2023.06.09 生成AI時代の知財保護へ方策検討 政府が推進計画
会合に臨む岸田首相(右から2人目)出典=首相官邸のホームページより
政府は9日、首相官邸で知的財産戦略本部(本部長・岸田文雄首相)の会合を開き、「知的財産推進計画2023」を決定した。この中で、インターネット上の情報を基に文章や画像などを自動的に生み出す「生成AI(人工知能)」に焦点を当て、AI技術の発展とクリエイターの権利保護の双方に配慮しながら、必要な方策を検討する方針を示した。
知財計画では、「AIによる生成物が著作物にあたるかどうか」「AI生成物を利用・公表する際に著作権を侵害する可能性」「学習用データとしての著作物の適切な利用」という観点から、具体的事例に即して論点を整理し、考え方を明確化することを求めた。
さらに、生成AIがオリジナルに類似した著作物を生成するという懸念を示したほか、著作権侵害が大量に発生して「個々の権利者にとって紛争解決対応も困難となる恐れ」もあると指摘。その上で、必要な方策を検討する考えを明示した形だ。
内閣府によると、AI開発者が権利者の許可なしで著作物を学習できることを定めた「著作権法第30条の4」の例外規定にも言及。規定には「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には適用されないことが定められており、どういうケースが著作権者の利益を害するかという観点から考え方を整理する必要性も説いた。
また、米新興企業開発の「Chat(チャット)GPT」など万人が容易に利用できるAIが出現したことで、創作過程でのAI利活用の拡大が見込まれ、それによって生まれた発明を含む特許出願が増えることが予想されている。そこで知財計画では、AI関連発明の特許審査事例を拡充し公表する施策も重視。AI関連発明の効率的で高品質な審査を実現するため、特許庁の「AI審査支援チーム」を強化する方向性も盛り込んだ。
岸田首相は議論を踏まえ、「日本のイノベーションを活性化し、持続的な経済成長を実現していくためには、多様なプレイヤーが知的財産の価値を最大限に引き出す社会へと変革していくことが重要」と強調。その上で生成AIにも触れ、「責任あるAI、信頼できるAIの推進に向け、AI技術の活用促進と知的財産の創造インセンティブの維持の双方に配慮し、著作権侵害などの具体的リスクへの対応を始め、必要な方策を検討していく」と述べた。
知財計画ではそのほか、「スタートアップと大学の知財エコシステムの強化」や「官民一体となったデジタル時代のコンテンツ戦略の推進」などを柱として掲げた。