2020.09.03 【コネクタ技術特集】 5G通信用コネクタの技術

[写真1]次世代高速通信用マルチRF対応基板対基板コネクタ(ヒロセ電機)

 コネクタメーカー各社は、第5世代移動通信規格5Gの本格始動に対応し、5G通信用コネクタ(端末用/インフラ用)の開発や市場投入を活発化させている。各社は、コア技術を活用し、5G通信の高速化・高性能化・広帯域幅に対応したデバイスの開発を加速させ、最適なソリューションの提供に力を注いでいる。

 5Gでは、急ピッチで整備が進む基地局に各種のコネクタが搭載されるほか、今後の本格化が見込まれる5G対応スマートフォンも、アンテナ用コネクタなどの需要増につながるものとして期待されている。コネクタ各社は、長年蓄積してきた高速相互接続技術やRF技術、微細精密加工や防水対応、熱対策などの技術を駆使することで、最適な提案活動を推進する。

 TE Connectivity(日本法人=タイコエレクトロニクスジャパン)は、5Gに対応する高速伝送対応内部接続用コネクタの展開を強化している。

 同社の「Sliverハイスピード・ケーブルコネクタ」は基板内ルーティングをケーブル化するコネクタ・ソリューション。数年前から量産化したPCIe Gen4対応「Sliver1.0」(25Gbps)に加え、5G対応製品として「Sliver2.0」(56Gbps)も開発している。Sliver2.0は、5G基地局や5Gアンテナなどの内部での使用が可能な高密度実装対応の0.6ミリピッチ表面実装コネクタ。Sliverファミリーは、TEの高速ケーブルを使用して高速伝送を達成しながら、リタイマーと高価な低損失プリント基板材料を不要とすることで設計を簡素化し、システム全体のコストを削減できる。

 ヒロセ電機は、5G端末用に最適なマルチRF対応基板対基板コネクタ(写真1)の拡販強化に努めている。

 同社の「BM46シリーズ」は、5G対応のモバイル端末向けに開発されたマルチRF対応基板対基板コネクタ。マルチRF対応により、「RF×複数化」と「デジタル信号」をひとつのコネクタに収めることが可能になり、セットの小型化と生産性向上に貢献する。ピッチ0.35ミリメートル、嵌合高さ0.6ミリメートル、奥行き2.0ミリメートルと小型ながら優れた高周波特性を実現し、金属による補強でコネクタの嵌合破損リスクを軽減する堅ろうな製品。マルチRF対応BtoBで、世界最小クラスの奥行きを実現。12GHzまで対応し、良好なRF信号伝送特性を実現した。

 BM46シリーズは今年1月に米国で開催された「CES2020」で、モバイルデバイス&アクセサリーズ部門のイノベーションアワードを受賞している。

 日本航空電子工業は、5G対応スマホ向けの基板対基板コネクタ(写真2)の拡販に力を注いでいる。スマホの5G対応によるコネクタの変化(①アンテナ・5Gモデムなどの接続部位追加②バッテリの大型化、パワーマネジメントの高度化対応③コネクタの小型化と伝送特性の両立)を捉えた提案により、ビジネス拡大を目指す。

[写真2]0.35ミリピッチ電源端子付きスタッキングタイプ基板対基板コネクタ(日本航空電子工業)

 バッテリの大型化やパワーマネジメントの高度化対応では、電流容量10A対応の電源用基板対基板コネクタ「WP10シリーズ」を提供。仕様は、0.4ミリピッチ、2列、スタッキング高さ0.7ミリメートル。摩耗に強く、接触信頼性の高い素材面接触構造。同社ではさらに、10Aを超える電流容量も視野に入れた製品の開発も進める。小型化と伝送特性の両立では、0.35ミリピッチ基板対基板コネクタ「WP27Dシリーズ」を提供。仕様は、0.35ミリピッチ、2列、スタッキング高さ0.7ミリメートル。信号端子は10Gbps対応可能。5G化に伴う接続部位追加に対しては、既存コネクタとは異なるシールド構造による新製品を開発している。

 SMKは今年8月、業界最小クラスの基板占有面積を実現した、5G対応アンテナ接続用基板対基板コネクタ「RB-1シリーズ」を開発したと発表した(写真3)。既に受注活動および量産を開始しており、次世代移動通信規格5G対応のスマートフォンやタブレット端末などでのアンテナ接続用コネクタとして展開する。

[写真3]5G対応アンテナ接続用基板対基板コネクタ(SMK)

 RB-1シリーズは、ピッチ0.35ミリメートル、嵌合高さ0.6ミリメートル、奥行き2.1ミリメートル(10、12、14極共通)と業界最小クラスのサイズを実現しながらも、優れた高周波特性を有している。プラスマイナス0.25ミリメートルの誘い込み構造(嵌合アライメント)と金属シェル同士が接触する構造により、嵌合時の作業性と堅ろう性を確保する。同時に、高い保持力を持ち、耐落下衝撃性や耐振動性にも優れている。

 小型多極ながら、使用周波数DC-12GHzまでをカバーし、良好な高周波特性を確保。嵌合時のプラグとソケットの金属シェルによる誘い込み構造により、容易な嵌合と高い堅ろう性を実現。フローティング付きプローブを使用することにより、多極ピンの高周波測定が可能。基板占有面積は10極品で、7.98平方ミリメートル。ソケット外径は10極品で、2.1ミリメートル×38ミリメートル。挿抜寿命10回。

 ケルは、5Gなどをターゲットとした戦略的製品として、最大32Gbpsの高速差動伝送対応の0.55ミリピッチ高性能同軸ハーネス「TSLシリーズ」を開発、今春から販売開始している。高速伝送に特化した次世代ハーネスとして、5Gや4K/8K放送機器などの用途への提案を強化し、主力製品の一つに育成していく方針。

 TSLシリーズは、市場で要求されるさらなる高速伝送に対応した次世代ハーネス。同製品は、高速伝送を実現するため、コネクタの材料・形状・寸法調整によるインピーダンスコントロールに加え、グランドの落とし方や伝送経路をなだらかにすることで、共振対策を行っている。接触信頼性にかわる有効嵌合長は0.5ミリメートルで設定し、インサートの滑り込み量を削減している。伝送特性に関わるスタブ長の設計も最適化し、減衰量を改善。従来の極細同軸ケーブル用コネクタで既に採用している多点グランド機構や、金属シェルカバーでコネクタ全体を囲い込む構造を継承し、ノイズ対策を強化している。

 同シリーズは、東京特殊電線(TOTOKU社)の高性能ケーブル「RUOTA(ルオータ)」と組み合わせることにより、低損失・低スキューを実現している。さらに、ハーネス製品としてケルが品質保証を行う。

 このほか、産業用コネクタメーカー各社による、5G通信インフラ向けの高速伝送用コネクタ開発や、5G普及を視野に入れた自動化設備向けコネクタ開発なども活発化している。