2025.03.07 【育成のとびら】〈45〉「直近の状況に引きずられる」「極端な評価をつけられない」など評価エラーを防ぐには
近年、企業が中期経営計画を発表する際、人的資本経営の具体的なアクションプランを記載することが当たり前になりつつある。その中で、人事評価システムの見直しに取り組むと表明する企業も少なくない。
これまで日本の企業において人事評価は名目的な運用が多く、評価ルールがあっても実際にはほぼ全員に平均的な点数をつける運用が多かった。しかし、人材獲得競争が激しくなる中、人材の定着を目指し、成果と処遇が連動した運用へシフトする企業が増えている。
能力が高い人材に高い評価を与え処遇と職格を連動させることで、組織の生産性向上や従業員の能力開発、意欲の高い人材の定着などにつなげることができるからだ。
実際に、2024年に当社ALL DIFFERENTが企業の人事責任者・人事担当者340人を対象に行ったアンケート調査でも、「人事部として取り組みたいテーマ」として半数以上の企業が「人事評価」を選択している。
ただ、より良い人事評価の仕組みを構築したとしても、評価者が適切な運用を行わなければ組織の生産性向上や従業員の能力開発には結び付かない。では、適切な運用とはどのようなものだろうか。
多くの企業が注意すべきポイントとして、評価者による「評価エラー」がある。評価エラーとは、主観などが入り込み不適切な評価を誘発する要因を指す。
当社とラーニングイノベーション総合研究所が管理職484人を対象に行った調査で、「部下を評価する際の、自身の課題は何か」と質問したところ、評価エラーに関するものが上位に多く挙がった(図)。
「評価時、一人一人十分に時間を取ることができない」が28.7%で最も多く、「評価の期間全体で評価せず、直近の部下の状況に引きずられてしまう」(26.2%)、「チーム内で極端な評価をつけることをためらってしまう」(23.1%)、「部下に嫌われたくないために、厳しい評価から逃げている」(19.6%)、「部下に対する情や好き嫌い、苦手意識で評価が影響してしまう」(16.3%)などが続いた。
評価エラーの予防策
調査結果で上位となった「直近の部下の状況に引きずられてしまう」「チーム内で極端な評価をつけることをためらってしまう」などは、それぞれ期末効果、中心化傾向と呼ばれる評価エラーだ。
このような評価エラーを防ぎ、公正な評価をするためには、評価ガイドラインの作成や、評価の根拠となる事実の記録と収集が求められる。
特に企業規模が大きく職種や階層が複雑な場合は評価者の数も多くなり、評価の基準がズレやすい。結果、同程度の能力や成果であるはずの社員が、部門ごとに異なる評価を受けるリスクが発生する。
こうした評価者によるズレを防ぐには、評価基準の具体例などを記載した指針(ガイドライン)を作成するだけでなく、ガイドラインと評価の妥当性を判断するための、事実の記録と収集が欠かせない。
さらに評価に納得感を生むためには、評価者だけでなく、被評価者も人事評価制度の基準や考え方について理解しているか確認することも必要だ。毎回の評価面談の冒頭で、どのような基準や根拠で評価が下されているのか、改めて認識をすり合わせる時間を数分確保するといった地道な取り組みも社員一人一人の理解を得るために有効な手段だろう。(つづく)
〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉
【次回は3月第4週に掲載予定】