2024.01.22 【新春インタビュー】NKKスイッチズ 大橋智成社長

顧客の技術部門のニーズつかむ

 -ようやく新型コロナの状況が落ち着いてきました。最近の動向はいかがですか。

 大橋 2020年からのコロナ禍では、いろいろなことが起きました。誰もが経験したことのないことでしたので、当初はどのように対応したらよいのかが分からない状況でした。

 われわれへの影響は、20年にはコロナの影響で一時的に売り上げや受注が減少しましたが、20年8月をボトムに、その後はV字回復しました。さらに、21年2月に米国テキサス州で発生した大寒波に伴う大規模停電の影響により、化学メーカー工場の操業が長期間停止したことで、半導体や原材料などが調達難となり、以降、当社に対しても顧客からの先行発注が加速しました。その結果、当社の受注残も増加傾向が続きましたが、ようやく22年秋頃から新規の受注が落ち着きました。

 23年度(24年3月期)は前年度から継続する高水準の受注残を背景に、売上高の面では今年度も一定の実績を確保できていますが、受注は今までの勢いはなく、24年度は厳しい一年になることを危惧しています。

 -納期面の改善は進んでいるのですか。

 大橋 納期の改善は確実に進んでいます。ただ、先納期のものも多く、受注残高自体はまだまだ高水準の状況が継続しています。

 -23年の事業を振り返るといかがでしたか。

 大橋 最近はわれわれのビジネスモデルもいろいろ変化してきています。当社は、「『モノ売り』から『コト売り』への転換」を方針の一つに掲げて取り組んでいますが、それが徐々に浸透してきたと感じています。従来のように単にスイッチ単品を何個販売するかということではなく、われわれが有しているHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)技術、接点技術を活用し、制御関連分野の中でわれわれのドメインをいかに広げていくかという応用展開に力を注いでいます。その第一歩が進み始めたと考えています。

 -そうした「コト売り」重視の方針を社内に浸透させるために、どのように取り組んでおられるのですか。

 大橋 「コト売り」を実現するためには、顧客の技術部門に直接訪問し、潜在的なニーズを引き出すということが重要です。顧客の技術部門に受け入れてもらうためには、やはりそれなりの高い技術力を保有していることが必要になります。営業部門の中にも技術に優れた担当者はおりますが、それでも顧客の技術部門に訪問することは一筋縄ではいかないことが現実です。

 このため、開発部門の技術者の中から、数人のFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)を選定し、技術営業として、販売の最前線に投入する活動を始めています。

 -FAE導入の効果はいかかですか。

 大橋 営業活動を行える範囲が確実に広がっています。FAEは自分自身で製品サンプルを作れるので、それを顧客のところに持参して紹介しながら話をすると、そこから顧客との話が膨らみ、それによって今までは分からなかった顧客の潜在的なニーズを把握できるケースも増えています。また、そうした活動を通じて、顧客自体の当社の営業に対する見方も変わってきたように感じます。

 地域の営業とFAEがセットになって顧客の技術部門に営業活動をしていますが、FAEは人数も限られており、現在は全員が本社(川崎市高津区)で勤務しています。最近は、コロナ禍での経験を通じて、世界的にオンラインミーティングが浸透し、ビジネスにおいても社会がそれを認める風潮が生まれているため、オンラインミーティングを有効活用することで、1人のFAEが大阪や名古屋など地域を問わずに1日で4、5社の顧客とのミーティングができるようになっています。FAE導入は、5年ほど前から始めましたが、徐々に当社の受注率も向上してきていると報告を受けています。

信頼と納期を重点テーマに行動

 -現在推進中の中期経営計画の進捗(しんちょく)状況はいかがですか。

 大橋 当社は21年に、10年後の2030年のあるべき姿に向けた新たなグループビジョン「私たちが笑顔となり、お客様の困りごとを、顧客目線で解決する、真のパートナーとなります」を策定しました。その上で、22年度から、3カ年の中期経営計画を3回実施し、これにより30年度のグループビジョン達成を目指していく計画です。

 22年度からスタートした現中期経営計画(3カ年)では、新たな行動理念として、「信頼し、信頼される良い会社」を制定するとともに、特に「信頼」と「納期」を重点テーマとしました。現状ではまだKPI(重要業績評価指標)の目標には到達していないですが、着実に進捗していると実感しています。

 「納期」に関しては、一時的な改善はできても、根本から改善することは、なかなかできませんでした。納期を根本から改善するためには、いかに精度の高い部品を納期通りに集結するかが積年の課題でした。

 今回はそれを解決するために、部品の精度を左右する金型に着手し、更新や修正などの強化に徹底して取り組んでいます。また、さらなる原点は設計段階にあり、隘路(あいろ)部品の改造にも取り組んでいます。

 現在は、過去の何倍もの更新や修正された金型が完成したことによって、試作検査がキャパシティーを超え国内では賄いきれず、当社グループの海外工場などと連携しながら取り組んでいます。まだまだ、納期問題の100%解消には至っていませんが、ボトルネックの位置は確実に変化しており、こうした取り組みが、いずれは顧客からも評価されるようになるのではないかと考えています。

 -25年度(26年3月期)からスタートする次期中期経営計画の骨子などは考えておられるのですか。

 大橋 23年5月から、次期中期経営計画の策定に向けたエグゼクティブコミッティー(同社グループ内でのトップミーティング)を定期的に開催しており、現中期計画では、2030年に実現したいグループビジョンの土台づくりとして、まずは「信頼」と「納期」に重点を置き、その後中期計画では、販売や開発などの当社の各機能を強化していく予定です。

 -24年の市場をどのように見られていますか。

 大橋 足元の受注は弱い状況が続いていますが、それがいつ回復に転じるのかがポイントです。現状では先行受注の影響で部品が市場にだぶついている状況ですが、24年度下期あたりから再び受注が上向いてくるというのが業界全体での見方ではないでしょうか。

企業価値を上げ市場で存在感発揮

 -今後の設備投資戦略は。

 大橋 当社は23年に創立70周年を迎え、当社の生産子会社であるNKKスイッチズ パイオニクス(NSP)は創立50周年を迎えました。NSPは、1973年に設立され、当社グループの主力工場として多くのスイッチを世に送り出してきました。生産拡大に伴って手狭になった工場は増改築を繰り返しながら生産能力を増強してまいりましたが、建物や設備の老朽化が進んでいることや、拠点の分散化によって決して生産効率が良いとは言えない状況となっているため、23年6月に、横浜市戸塚区に新工場建設のための新たな工場用地を取得しました。新工場は24年度中に建設し、25年度からの稼働を予定しています。

 また、従来は本社に倉庫を配置していたのですが、洪水発生などの可能性を考慮し、BCP(事業継続計画)の観点から、倉庫を川崎市川崎区に移転しました。移転を機に、試験設備なども新調し、品質面や技術面の強化につなげる方針です。新試験室は24年2月の稼働を予定しています。

 -23年12月11日に創立70周年を迎えられました。これまでの歴史を改めて振り返るとどのように感じていますか。

 大橋 まず、産業用スイッチという単一の事業でよく70年間もの長期にわたって事業を続けることができた、というのが率直な感想です。ただ70年の歴史は決して順風満帆ではなかったと感じております。いつも荒波にもまれながら、必死にもがいてきた70年間でした。

 しかしながら一つ一つの苦労や経験が成長の踏み台になり、原動力となり、良きアイデアを生み、それを一つ一つ実現に結び付けてきたことが、今につながっていると思います。

 もう一つ思うことは、本当に人に恵まれた70年だったということを感じています。このように健康な状態で70周年を迎えられるのも、当社従業員や当社を卒業された諸先輩方はもちろんのこと、お得意さま、代理店さま、協力会社さまをはじめとする多くのステークホルダーの皆さまのお力添えの賜物と心より感謝いたします。

 今後も当社の理念である「Great Small Company」のもとで、企業規模を追求するのではなく、企業価値を上げることより、市場における圧倒的な存在感を追求していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。

(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)