2025.01.29 熊本で半導体の「実技」を学ぶ 中古装置販売の社長、教育への思い

「現場を知っている講師も強み」と話す田中社長

 TSMC(台湾積体電路製造)の工場が建設された熊本県。その南部に位置する水俣市に、実際に稼働中の装置を利用して半導体について学べる施設がある。半導体実技総合大学校だ。製造装置の中古販売を手掛けるアスカインデックス(東京都千代田区)が運営する。

 基礎から専門的な内容まで幅広くカバーした座学と、実際に半導体製造装置を使った実習を提供する。現場の技術者が講師を務めることや、学生に無償で研修を行うことも特色。今年4月から熊本県立水俣高校に設置される半導体専門の学科への技術支援も行う。大手メーカーから研修の依頼もあり、存在感を増している。こうした取り組みの根底には、田中礼右社長の教育に対する思いがあった。

クリーンルームでの実習の様子

半導体実習の難しさ

 各地での大規模な投資が注目を集める半導体業界にとって、人材確保は急務。電子情報技術産業協会(JEITA)は、今後10年の間に半導体部会に所属する主要9社で4万3000人の人材が必要になるとの試算を出している。

 しかし、半導体製造の設備をそろえるには莫大なコストがかかり、実習を通じて学ぶ機会はつくりづらい。その大きな要因は半導体製造ラインに必要不可欠な空気清浄度を保つクリーンルーム。一定の規模で半導体を作る上で必要不可欠だが、その施工にかかる費用は高い。

 そもそも半導体は電子部品の一つであり、普段実物を目にする機会がない。実習の機会をつくれない場合、全体像をイメージできないまま学ばなければならない。「実技」の難しさは大きな課題だ。半導体実技総合大学校はこの課題に対応する施設といえる。クリーンルームを備え、成膜など前工程を中心に装置がそろう。同社はここで、半導体の試作品を受託製造する工場としての稼働をメインとし、研修はその隙間に実施している。現在は7:3程度の割合で工場としての稼働が多いという。

「ほぼボランティア」…それでも続ける理由は

 研修は有償ではあるものの利益は少なく、「ほぼボランティアみたいなもの」(田中社長)だという。小学生から大学生までの研修は無償、遠方から研修を受講する場合には交通費や宿泊費を負担するという方針もある。たとえ研修プログラムが構築できる設備があったとしてもそれを事業化するには収益面での問題があり、田中社長自らが主導したからこそ実現した事業だ。

 そこまでして研修施設を作った理由を田中社長は「直感と、教育は必要なものだという思い」だと語る。もともと従業員の資格取得にも積極的で、人材育成に対する熱い思いがあった。TSMC進出による半導体業界の九州での盛り上がりによって、意図せず同社は注目を集めることとなった。研修事業で同社の知名度が上がったという面もあり、現在、研修事業は“広告塔”として役割も担う。半導体実技総合大学校をアピールするCMを熊本県と同社の拠点がある山梨県で放送している。

座学の様子

技術者による「生きた学習」

 1日のみで製造ラインの見学をするコースから10日以上にわたり座学と実習を織り交ぜて製造を学ぶコースなど、顧客に合わせてカリキュラムをつくる。実際の装置を使った実習は大きな強みだが、実物の材料や装置を見せながら教えられる座学もほかにはない。講師も工場で働く技術者が担当。田中社長は「生きた学習を提供できる」と自信を見せる。

 実際、半導体実技総合大学校の取り組みは注目を集める。大手メーカーからも研修の依頼があるという。田中社長は「大手の社員でも自分の部門外になると知らないことも多い」と話す。教育機関との連携も進む。4月から水俣高校に開設される半導体情報科のカリキュラム内でも半導体実技総合大学校を使うことを予定している。内容は同社に一任されているという。それに伴い、工場で稼働している装置だけでなく、研修用に後工程の装置も導入する予定だ。