付加価値を高める取り組みが軽視。少ない費用で大量に生産することが重視されてしまう恐れがあるのだ。
中島氏は「賃金の安い地域で低コストの手法を使った量産が行われるようになり、技術だけが流出するという事態に陥る危険性がある」と指摘する。
同様の事態は、他の国内産業で顕在化している。それだけにコンテンツ産業の魅力を高める努力が不可欠だ。中島氏は、技能を磨くための教育環境の整備に加えて、作り手が活躍するための投資活動を積極的に進める必要性を説く。
シニアにも活躍の機会
AIがコンテンツ産業に急速に広がる時代に必要とされる人材像とは何か。中島氏は「ジェネラリスト」と強調する。これまでは、各分野に精通したスペシャリストを制作現場に配置し、大人数でコンテンツ作りを進めていた。今後は作業全体を把握した上で、AIから現場に役立つ回答を引き出す能力が試されるようになるという。
中島氏は「『誰が作ったか』が付加価値になる。その映像の背景にある文脈が大切だ。人生経験が豊富なシニアも活躍しやすくなると期待している」とも力説する。
同社は、人間の動作をデジタル情報として記録する「モーションキャプチャー」のスタジオを運営している。その施設を現在、「AIバーチャルスタジオ」へ改装中で、AIアニメを制作できる人材を育てる予定。さらに、フルタイムで働くことが難しい人に最終仕上げなどの作業を任せるなど、働き口を広げることにも意欲を示す。
「今後は暗黙知を言語化しAIに取り込ませるということにも取り組んでいきたい」と中島氏。先進技術を駆使してコンテンツ産業を支える同社の挑戦から、今後も目が離せない。